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メルセデス・ベンツが安全と言われる理由 ドライバーと歩行者を守り続けた開発哲学を知る

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TEXT: 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)  PHOTO: MBJ、ヤナセ、妻谷裕二、Auto Messe Web編集部

クルマ事故から身を守る世界初の前後衝撃吸収式構造 

 自動車を発明したメーカーの責任として、メルセデスは常に革新の安全技術を研究開発。これまで「安全性」を標準装備してきた。

 1951年に「前後衝撃吸収式構造」と「頑丈なパッセンジャーセル構造」の特許を取得。1953年には、この世界初の衝撃吸収式構造ボディを採用した量産乗用車”180″を発表(セミモノコック)した。

 その6年後、1959年8月に生産を開始した”220Sb”(通称;羽根ベン)で、衝撃吸収式構造ボディ(モノコック)を完成し、乗用車のボディ構造に大きな改革をもたらした。しかも室内はステアリングホイールやインストゥルメント・パネル等に衝撃吸材を使用、埋め込み式ドアハンドル、脱落式ルームミラーをすでに採用。セーフティセルと呼ばれる安全車体構造は、乗員が乗る客室の剛性を上げ、その前後構造に衝撃吸収能力を持たせたものだ。

 また。メルセデス・ベンツは正面衝突した場合、ボディ先端に10の衝撃エネルギーが加わったとすると、客室のフロント/Aピラーには1の衝撃しか伝わらない構造にしている。つまり、大半の衝撃エネルギーを吸収し、10分の1にまで弱めるというもの。この構造が今日の全自動車の安全ボディの基本となっているのは周知の通りだろう。

 

お互いの安全のためのコンパティビリティ

 メルセデスの「コンパティビリティ」とは、共生・相互安全性の意味でこれに対応する受動的安全設計を採用している。衝突時の相手車両や歩行者、自転車などへの影響を考慮し、相互の安全性を可能な限り確保するメルセデス安全哲学の一環。メルセデスがこの哲学を元に世界で初めて市販車に本格導入したのが、1995年に発表したW210型メルセデス・ベンツ Eクラスだ。

 自らの衝撃吸収能力をより高めることで生まれたクラッシャブルゾーンの余裕を相手方の車両と分かち合う技術。エンジンやステアリング機構、フロント・サスペンションなどエンジンルーム内の主要メカニズムを「インテグラルサポート」と呼ばれる別枠に取り組み、それを車両側に取り付けるという特別な構造だ。

 現在、この考え方はすべてのメルセデス・ベンツ車に反映され、衝突時に車体前後が相手車両の衝突エネルギーを吸収し、より小さな車両の乗員に及ぶ危険をできる限り回避するように設計されている。

 メルセデス・ベンツの全モデルの客室は極めて頑丈に設計されているが、自車の保護と相手車両の保護を両立させるために、下記の項目が考慮されている。

  • 万が一の事故発生時、大型車及び小型車の相手のクラッシャブルゾーンが一致してかみ合うように、また乗り上げあるいは、潜り込みの危険を最小化するようにボディ設計をすること。
  • 大型車の場合は、小型車の衝撃を吸収して乗員に対する衝撃を軽減する為、クラッシャブルゾーンをできるだけ長く取るように設計すること。
  • 構造的に大きさに限界のある小型車の場合、クラッシャブルゾーンの剛性を比較的高く設計して大型車側のクラッシャブルゾーンを有効に利用できるようにすること。

 

ドアロックに盛り込まれた様々な安全思想

 メルセデスの「セーフティ・ドアロック・システム」は、今も昔も「南京錠に心張り棒」を一度に掛かけたもので、この”完全武装”によって客室の乗員を守る。一般道でのシートベルトが義務づけられる以前の話だが、高速道路の入口では「シートベルトを締めて、ドアロックをして下さい」との表示がよく見かけられた。但し、メルセデスだけは例外だった。

「メルセデス・ベンツに乗ったら、シートベルトを締めてドアロックはしないで下さい」なのだ。

 以前のメルセデスは、1958年に取得した特許の「セーフティ・コーンタイプのドアロック」を使っていたが、これは内側からロックする必要のない当時であったからだ。この特殊形状のドアロックは太いピンがドア側に、一方ポスト側にはこれを受ける頑丈なボックスが付けられていた。このボックスは中央にドアロックピンをはめ込むテーパー付きの穴が開けられていた。ピンは先が細くなっている円錐型。従って、左右上下から掛かる力にも強いことになっていた。

 雄と雌がガッチリと交わる方式なので、ドアを閉めた時にはあの「ドスッ」と重量感あふれる音がした。この音が「大型冷蔵庫並み」といわれたのは有名な話。更に2段階の普通のカギ状ロックが掛かる。即ち、普通の車の場合はカギ状のロックだけで、これでは橫方向には強いが、その他の方向(左右上下方向)からの衝撃が与えられた場合に、破損する恐れもある。

 メルセデスに於いては、このカギ状ロックに前述のセーフティ・コーンタイプのピンをプラスした2重構造になっていたわけで、云わば「南京錠と心張り棒」を一度にかけた形となり、まさに完全武装。このセーフティ・コーンタイプのドアロック方式の場合、セーフティセル構造の客室とあいまって、多くの実験により衝突時にショックでドアが開かないことが実証されていた。

 また、ぶつかったメルセデス・ベンツのドアが必ず開くことも実証済み。事故が起こってしまった時に外部からドアが開き、少しでも速く乗員を救えるようにするには、ドアが内側からロックしない方が良いというわけだ。

 メルセデスの考えるドアロックにはもうひとつの仕掛けがある。大半のドアハンドルは押して開くタイプなのに反して、メルセデスのドアハンドルは昔から引っ張って開ける方式だ。特に以前のメルセデスにはドアの内側に独特のカウンター・バランス・ウェイト(錘)が付けられていた。外側からドアハンドルを押したり、橫から車がぶつかってきた場合、”梃子の応用”でこのカウンター・バランス・ウェイトがドアを開かない「歯止めの役目」を果すように反対側に傾く。そしてバランス・ウェイトは一度傾いたら、どんな衝撃をドアの外側から与えてもドアはガンとして開こうとはしなかった。即ち、ドアハンドルを外側から引っ張った時にだけ、カウンター・バランス・ウェイトも元戻りにドアが開かれることになっていた。そして現在のメルセデス・ベンツはドアをリモコン操作で簡単に開閉ができ、ずいぶん便利になったのだ。

 そしてドアロックの形状は以前より「大型のカギとキャッチ」になっており、さらに車速が15km/h以上になると、セントラル・ロッキング・システムが作動し、ドアとトランクが自動的にロック。「ガシャ」という音とともに盗難や強盗防止に一役買うのである。

 また、室内には開閉スイッチがあり自動ドアロックを必要に応じて操作可能に。セントラル・ロッキング・システムのリアSAMコントロール・ユニットには、補助クラッシュ・センサーが増設されており、事故が起こった時には、車内のCANバスを介して瞬時に左右のフロント・リアドアのコントロール・ユニットに「緊急開放信号」が送信され、ドアロックが解除される仕組みになっている。

 従って、外部からドアを開くことが可能で、いち早く客室の乗員を救出できるシステムになっているのわけだ。加えて自動的にハザードランプが点灯し、後面の車両に非常事態であるという信号も送るのである。

 もうひとつ、リアドアにはセーフティ・ドアロックの下側にはイグニッションキーを使って簡単に操作できる小さなレバーがある。これは、以前から取り付けられている「チャイルド・プルーフロック」と呼ばれるもので、車内からリアドアのみ開けられないシステムになっており、レバーを上にあげると解除できるというものだ。

 万が一、子供がいたずらして室内のリアドア・レバーを引いても、リアドアは開かなくなるので、安全でしかも安心して家族ドライブが楽しめるこの独特なシステムは今昔も同じ。

 このように、メルセデスのセーフティ・ドアロックは以前のシステムから現在では電子制御システムへと進化。以前と現在のモデルでは、システムの違いはあるが、「客室の乗員を守る」という安全性では同じだ。

 

安全のためにはマスコットすら頭を下げる

 メルセデス・ベンツのシンボルであるボンネット上の「スリーポインテッドスター」をよく眺めてみると、ラジエーターグリルの縁から立っているのではなく、その手前、つまりボンネットの塗装面にあることに気づく。1991年のメルセデスベンツSクラス(W140)から移動、採用されたものである。

 昔のクルマはラジエターキャップが露出しており、その上にマスコットを立ててキャップを回し易くするという役目だったが、いまは誇り高きメーカーのアイコンとして鎮座している。のちにラジエーターがボンネット内に収納されるようになっても、シンボルとして生き残ってきた。

 特に以前のメルセデスのボンネット上のマスコットは、ドライバーにとっては路上センターをまっすぐ走る目印や前方の車との距離間を測るメジャーの役目、また左右に曲がる時のボディ間隔もうまく掴むことができるものだった。

 すなわち船首や櫓の役目を果たしてくれ、スリーポインテッドスターのマスコットを見て走れば安心だった(日本では慣れない左ハンドル車ではラク)。また、マスコット自体は可倒式(バネつき)なので、万が一、歩行者が間違って当たっても安全。メルセデスでは、安全のためにマスコットすら頭を下げるのである。最近のモデルではSクラスを除き、グリルセンターに集約されてスポーティ化されている。

 

歩行者や自転車に対する安全性

 ボディ全体は丸みを持たせ、しかも突起物は可倒式にし、道路使用者の安全性を重視している。ドライバーや助手席や後席に乗っている人の安全はもちろん、歩行者や自転車の安全性を考えることも、事故の被害を最小限に抑えるためには重要だ。

 例えば、フロントバンパーは歩行者と最初に接触することが多いため、発泡材を詰めた埋め込み型の「衝撃吸収構造」を採用。加えて”合わせガラス”製のフロントガラス、可倒式サイドミラー、丸みを帯びたドアハンドル、埋め込み式フロントガラスワイパーなど、長年に亘って歩行者保護という観点で開発している。

 またヘッドライトは、ボディへの取り付けをステー構造にしている。このステーは十分な強度を確保しながらも、衝突の際には容易に破損するように設計されており、歩行者の安全性を確保。衝突の際に押されると、ヘッドライトユニットがボディ内側へと押し込まれるように設計されている。ヘッドライトが緩衝剤となり、効果的に衝撃を和らげるのだ。

 また、事故調査によると、歩行者はボンネットで頭部を強打して負傷するケースが多いことが判明。これは、ほとんどの車がボンネットの裏側に補強をしているから起こるもの。しかし、メルセデスは歩行者保護のため、ボンネットに補強材を以前から使用していない。他にも例えばCクラスセダン(W204〜)では、歩行者の頭部がボンネットに当った場合、衝撃を和らげるため”変形”するように設計されている。

 このボンネット内の変形部分は、エンジン、ストラットタワー、リザーバータンク、制御ユニットなどの位置を下げ、ボディまでの空間を確保することで拡大。さらにEクラスのセダン/ワゴンのW212/S212には、歩行者の安全性をさらに高めるため、画期的な「アクティブボンネット」が採用されている。仕組みは衝撃が発生すると、フロントバンパー内のセンサ-が感知し、スプリング式のエンジンフードの後端が瞬時にして約5センチ持ち上がるというもの。エンジンフードとエンジン間の空間が広がり、歩行者が受ける衝撃をさらに緩和するのである。 

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  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 1949年生まれで幼少の頃から車に興味を持ち、40年間に亘りヤナセで販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特にメルセデス・ベンツ輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版のカタログや販売教育資料等を制作。またメルセデス・ベンツの安全性を解説する独自の講演会も実施。趣味はクラシックカー、プラモデル、ドイツ語翻訳。現在は大阪日独協会会員。
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