5)EJ20——30年かけて研ぎ澄まされた円熟のフィーリングを味わう!
2リットルターボクラスで名機として挙げられる三菱の4G63型とスバルのEJ20型。ともにWRC(世界ラリー選手権)で活躍し、エンジン性能を磨き上げてきたという点では甲乙つけがたいが、熟成度という点でここではEJ20型を取り上げたい。
名機と呼ばれる理由は30年間にわたって進化し続け、数値だけでなく気持ちよさまで磨き上げられてきたことだろう。数値的には1989年1月に登場したレガシィの220ps/27.5kg-mから最終モデルのWRX STIでは308ps/43.0kg-m、スバルのモータースポーツを統括するSTI(スバルテクニカインターナショナル)が製作した手組みのコンプリートエンジンに至っては329ps/44.0kg-mと同じ型式ながら30年間で109ps/16.5kg-mも向上している。
そこまでパフォーマンスを引き上げられた理由は基幹エンジンとして、長く使い続けるため最初の設計段階に余力を持たせていたこと、WRCで勝つために戦闘力を高める必要があったためだ。そのため、メカニズム面に新機構を毎年導入し、手を入れていった。
ただ、’07年の3代目以降のWRX STIからは数値が変更されておらず、このあたりからはハードウェアの変更ではなく、ユニットの持つ潜在能力をその時の最新技術で年々変化する環境性能を含めて磨き上げている。これによって信頼性も含めて円熟味を増したエンジンに仕上がっている。最新こそ最良かもしれないが、長年積み重ねにより仕立てられた上質な味わいも捨てがたいものだ。
6)F6A——軽自動車で200㎰を引き出せる高い強度と耐久性が魅力
名機は大排気量だけでなく、軽自動車にも存在する。普通車と異なり現在も馬力規制が存在するので馬力はどのメーカーも64㎰で横一線。スペックの差はトルクで比較することになるのだが、ノーマルエンジンで見るとダイハツの直4DOHCターボであるJB-DET型の11.2㎏-mがスペックでは抜きんでている。
しかし、潜在能力と考えると3代目アルトワークスやカプチーノなどに搭載されたF6A型の方が上だろう。このエンジンは軽自動車最強と呼ばれた初代アルトワークスに搭載されたF5A型(547㏄、64ps/7.3kg-m。ショートストロークエンジンで軽く1万rpmまで回った)の排気量を拡大したものだ。
スペック(64ps/8.7kg-m)的にはライバルのダイハツのミラTR-XX(10.2kg-m)や、三菱のミニカ・ダンガン(9.9kg-m)よりも劣っていたものの、モータースポーツでの使用を前提として設計され、ラリーやダートラなど土系競技で活躍。チューニングのベースとしても長年重宝されてきた。
何より鋳鉄ブロックを採用することで強度と耐久性、信頼性が高く、エンジン内部まで手を入れるとベース車の約2倍の120㎰まで簡単に高めることができた。さらに耐久性をある程度無視したフルチューンとなるとなんと約3倍の200㎰前後までパワーアップが可能と、素材として魅力的なエンジンであった(つくばサーキットを1分5秒台で走るクルマも…)。
ただし、1990年~1995年までの5年間しか製造されておらず、最終型から25年以上経過しているので程度のいい個体は少なくなってきている。