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これぞスポーツカー! これぞポルシェ! 「911」を生み出したプロトタイプ「754 T7」とは

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TEXT: 原田 了(HARADA Ryo)  PHOTO: 原田 了、Porsche、Auto Messe Web編集部

スポーツカーの象徴「ポルシェ911」誕生の陰にあったプロトタイプ

 ポルシェを代表するスポーツカーであり、今やスポーツカーのアイコンともなった「911シリーズ」へとつながるプロトタイプのTyp754 T7を紹介します。ポルシェを名乗った最初のモデル、ポルシェ356から現代へと続く911。Typ754 T7は、2台の橋渡しを務めたプロトタイプで、最大の特徴は2+2ではなくフル4座だったことでした。

親から子、そして孫へと代々受け継がれたクルマへの情熱

 ポルシェ社を創設したフェルディナント・ポルシェ博士は、フォルクス・ワーゲンの「タイプI(Volks Wagen Typ 1)」、いわゆる“ビートル”を設計したことでも知られています。

 そして博士の息子、愛称の“フェリー・ポルシェ”で知られたフェルディナント・アントン・エルンスト・ポルシェは、タイプIをベースに2座スポーツ(のちに2+2に発展)のポルシェ356シリーズを設計開発。さらに“フェリー”の息子で博士には孫となるフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ(愛称“ブッツィー・ポルシェ”)は、父“フェリー”が設計開発した356の後継モデルとなる911シリーズをデザインしています。まさに親子孫と3代続けてクルマに対する情熱を放ち、名車と呼ばれるクルマたちを生みだしてきた訳です。

 博士が生み出したタイプIは2ドア4座のコンパクトカーで、彼が描いていた『ドイツの一般家庭の誰もが購入できる価格で実用的かつ進歩的な小型経済車』に則っていました。 ツュンダップ・フォルクスアウト(ポルシェ・タイプ12)やNSUプロトタイプ(ポルシェ・タイプ32)、そして時のドイツ政権に就いたアドルフ・ヒトラーのサポートを受けて開発が進んだVW3(ポルシェ・タイプ60)など、タイプIが誕生するまでには、いくつものモデルが試作されていますが、リアに空冷エンジンを搭載した2ドアの4座という基本的なパッケージングには、全くブレがありませんでした。

 こうして生まれたしたタイプIをベースに誕生した356は、初めてPorscheを名乗った量販スポーツカーとして知られています。基本シルエットはタイプIに通じるところもありますが、長距離レース用に製作されたレーシングカー、タイプ64により似通っています。

 356の初期モデルは2シーターで、後に後部座席を備えたモデルも登場しますが、4シーターを謳う程にはスペースを稼ぎ出すことはできず、2+2として認知されていきました。しかし、1948年に初の量販モデルが登場してから生産を終了する65年まで、17年間のモデルライフの中ではTyp530と呼ばれるスタディモデルが試作されたこともありました。

 これは356を2+2からフルの4座へとコンバートしたもので、手許に詳しいデータがないので正確なところは分かりませんが、ホールーベースを少し伸ばしてリアの居住スペースの、より大きな前後長を稼ぐとともに、ルーフラインを手直ししてキャビン後半に向かった全高を引き上げていき、十分なヘッドスペースを確保しています。

 356の後継モデルとなる911を開発するにあたり、いくつかのプロトタイプが登場していますが、Typ530でトライされた手法で、フル4シーターにトライしたことがありました。これが今回のストーリーの主人公となるTyp754 T7です。

 356に比べて3.9インチ(約10cm)延長されたホイールベースと、かさ上げされたキャビン後部のルーフなど、先のTyp530と同じ手法でフル4シーターを模索していました。このT7をベースに2+2のT8とフル4シーターのT9が開発されることになりましたが、最終的には「一目でスポーツカーと分かるデザインでなくてはならない」という開発計画を統括した“フェリー”の判断により、現在に至る911の基本デザインが決定することになりました。

 確かに、現在ではスポーツカーのアイコンとなった911シリーズの基本シルエットは、一目でスポーツカーと分かるデザインですが、“フェリー”の一言がなく911シリーズがフル4シーターのスポーツカーとして登場していたら、現在のスポーツカー事情はどうなっていたのでしょうか。そんな素朴な疑問も浮かんできます。

諦めなかった「4シーター・スポーツ」

 ちなみに、911を生みだす過程でフル4シーターを(フル4シーターの基本シルエットを)否定した“フェリー”でしたが、ポルシェとしてのフル4シーターへの試行錯誤が終わったわけではありません。1978年に登場した928は、そもそもスポーツ性だけでなくラグジュアリー性も求めたスポーツカーでしたが、84年には928-4の名で知られるロングホイールベース版(ベースモデルに比べて10インチ(約25cm)もホイールベースを延長)が登場しています。

 この928-4はまだ2ドアでしたが、87年には4ドア……後にマツダ・RX-8 で採用された“フリースタイルドア”と呼ばれる観音開き式…を採用した928“Study H50”が製作されています。

 ただし、テストを重ねた結果ボディ剛性が、ポルシェ基準には達していない、との理由から開発は断念されることになり、あくまでもスタディモデルとしての試作に留まってしまいました。しかし、こうしたトライ&エラーの結果、2002年にはSUVのカイエン(タイプ955)、09年にはスポーツサルーンのパナメーラが登場。以後はこの4ドア車がポルシェの販売台数を積極的にけん引していくことになりました。

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  • 原田 了(HARADA Ryo)
  • 原田 了(HARADA Ryo)
  • ライター。現在の愛車は、SUBARU R1、Honda GB250 クラブマン、Honda Lead 125。クルマに関わる、ありとあらゆることの探訪が趣味。1955年、岡山県倉敷市生まれ。モータースポーツ専門誌の地方通信員として高校時代にレース取材を開始。大学卒業後、就職して同誌の編集部に配属。10年間のサラリーマン生活を経て90年4月からフリーランスに。モータースポーツ関連の執筆に加え、オートキャンプからヒストリックカーイベントまで幅広く取材。現在ではAMWに、主にヒストリー関連コラムを執筆。またライフワークとなった世界中の自動車博物館歴訪を続け、様々な媒体に紹介記事を寄稿している。
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