シンプルなモデルからホットモデルまで存在したアルト
スズキ・アルトは2021年12月に新型が発表・発売されたばかり。9 世代目にあたる新型のチーフエンジニアに話を伺う機会があ ったのだが、ちょっと感動したのは「アルトはモデルチェンジのた びに買い替えてもらうクルマじゃない。 どうしてもクルマが欲しい方にお届けするためのクルマ」だという 話。
乗りやすさ、安全性能など基本はもちろん押さえつつ、 とにかく人一倍、値段を抑えることを大事に開発されているクルマ だということだ。軽自動車のなかでも、あくまでベーシックカーの役 割をしっかりと果たすのだ……そんな責任感をアルトはもっていて 、その姿勢は初代以来まったく変わらない。
初代アルトは簡素の極みだった
そんなアルトの初代は1979年(昭和54年)に登場し、まさ に簡素の極みといったクルマだった。クルマそのものの成り立ちは 、当時の4代目フロンテをベースにしており、折りしもそれまでの RRからFF化された最初のモデルでもあった。
その4代目フロンテの乗用車版が5ドアだったのに対して3ドアを 採用し、税制面でも有利な商用車として登場したのが初代のアルト 。47万円の低価格を打ち出したのは有名な話だが、ラジオ(サン ヨーのAMラジオ)は当然ながらオプション、ドアのキーシリンダ ーは運転席側のみといったシンプルさ。カタログの写真を見てもわ かるが、ドアトリムは板1枚といった風だし、 フロアも鉄板ムキ出しで、最小限のビニールのカーペットが敷いて あるだけ。
搭載エンジンは乗用車系と同じ3気筒ながら、 539cc(乗用車系は543cc)の専用で28ps/5. 3kg−mという性能。当初はMT(4速)のみだったが、AT車も追 加設定された。ちなみにライバル車のミラ(クオーレ)がダイハツ から発売されたのは1980年7月のことで、最廉価版のAタイプの 価格は49.3万円の設定だった。
アルトといえば「ターボ」と「ワークス」は外せない
さて今回は歴代アルトのなかでコレ! というモデルをピックアップし て振り返ることにしたのだが、47万円の初代の次に“ アルトといえば……”というと、やはりアルト・ ワークスが外せない。源流は2代目アルト(1984年)の時代に登場した「ターボ」で、このモデルは、3気筒SOH Cの543ccエンジンに軽初のEPI(電子制御燃料噴射装置) とインタークーラーターボを採用。44ps/6.0kg− mの性能を発揮し、駆動方式にはFFと4WDを設定( 5速のギヤ比は各々で専用)した。
さらに1986年になると、12バルブのDOHCインタークーラータ ーボ(ネット64ps/7.3kg−m)が登場し、 このモデルから“ワークス”を名乗ることに。 4WDモデルのRS−Rはビスカスカップリング式にフルタイム方 式とした。ボディサイドとリヤのデカール(TWIN CAM TURBO FULL TIME 4WD RS-R WORKS EPI)も誇らしげだったが、リヤスポイ ラーの下側にも、ちょうどリヤウインドウに反射して映るのが後方から見えるTWINCAM TURBOのデカールが仕込まれていた。
ワークスは3代目アルトでも設定され、ツインカムターボとターボ の2シリーズをラインアップ。いずれもFFと4WDがあり、搭載エ ンジンはツインカムターボで64ps/7.8kg−mの性能を発 揮した。個人的にはこの世代のワークスはリヤクオーターウインドウが ルーフまで回り込んだ、さり気ない個性を与えたスタイリング もチャーミングでよかったと記憶している。
ワークスは660cc になった4代目アルトの世代でも設定され、DOHC版で64ps /10.5kg−mの性能を発揮させていた。ワークスは5世代目 のアルトまで設定され、以降、8世代目で復活したのはご承知のと おりだ。