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【知ってる?】「ヘタリ保証」を付帯できるスプリングとは

常に負荷が掛かっているスプリング
過酷な使用環境にも対応した耐久性

走っていても止まっていても、常に荷重が掛かっているサスペンションのスプリング。
そんな過酷な使用環境でありながらも、一部のアフターメーカーのローダウンスプリングに「ヘタリ保証」を付帯している製品がある。しかも、使用期間3年間または走行距離5万kmとかなり長い期間を保証しているのだ。
確かに材質の進化が著しいのは間違いないが、それ以上に製造方法が劣化を抑制するという。

そもそもサスペンションのスプリングは、走行中は上下動を繰り返し、停車時もボディの重さを支えている。つまり、常にヘタる環境下に置かれているといっても過言ではないだろう。

そんなスプリングに「使用期間3年間または走行距離5万kmで社内測定基準より5mm以上のヘタリが見られた場合交換いたします」という「ヘタリ保証」を付帯しているのがサスペンションメーカー「タナベ」だ。

「スプリングのヘタリは、単純に鋼材の強度を高めるだけでは防げません。例えば、鋼材からバネの形状に成形したあと、金属は元のカタチに戻ろうとします。設計通りの形状を維持させるために低温ブルーイングと呼ばれる施工を行います」とタナベ広報部の土居さん。

タナベでは、鋼材を常温のままスプリング形状に巻く冷間成形を採用することで、2100N/mm2と他メーカーより約10%高い引っ張り強度を得ている。鋼材を1000℃に熱する熱間成形に比べ熱を加えない分、金属の材質変化が少なくできるのが特徴だ。しかし、金属の性質上、元に戻ろうとする力が働くのでので低温ブルーイングという工程によって成型後の形に留めることができる。
これは、鉄製のベルトコンベヤーに乗せたスプリングが、380℃の釜のトンネル(約10m)を40分かけてジックリと通過していくのである。下の写真で天井部に内部を温める炎が見える。
この処理だけでもヘタリを抑制できるそうだ。

さらに粗目と細目の2種類のショット玉をスプリング表面に吹き付け(叩く)、強度を高める『ダブルショットピーニング』を行う。
多くのメーカーでは、この作業は1段階しか行わない。しかもショット玉とスプリングをドラムの中に入れてかき回すだけなので、スプリング表面を万遍なく叩くことはできないのだ。

スプリングは一つずつ人の手で機械に投入される。

全長約15mの機械の中では第1段目の粗目ショットが行われる。
第1段目処理が終わるとクレーンで隣のレーン(向かって右側)に移動され、さらに第2段目の細目ショットとなっているのだ。

下の写真は、左から低温ブルーイングだけ、1段目ショット処理、2段目ショット処理。1段目と2段目でスプリング表面を見比べると、2段目(下の写真右側)は細目のショット玉を吹き付けるので滑らかになっている。

このように表面を金属粉などで叩き強度を出す処理は、エンジンのコンロッドメタルやピストンなどでも行われている(WPC加工)。

この状態でも、まだ荷重が掛かっていないので製品的には安定していない。
機械でスプリングを縮めて初期のヘタリを取る「セッチング」という処理を行うのだ。
もちろん、スプリングの種類によって掛けられる圧力は異なっているため、事前にスプリング長やバネレートが設計通りになる圧力は、専用の検査機によって確認されている。専用具で「セッチング」を行うのだが、ほとんどフルボトム状態にも見える。さらにスプリングは1本ずつチェックされ、初期ヘタリを取られた後、設計通りの長さになっているか人の手でも確認される。

徹底した防錆でさらに耐久性をアップ!

金属製品で劣化の原因となるひとつに「錆」は、かなりの強敵だ。
例えば、スプリング同士が擦れあうことで表面が削れ、雨や泥などが付着し錆を誘発する。そんなとき防護壁とでも表現すれば良いだろうか、何重にも防護策が施されていれば表面の皮膜が剥がれてしまっても水分や泥が金属まで到達しないわけだ。

今回取材したタナベでは、第1段階として「リン酸亜鉛皮膜」処理を行っているそうだ。
防錆と塗料の付着を良好にする塗装下地として、塗膜が剥離しにくくすること、塗膜に傷が付いても錆が広がらないようにすることを目的となっている。

続いて第2段階として「カチオン電着塗装」を行う。
クルマのメンバーと同様にライン途中にある塗装プールを潜らせる。

メンバー類の塗膜の厚みは13ミクロンだが、タナベでは16ミクロンとより厚く付着させるそうだ。

このように2段階の下地処理を施してから「粉体塗装」で仕上げる。
スプリングを回転させながら、万遍なく塗料が付着するようにしている。
このように鋼材そのものので何段階もヘタリ抑制処理を行い、さらに幾重もの防錆することでさらに耐久性を高めているわけだ。
このように丁寧な作り込みをすることで、3年間/5万kmのヘタリ保証の付帯を実現できるという。
もちろんタナベでは、ローダウンスプリングのみならず車高調整式サスペンションで使用するスプリングも同様の性能を持っているそうだ。これにレクサスの足まわりを手掛ける「KYB」社のダンパーをセット。こちらは使用期間1年、走行1万kmの保証が付いている。サスペンションは、走る・曲がる・止まるといったクルマの基本性能を支える重要な部分。信頼できるパーツを使うべきだ。
今回取り上げたスプリングの「ヘタリ保証」に限らず「メーカー保証」を謳うには、ユーザーが想像する以上にメーカーは大きな責任を負うことになる。しかし、長年培ってきた確かな技術とノウハウ、そして妥協なき製品作りがあれば実現できるそうだ。
極論を言ってしまえば、「メーカー保証」はパーツ選びの一つの指標になることは間違いないだろう。

取材協力:タナベ https://www.rd-tanabe.com/

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