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ラリー・モンテカルロ・ヒストリックに挑む日本の学生チーム「自動車を通して学べるものとは」

レジェンドの篠塚建次郎さんも参戦

 フランスの「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック2020(1月29日〜2月5日)」に、日本の学生たちによるチーム『Team浪漫/TeamROMAN(チーム浪漫)』が5台の国産旧車ラリーカーを投入し挑戦するという。参戦車両をエントリーゼッケン順に追うと、♯23号車が日産・チェリー(1973年製)、以下♯27からはトヨタ車が続きカローラ(1972年製)、♯86カローラ(1973年製)、♯87スプリンター(1973年製)、♯89はホンダのシビックRS(1975年製)となっている。

 また、チームのドライバーには篠塚建次郎さん、松波登さんなどの名前もある。これは凄い。学生たちと往年の日本のレジェンドラリー・ドライバーの共演において、何が進められているのだろう。

 

伝統イベントの交流はゼロからのスタート

 今回で10年目となるこの海外ラリー参戦は、東京大学の「自動車の設計教育寄付講座」の中のひとつである「海外ヒストリックラリー参戦プロジェクト」として行われているものだ。

 例年、ラリー参戦を運営するチームを立ち上げるために、学期はじめの4月から学生たちのメンバー招集が始まり、翌年に本番イベント参戦と報告書ムックを実施して終了するというのが通例。参戦には、奇しくも伝統のモンテカルロラリーが時期的にマッチしてもいた。

 東京大学の学生により始められたこの活動は、6年目よりホンダテクニカルカレッジ関東(ホンダが運営する自動車専門大学校)との共同プロジェクトに広がりさらに発展。ヨーロッパの参戦現場でもスペインの大学をはじめ、拠点として関わりがあった各地に、ラリーというイベントを通して生まれる様々な事象を教育のひとつとして活用している素晴らしさは、波紋を投げかけている。

 チームが参戦するラリー・モンテカルロ・ヒストリックは、世界有数の歴史あるモータースポーツイベント、フランスの公道を舞台に繰り広げられてきたモンテカルロ・ラリーにゆかりがあるイベントだ。例年、世界ラリー選手権(WRC)の開幕戦として開催されており、2020年も1月下旬に88回目の大会が開催される。

 WRCといえば、世界の自動車メーカーが自社ブランドをアピールすべく、よりコンパクトに凝縮されてきた走行日程ルートや競技ステージで、激しいスピードをエキサイティングに争いあう世界最高峰のラリーだ。

 一方、今回のラリー・モンテカルロ・ヒストリックは、主催者が同じモナコ自動車クラブであるとはいえ、主に旧車が参戦するラリーだ。参加車両は歴史的にモンテカルロに馴染みのあったクルマで、1911年から1980年までに生産され、なおかつオーナーに維持されてきたクルマを競技車に仕立てたもので、今年は第23回大会となる。

 参加車両は307台。競技形態は通行が閉鎖され競技車に独占されるスペシャルステージでの速さを競うものではなく、一般車も通る競技ステージ区間において決められた時間内のアベレージ走行を競う。

 競技車はヨーロッパ各地からスタート。プロバンス地方のビュイ・レ・バロニに集い始められる競技を経て、ラリー本番の渦中となる都市、フランス東部のバランスの車両保管パルクフェルメまで延々と走る。モナコ、バルセロナ、ミラノ、ランス、バート・ホンブルグからは900km以上。遠くはスコットランドのグラスゴーやギリシャのアテネなどから2000kmもの移動を時間内にすませて集う「コンセントレーションラン」というモンテカルロラリー特有の、往年の壮大なルート形態を踏襲してもいる。まさにモンテカルロ・ラリーの伝統を継承してゆくイベントだ。

 日本の学生による「Team浪漫」は、1月31日にモナコからスタート。5台のラリーカーは昨年11月下旬に川崎をフェリーで出航、そろそろスペインのバルセロナに到着する予定だ。その後フランスのポールリカール・サーキットで試験走行をこなし、本戦に向けた準備が進められていく。

 

机上の空論ではない1年の実体験は不滅

 彼らが挑戦する参戦プロジェクト。特殊なのは、いわゆる学内の「部活的」な動きではなく、毎年、学生たちはイベント実戦を経験した先輩たちからの教えを伝えてもらうこともなく、スタッフメンバーそれぞれがゼロから出発。1年でプロジェクトを完結してゆくという点にある。

 これまで9年度の遂行で構築されてきた教師やドライバー陣、参戦車両、サポーターメンバーたちの体制はあるものの、国際ラリーへの参戦車両の立ち上げ、参戦資金調達のためのスポンサー対応、海外への自動車通関カルネ、スタッフ滞在先スケジュール統括、広報活動などなど、学生メンバーみずからが初めて経験する事になるさまざまな手続きすべてを、それぞれの役割でこなしてゆくのだ。

「工学発展した日本であってもクルマの良さが分かってもらえなくなる危惧があります。工業大国である日本ですが、若い人たちには旋盤といってもナニそれ? という子たちも多い。ボルト一本であってもクルマを作り上げてきたものを実体験で理解して知る、そんな経験から広がりは生まれるのではと思います」と、プロジェクト創始から関わってきた東京大学の草加浩平特任教授。

 世界の一般公道を舞台に展開されるラリーという自動車競技に参戦するからこそ触れ合えるものには、まさに社会生活に根ざしたものから学びえる揺るぎない文化もあるだろう。いつしか学生たちへの着物着付け伝授も生まれ、学生が礼装の着物でラリー表彰パーティに出席するしきたりとなるなど、国際交流での文化発信も展開されている。

 さて、ラリー参戦体制に戻れば、ホンダ・シビックRSのレストアメンテナンスに関してはホンダテクニカルカレッジ関東が、カローラレビンに関しては東大側が中心に進めてきたという。

 さらに目を引くのは今年初投入となる日産チェリーX1-R。その始まりは車内を見ても降り積もった錆のラインが引かれているような状態のクルマだった。

「サビでボロボロだったチェリー。ホンダ学園のみんながフルレストアとエンジンチューンを手掛け、東大生がラリーコンピュター作成やロールケージの取り付けなどを施してラリーカーへと改造しました。初めての作業がほとんどで試行錯誤の連続でしたね」。

 フランスで注目されるようにとトリコロールカラーへ。以前の日産のワークスカラーとシンクロさせるデザインで美しく蘇らせた。このマシンを篠塚建次郎さんが走らせるのだが、ゼッケンは”23″で大会の開催周年と同じ。また、元トヨタワークスドライバーでもある松波登さんが”27″番で、こちらもTE27レビンにシンクロした、験担ぎなゼッケンとなっている。

「今年も参戦するTE27は初回登録が1972年12月の後期型。4月にこの車と出会ったときはエンジンのオイル漏れや灯火系の接触の悪さが見られ、いかにも昔の車、という感じがありました。今期の活動ではエンジンのオーバーホールや配線の引き直しなどを中心に仕上げてきました。私たちが整備したエンジンで、ヨーロッパの山道を稲妻のように力強く走り抜けて欲しいです。」

「試練は待っているけれども、乗り越えるものです。凄いじゃんと思ってもらえたら…」

 成績を競うスポーツ競技参戦ではあるが、伝統のラリー文化継承の一役を担っていることにもなる学生たち。天候状況変化の中で何があっても臨機応変、試練を乗り越えゴールゲートにたどり着かなければならないというラリー競技さながらに、ここまでも初めての試練の数々をこなしてきた。

 プロジェクトは最終ステージとも言える本番間近、彼らの言葉にこもる心意気、応援せずにはいられない。

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