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トラブルを招く“音の暴力”  アナタもやってるクラクションの誤った使い方

クラクションが引き金になった殺人事件

 50〜60歳代の人だったらリアルタイムで新聞報道やテレビのニュースなどで知って、衝撃を受けたかもしれない。1977年(昭和52年)に発生した「東大阪クラクション殺人事件」。

家路を急ぐクルマで混雑する夕方の大阪府東大阪市内。前が進んだにもかかわらず、動きだす様子のなかった1台のクルマに対してクラクションで発進を促した会社員が、クラクションを鳴らされたことに激昂した相手に拳銃で殺害された事件。
犯人は元・反社の人間で、その場から逃亡。数日後、潜伏先で逮捕されたという。

一般人が拳銃を所持しているとは考えにくいが、些細なことで逆ギレして相手に暴行を加えたり、死に追いやったりする行為は、いま世間を騒がせている煽り運転となんら変わりない。

相手を威嚇、怒りをぶつるための道具!?

 至近距離でクラクションを鳴らされた経験はあるだろうか?
音量が非常に大きい(電車が通過する高架下同等の約100デシベル)うえ、耳を突き刺すような音にビックリし、不快な気分にさせられる。

クラクションは、ほかのクルマやバイク、歩行者、自転車などに対して危険を知らせたり、注意喚起させるなど、やむを得ない場合に限って使用する装置だが、本来の目的と違う使い方をしているドライバーが少なくない。

「会社の同僚ですが、前をのんびり走られたり、緩慢に車線変更してくるなど、自分の進行の妨げになるクルマに対して、すかさずクラクションを鳴らして威嚇します。もっとも、私の住んでいる地域では特別なことではなく、街中ではクラクションが絶えません。お互いクルマから降りて口論に。時に取っ組み合いのケンカになることもあります。当事者もスーツを着た普通の会社員同士だったりします」(大阪府・会社員 吉川雅人さん 50歳)
せっかちで、『他人の行動に厳しく、改めさせようとする』県民性で全国的に知られる大阪らしい話かもしれない。

一方、大阪からは『他人には干渉せず、気取っている人間が多い』と思われている東京(および南関東)はどうか?
たしかに。「基本的にクラクションは鳴らしません。どんな人が乗っているかわからないし、トラブルになるのは嫌ですから」(東京都 出版・田中 徹さん 28歳)
「クラクションを鳴らさずにすむ運転を心がけています。むやみにクラクションを鳴らすのは品がないと思います」(千葉県 フリーランス・大塚 宙さん 58歳)といった意見が大勢を占める。

 ところが、東京都民でも
「まれにですが、“右直”の際の、対向車の無茶な右折など、危険で腹立たしい行為に対して、相手への戒めの意味を込めて激しくクラクションを鳴らすことはあります」(会社員・吉沢正弘さん 30歳)
「道に迷っているのか? 車線をまたいで走ったり、ノロノロ運転など、挙動不審なクルマには遠慮なくクラクションを浴びせます」(自営業・本田和樹さん 59歳)というコメントも少なくなかった。

地域差なども多少はあるのかもしれないが、要は運転している人の性格や感情、またその時の状況次第。クラクションが、相手を威嚇する、怒りをぶつけるための道具として用いられることは、いつでも、どこでもあり得るということだ。
必然的に鳴らし方は攻撃的になって相手を刺激、トラブルの火種になる。

間違った使用は「科料もしくは罰金2万円以下」の罰則

 道路交通法・第54条に記されている。原則として『クラクションは鳴らしてはいけないもの』ということを認識すべきだ。

危険を避けたり、注意喚起以外の目的でクラクションを使用した場合、“警音器使用制限違反”となり2万円以下の科料もしくは罰金が課せられる(違反点数はない)。
ドライブレコーダーが普及している現在、クラクションを鳴らされた側が「相手の鳴らし方に悪意があった」と警察に届け出れば、録画が煽り運転の証拠になる可能性だってゼロではない。
 とはいえ、例えば前方のドライバーが、信号が青になったことにまったく気づかず、やむをえずクラクションを使わざるえない時だってあるはずだ。

警視庁・交通相談(窓口)に聞いてみた。

「条文に従えばクラクションは鳴らしてはいけません。もっとも、前車のドライバーが寝ていたり、気絶していることなども考えられるので明言はできません。ただし、そうした特別な状況であれば、鳴らしたからといって取り締まりの対象になることはありません」。

ケースバイケース。「鳴らさないこと」に固執することはないということ。要は鳴らし方なのだ。
自分がクラクションを鳴らされた側だとして、短く1回「ビッ!」と鳴らされるのと、何秒も「ビーッ!!!」と鳴らされ続けたり、しつこく連続して何回も鳴らされるのと、どちらに不快感を覚え、相手に悪意を感じるだろう?

さらに、ハザードランプでのサイン同様、挨拶以外に、合流や狭い道のすれ違い、車線変更などで道を譲られた際、感謝の気持ちを伝えるためにクラクションを使う人もいる。
本人はグッドマナーのつもりかもしれないが、「違反」と明文化されていないハザードサインと違い、こちらは道交法に抵触するので注意が必要だ。繰り返すが、本来と異なる目的で使用することが理由だ。
その取り締まりが実施されていることも、それが理由で捕まったという話も聞いたことはないが、わざわざ違反することもない。どうしても感謝の気持ちを示したいのであれば、手を上げたり、会釈をしたり、あるいは(筆者は絶対にしないが)ハザードランプで感謝の気持ちを伝えればいい。

クラクションを鳴らさないと違反になるケースも

 逆に、クラクションは「鳴らさない」ことが処罰(警音器吹聴義務違反)の対象になることがある。

例えば、山地部の道路や、そのほかの曲折が多い道路で道路標識などによって指定された左右の見通しのきかない交差点、また、見通しのきかない道路の曲がり角、さらに、見通しのきかない上り坂の頂上を通行しようとする場合など。違反すれば5万円以下の罰金と違反点数1点が課せられる。鳴らすべき場所には「警笛ならせ」「警笛区間」のふたつ道路標識がある。見落とさないようにしたい。

 依然として運転マナーは改善されないどころか、暴行や殺人といった事件にまで発展することもある煽り運転など、年々交通トラブルが悪質化・凶悪化する日本。
いつか、一般のドライバーによる“令和のクラクション殺人事件”が起こるのではないかと考えるのは、ただの取り越し苦労だろうか?

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