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HEV化で驚愕の1000psオーバー! ダカール・ラリー2022参戦マシン「HINO600シリーズ」に乗った

日野レンジャー 2022ダカール参戦マシン(走り)

新型車両を投入! HEV化で戦闘力を格段に高め連覇に期待が膨らむ

 世界一過酷といわれるラリーレイドの代表といえば「ダカール・ラリー」。世界的に圧倒的な知名度を誇る、クロスカントリーラリーの最高峰に異論はないでしょう。そこに30年に渡りチャレンジしているのが、トラックメーカーの日野です。

 モータースポーツを「人を鍛え、クルマを鍛える」最適な場として定めているのがトヨタ「GAZOO Racing」のスピリットですが、グループ企業としての日野も遥か昔からそれを実践しています。

システム出力1000psオーバー! リトルモンスターの大暴れなるか!?

 カミオン部門の排気量10L未満クラスでこれまで連覇を続けている「日野チームスガワラ」。2022年は、日野600をベースとしたレーシングトラックの1台体制に絞りました。

 メカニズム面で特筆すべきは、ハイブリッド化されていること。参戦歴の長い日野ですが、ハイブリッド化は初の挑戦です。8866cc直6ディーゼルターボ+モーターのシステム出力は1000psを超えています。「この1000psが、勝利のラインなのです」とは、開発担当の榎本 満プロジェクトチーフエンジニア。

 カミオン部門(排気量10L未満クラス)のライバル勢は9000cc超が中心ですから、小兵がハイブリッド化で下克上するのです。日野のトラックのブランディング「リトルモンスター」を体現しています。クラス優勝だけでなく、総合でどこまで食い込んでいけるかという熱意がくみ取れます。ちなみにこのところ強いのはロシア・カマズ社のトラックです。プーチン首相みずから応援に駆けつけ(プレッシャーを掛け)るほど、国を挙げて勝ちに邁進している強敵です。

電動化で未知の領域に踏み込むもマシンの熟成は順調に進む

 刷新されたHINO600シリーズの全貌を見ていきましょう。モーターやキャパシタ(蓄電池)は過酷な使用状況を踏まえ、モーター大手ディーナ社から、キャパシタはジェイテクトの電車用を転用し調達しています。キャパシタは燃料タンクを前出しし、減衰のためのダンパーとロッドで支えるカタチで搭載されています。ハイブリッドシステムは万が一トラブルがあった際には、運転席からシステムダウン操作ができ、物理的にもプロペラシャフトから切り離せる構造になってるのがレーシングマシンらしいポイントです。

 モーターアシストの塩梅に関しても、フルで使うのか、ここぞといいうときにブースト的に使うのかなど、レーシングトラックとして未知のセッティングに挑みました。もろもろ含め、ゼロベースの開発から、モノになるまでに2年を要したそうです。テストでは0-100km/h加速で9秒切りを達成するなど、上々のデータを得ています。

驚異の最大トルクをロスなく駆動力に伝達するためにAT化

 日野レーシングトラックのドライバー菅原照仁さんは、ダカール最多出場のギネス記録を持つ偉人・菅原義正さんを父に持つサラブレッド。外国語も堪能であり、データ解析能力にも長けています。現地でのコミュニケーションも大事であり、スタートわずか30分前に発表されるというコースの詳細な攻略には、高度なデータの解析が求められます。そのふたつの高度なスキルを備えている人物なのです。

 カミオンクラスの最高速度は140km/hに上限が決められています。よって、いかにアベレージスピードを稼げるコースを選んで走るかがキモとなるのです。ここでも、全域でトルクアップできるハイブリッド化が効果を発揮します。

 選ばれたトランスミッションはAT。多段式も検討されましたが信頼性を考え6速が選択されました。アメリカのパーツ大手、アリソン社のものを、TRDのレース用ECUでマネジメントしています。セッティングには同じ日野チームスガワラの同士でありレジェンド、塙 郁夫選手が煮詰めているそうです。「トルコンのおかげで伝達トルクが途切れないので有利です」と塙選手。

古くから市販車両へのHEV化に取り組んできた日野の姿勢をダカールで披露!

 ちなみに今回からこのマシンに新採用されたハイブリッドですが、日野はハイブリッドと浅からぬ関係があるのをご存知でしょうか。

 じつはダカール・ラリーに初参戦した1991年には、世界初のハイブリッド路線バスを実用化しているのです。これは世界初の量産ハイブリッド車でした。その開発には10年以上を要していたというので、日野は80年代から温室ガス削減を見据えていたのです。

 さらに2021年6月から新社長になった小木曽 聡さんの存在も今後のキーポイントになります。小木曽さんは、1994年からトヨタで電動車・燃料電池車の開発のエキスパートとして実績を積み「ミスター・ハイブリッド」との異名を持つエキスパート。

 日野にも働くクルマの電動化に、小型HEVトラックやコミューターバスの導入を決めるという、働くクルマの電動化にスピード感を持って取り組んでいます。このレーシングトラックも、まさに未来を見据えたテストベッドなのです。

 ちなみに2030年をメドにダカールラリーも内燃機関は禁止になる流れもあります。次世代のラリーマシンに求められるものとは何なのか? それも探っていきます。

ご厚意で新型マシンの同乗試乗が叶いリトルモンスターを体感

 決戦の地、サウジアラビアに向けた船便に載せる直前のテストに同行し、助手席に同乗できるという貴重な体験ができました。これだけの巨体とパワーですから、動的なテストをする場も限られます。日野チームスガワラが常用しているのは、新潟県妙高市にあるロッテアライリゾートの特設コースです。

 ここは、自身もパリダカに参戦経験のあるラリー/レースディレクターの中島聡尚さん(※下写真)が設営とメンテナンスを担当しています。広大な敷地を上手に活用したコースレイアウトは、高低差あり、ダートあり、ジャンピングスポットありのバリエーションに富んだコースです。

 コクピットに乗り込むと、ドライバーから視認しやすい位置にバッテリーの回生をモニターするディスプレイが見えます。ほかにも中央の目立つ位置にはタイヤ空気圧モニタが鎮座。現場ではまさに生死を分ける空気圧ですが、遠隔で空気圧を可変できる機構が備わっています。

 早速、ドライバーの菅原さんによる本気のアタックが始まりました。取材当日は、運良くというか悪くというか前日までの雨により、深いぬかるみが出現していました。飛び散る泥。マシンはひっきりなしにワイパーを動かし疾走していきます。

 フラット路面での、モーターアシストフル状態ではまるでレーシングカーのような加速です。排気音も迫力で「さすがヨシムラ製のマフラーです!」と言ってる間にジャンプ! 無重力状態からの着地では、デュアルダンパーのたっぷりとしたストローク感を味わう……余裕もなく、次のステージに突入です。

 ステアリングは見慣れたコンベンショナルな形状で、菅原さんは「格闘する」という感じではなく的確かつ確実な操作で8tもある車体を振り回していきます。デフもメカニカル、トラクションコントロールもありません。しかし、車体の上下動はすさまじいのですが乗員に伝わる衝撃は我慢できないほどではありません。その秘密はキャビンに備わったコイルスプリング+ショックアブソーバーの恩恵です。

 とはいえあくまで、わずかに緩和されているというだけで、最大で6Gから8Gという負担を乗員に強いるハードコアな空間ということには変わりはありません。決して広くはないキャビンに3人が押し込まれる環境で2週間、8000kmを走り続けるというのですから、ダカールラリーはどれだけ常軌を逸しているのかと感じました。メカニックの望月裕司さん、ナビの染宮弘和さん、本当にお疲れさまです。

レースでありアドベンチャー! 8000kmを駆け抜ける

 ダカール・ラリー2022の開幕は2022年1月2日です。そこから1月14日まで死闘が続きます。中東サウジアラビアでの開催は2022年で3年目となりますが、恒例として前回とはまったく違うコースが設定されています。

 明かされているのは暫定的なコースのみ。2022年は北部のハイルという都市からスタートし、首都リヤドを経てジェッダへ向かうルートが決められてます。総走行距離ざっと8000kmという気の遠くなるようなラリーレイドです。昨年は、手痛い大自然の洗礼も受けました。

 砂丘や山岳地など起伏に富んだアラビア半島を、1日あたり5時間ほどかけて300~400kmを走り抜きキャンプ地へ宿泊、を繰り返していきます。アシスタンストラック1台をたずさえ総勢30名の移動です。そのなかには、ハイブリッド機構を担当する技術者も帯同します。キャンプ地ではホスピタリティもまちまちで、豪華ディナーにありつける日もあれば、寝袋で寂しくビバークする日もあるそうです。

 ちなみにキャンプ地で行われる給油はすべて無料。さすがは産油国サウジアラビアです。それ以前では、軽油代だけで100万円くらい掛かっていたそうです。レーシングトラックの燃費はざっくりリッターあたり1kmといったところ。タンク容量は満タンで800Lですが、重量増を嫌ってぎりぎりの容量しか給油しないそうです。

 ダカールラリーに関しては、日野の特設サイトおよびSNS、そしてスポーツテレビ局・J SPORTSでの速報をはじめとして特番も放映されると思います。年始は、日野レーシングトラックの戦いを応援するっきゃない!

■日野レンジャー「 ダカール・ラリー2022参戦車両」主要諸元

〇ベース車両:HINO600シリーズ

〇エンジン型式:A09C-TI(インタークーラーターボ付き)

〇エンジン形式:ディーゼル4サイクル直列6気筒

〇排気量:8866cc

〇エンジン最高出力:800ps (588kW)/2900rpm

〇エンジン最大トルク:248kg-m (2430N・m)/1600rpm 

〇HEV最高出力:280ps (206kW)

〇システム最高出力:1080ps (794kW)

〇駆動方式:フルタイム4WD

〇トランスミッション:6速AT(前進6速/後退1速)

〇トランスファー:Hi-Loレンジ切替付、センターデフロック付

〇タイヤ:XZL 14.00R20

〇車両重量:8600kg

〇ボディサイズ:全長6700mm×全幅2500mm×全高3100mm

〇ホイールベース:4170mm

〇燃料タンク:800L

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