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「大事なのはバッテリー残量ではなく温度」日本一のフェラーリ遣いが語る「EVレース」の魅力とは?

今季は1回のみの開催となったLEAF e-Trophy(LeTS)

 日産リーフを使用して行われるワンメイクのスプリントレースとして、2017年からスタートしたシリーズLEAF e-Trophy(2017年は日産チャンピオンレース、翌年からは日産リーフチャンピオンレースとして開催。2020年からこの名称となっている)。現在は一般社団法人 日本電動自動車振興会(JEV)が主催している。

 茨城県にある筑波サーキット・コース2000のみで、年間4戦ほどがシリーズとして行われていたシリーズ。新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、開催の見合わせが続いていたが、無事に11月14日に「EV Day 1114」として開催となった。

リーフやテスラを混走するEVバトル

 これまではレース形式だったが、今回は、各20分間の2本の走行枠を使ってのタイムアタック形式に変更。SCCN(ニッサンスポーツカークラブ)主催のNovember RACE MEETING in TSUKUBAのなかの、ひとつの走行会としての開催となった。 久しぶりの開催ということで、今回、8台の日産リーフ、そしてテスラ モデル3が2台、トミーカイラZZなどが参戦。それぞれL1(日産リーフZE0)、L2(リーフZE1)、E3(テスラ、ポルシェ、ジャガー、アウディなど最高出力161kW以上)、ER(コンバートEV、プロトタイプおよびトミーカイラZZ)、MV(最高出力161kW以下のモーター駆動車)、といった具合に分類され、クラスごとに楽しめる設定となっている。

 このシリーズに参戦しているのが太田哲也氏。以前は日本一のフェラーリ遣いの異名を持ち、国内外のレースで活躍してきたレーシングドライバーであり自動車評論家である。1998年の全日本GT選手権第2戦での事故で大火傷を負ったものの、5年後にはサーキットへ復帰。

 現在は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員でもあるわけだが、その太田氏は2年前から日産リーフでこのシリーズを楽しんでいるひとり。今回もリーフ40kWhモデルでL2クラスに参戦しており、このEVでの競技について、魅力を語ってもらった。

バッテリーの残量ではなく「温度」管理が勝敗を決めることに驚いた

「最初はこのリーフのシリーズを運営しているJEVの代表から声をかけてもらい、そこから参戦をしています。ただ、クルマはボディの下部にバッテリーが敷き詰められていて、FFというよりも動きがフォーミュラっぽいところもあって、独特の感じがあって面白いよ」

「EVのレースと聞いて、最初はバッテリーが無くなっちゃうかもってところでの駆け引きのレースだと思ってたんだけど、実はそうではなかったんだよね。バッテリーの残量ではなく、バッテリーの温度が上昇してセーフモードに入ってしまうことがレースを左右する。そこにEVの弱点があるんだってことが、よくわかるんだよね」

「ほかにも制御が入ることがあってね、コーナーとかで、ジンワリGを移動させていくならいいんだけど、いきなり車体を振っていくとその大きなGに反応して制御が入っちゃう。制御を切っていても完全に切ることはできなくて、最後には制御が入ってしまう。これを回避しながら速く走らせる、独特のテクニックが必要ってところがある」

「だから、いかに制御を入れないで最大Gまで持っていくか、がひとつのポイント。今日も一年ぶりに乗ったんで、いきなり制御に引っかかってしまって……。コーナーの入り口で制御が入る分にはいいんだけど、出口で入ると最悪。このあたりの制御の出方をコントロールするテクニックが必要だね」

「もちろん、バッテリーの温度も上がってしまうのもね。今回はタイムアタックだからいいけど。以前は予選と決勝を一日でやってた。そういうスケジュールになっていると、予選をできるだけ走らないほうが良いわけで、1周でアタックするのが一番いいわけ」

「でもタイヤ冷えてるじゃない? 冷えてるならタイヤを温めればいいんだけど、温めるためにアクセル踏んでったらバッテリーの温度が上がっちゃうっていうんで、ゆっくり出て行ってバッテリーの温度を上げないで、でもタイヤは温まらないなかで1周目にアタックするってことになる。それって結構難しくって」

「昔、グラチャンとかCカーって、予選のための1周だけタイムの出るQFタイヤってのがあって、コースインしてドロドロ走って行って最終コーナーから踏んでいってアタックを開始してね、初めて突っ込む第1コーナーで奥まで行かなきゃいけない。効くのかどうか、止まれるかどうかわからないって、そんな予選をしていた。このリーフのアタックでもそれを思い出すよ」

「そういうテクニックとか心の持ちようとか、面白いんだよね。EVの場合、練習って基本できないから、サーキットに着いて、出て行って初めてアタックする周に車両の状態を掴んでいって、1コーナーがこうだったから、ってドライビングをアジャストし、次のヘアピンとか他のコーナーに対応していく。ものすごいスピードで考えなきゃならないし、ものすごく頭を使うレースだよ」

 今回はレース形式ではなくタイムアタック形式での競技となったため、ウォームアップからのアタックという工程を経てしっかりとEVの走りを見せる結果となった。太田選手の「#20 テクトムリーフnismo」は1分11秒886のタイムを記録した(L2クラス参加台数は1台のみであったためクラス内の比較はできないものの、全体ではテスラ モデル3、パイクスピーク仕様リーフに続く3番手のタイムとなった)。

レース形式のLEAF e-Trophyシリーズは2022年シーズンから再開予定

 また、太田選手は「EVをレースに使用するようなEVスポーツが流行っていくためには、バッテリーなどの冷却は必須。今言ったこともモータースポーツシーンだけと思うかもしれないけれど、これはじつは山道でも起きることだから、そういう意味では、こういった現場でのデータがフィードバックされてEVの実用的な部分に返ってくれればいいと思うよ」と今後のEVの発展にも期待をしているようだった。レース形式でのLEAF e-Trophyシリーズは、2022年シーズンから本格的に再開予定となっている。

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