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ポルシェ「マカン」に迫るVW「T-Roc R」登場! 300馬力の「R」と150馬力の「TSI Style」を乗り比べた結果は?

VW T-Roc Rで湘南エリアの一般道と高速道路を試乗

ちょうどいいSUVの「T-Roc」にハイパフォーマンスモデル「R」が追加

 フォルクスワーゲンのSUV三姉妹の真ん中、「T-Roc(ティーロック)」。じつは最初に試乗したときから、わりと好感を抱いてた。ゴルフよりちょっとだけ大きい程度の扱いやすいサイズで、スタイリングもクーペ・スタイルをとりながらもやり過ぎない加減の穏やかさを見せるし、適度に穏やかで適度に力強い加速力も、自然に気持ちよく曲がってくれるハンドリングも、電子のチカラを借りなくてもほどよく快い乗り心地も、わりといいんだよな、なんて思ってた。色々なモノが余ってるわけじゃないけど何かが足りないわけでもなく、ちゃんと満たされていて、無理な背伸びもしていない。なんだか自然でバランスのいいクルマだな、と感じてたのだ。

 ところが、だ。T-Rocにマイナーチェンジが行われたと同時に、「R」の名を持つハイパフォーマンスモデルが追加された。300psに400Nmを発揮する2L直4ターボ、フルタイム4WDの4MOTION、そして可変ダンピング機構を持つアダプティブシャシーコントロール。もしかして、「T-Roc R」ってちょっと背伸びしちゃったモデル? と、どことなく気になるのも当然の話だろう。

T-Roc全体の質感と先進機能がアップデートされた

 マイナーチェンジのポイントは、大きく言うなら3つ。まずはフェイスリフトだ。一見それほど大きく変わってないように思えるが、標準的なT-Rocはフロントにもアンダーガード風のモールが備わってクロスオーバーSUV風味が増してるし、「Rライン」は各部がブラックアウトされて精悍な印象を見せている。T-Roc Rは左右ヘッドランプ下のインテークが拡大されるなどで、アグレッシブなイメージを手に入れている。ほかにもリヤのウインカーがいわゆる「流れるウインカー」になってたりもするが、いずれのモデルも評判のよかった先代のイメージから大きく外れない範囲で巧みにルックスを磨いたといった印象だ。

 ふたつめはインテリアとインフォテインメントシステムの改良。僕はそう感じてはいなかったのだけど、先代のインテリアはクオリティにまつわる評価が低かったと聞いたことがある。今回からはステッチの入るソフトタッチな素材が投入されるなどで、質感を高めているように見える。先代のカジュアルで楽しげな雰囲気はだいぶ薄らいで、なんだかちょっとフツーのドイツ車っぽくなったようにも見える。

 インパネ中央のディスプレイがダッシュボード上部に飛び出したことも、室内のイメージがガラッと変わったように感じられる一因だろう。T-Roc R以外はこれまでと異なりナビゲーションシステムが標準装備から外れ、スマホとのリンク機能を持つインフォテインメントシステムへ変更された。

 そしてみっつめはADAS(先進運転支援システム)の全車共通標準化で、どのグレードであってもアダプティブクルーズコントロールとレーンキープアシストシステムを組み合わせた全車速対応の「Travel Assist」が標準で備わるようになった。

 新しいディスプレイのタッチパネルは反応がいいし位置的にも視認しやすいし、ADASの充実は安全面にも寄与するわけだから、歓迎すべきだろう。が、マイナーチェンジとしては大きなニュースとは言いがたい。今回の最大のトピックであるのは、間違いなくT-Roc Rがラインアップされたことにある。

速くて快適な背の高いGTカーに仕上がった「R」

 エンジンを始動してみると、サウンドは同じガソリンの1.5L直4ターボと較べて、明らかに野太い感じ。その力強い印象はスタートしてからも変わらず、発進直後のごくごく低い回転域から豊かなトルクを提供してくれる。それもそのはず。2000回転から5200回転の間で絶え間なく400Nmの最大トルクを発揮し続けるのだ。街中であろうがどこであろうが、扱いにくいわけがない。なので湘南の海沿いののんびりしたペースでも、高速道路に入ってからの巡航でも、じつに扱いやすいし頼もしい。

 でも、それはそれだ。アクセルペダルをグイと踏み込んでいくと、予想してたよりも強烈な加速感と気持ちのいい伸びを味わうことができる。0-100km/h加速タイムは4.9秒。これはポルシェの「マカンS」にコンマ1秒負けてるに過ぎない。そのフィールは胸がすくといっても過言じゃないレベルで、得られるスピードもにもまったく不満なし、である。わずかに横Gがかかった状態で痛快に加速していってもまったく挙動が乱れる気配がなかったのは、リヤのサスペンションがマルチリンク式に変更されていて、さらには4MOTIONの駆動力の配分が巧みだからだろう。

 今回の試乗ルートにはワインディングロードらしいワインディングロードがなかったのは残念だけど、数限られたコーナーでハンドリングをいろいろ試してみると、その曲がり方はリヤからのキックも感じられるちょっと後輪駆動寄りなテイストであるように感じた。ごく軽いアンダーステアを見せながら結構なスピードで曲がっていく様は、まさしくハイパフォーマンスグレードを標榜するにふさわしい。楽しいか楽しくないかと問われたら、間違いなく楽しいと答える。

 それでいて、乗り心地が望外に良好だったのには感心させられた。シャシーは締められていて40扁平の19インチタイヤを履いているというのに、ときどきタイヤの硬さを感じることはあるもののサスペンションそのものはしっかり上下に動いてる感触を伝えてきて、硬いことは硬いのだけど不快感は微塵もない。アダプティブシャシーコントロールを「コンフォート」に切り換えれば、スタンダードT-Rocと同じくらいの乗り心地、である。長距離でも疲れは少ないそうだから、速くて快適な背の高いGTカーとして活躍してくれることだろう。

ゆったり穏やかな1.5Lモデルもまた心地よい

 うん。これはこれでいい。よくできてる。──と、そんなふうに思いながら、ガソリンの1.5L直4ターボに乗り換えた。150psに250Nmで、前輪駆動で、サスペンションに電子制御は備わらない。そういう意味では明らかに見劣りする。けれど、劣ってる感じはまったくしなかったのだ。いや、速さだとかスポーツ性だとか、そういう点では較べるべくもない。ただ、穏やかなエンジンサウンドを耳にした瞬間からスピードへの欲求というか刺激を求める気持ちというか、そういうものが気持ちからスルッと滑り落ちる。穏やかな心持ちになってゆったりクルージングしていると、なんだか軽く癒されたような気分になってくる。

 SUVというカテゴリーのクルマをどう捉えるのかにもよるのだろうけど、僕自身はSUVには目を見張るようなスピードはいらないと感じてるし、ゆったりした気分で走るのが似つかわしいこっちの方が好きだな、なんて思えたのだ。それにT-Roc Rよりも200万円以上も安いのだから、なおのこと……。

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