ロックとレトロで示したヒョンデが提案する新しいEV像とは
2025年は、土屋圭市氏とタッグを組むなど、中核のEVモデルであるIONIQ 5を使い「速さ」でインパクトを与えたヒョンデ。しかし、大阪オートメッセ2026のブースに並ぶ2台は、「いまEVをどう語るか」というブランドの明確な姿勢を示すコンセプトカーでした。人気ギタリストMIYAVI氏との熱いコラボから、愛犬との暮らしに寄り添うレトロな提案まで、ヒョンデが日本市場において打ち出す、次なる訴求戦略について明らかにします。
速さで存在感を示してきたヒョンデの次なる訴求戦略に迫る
ベースとなったのは、クロスオーバーEVのIONIQ 5と、コンパクトEVのINSTER(インスター)だ。サイズも立ち位置も異なる2台だが、ヒョンデが日本市場に向けて新たに発するメッセージは共通している。EVを“移動のための道具”で終わらせない。暮らしと接続する存在へと拡張する。そのビジョンを体現したのが、この2台のコンセプトモデルだった。
まず、「IONIQ 5 Plug into Freedom.」は人気ギタリストのMIYAVI氏とのコラボレーションモデルだ。タイトルにある“Plug”は、EVの充電を意味すると同時に、“自由へ接続する”という二重の意味を持つ。電気を挿す行為と、価値観をつなぐ行為を重ね合わせたネーミングである。
エクステリアは、ラゲッジルームに搭載した大型アンプを軸にデザインされている。ボディ全面のレザー調ラッピングは、アンプを取り囲む革張りの世界観を全体に拡張したものだ。フェンダーアーチやボディサイドのシルバー加飾は、ギターアンプがもつ金属マテリアルを模したもの。アンプを載せたクルマ、ではない。クルマそのものをアンプに見立てたデザインなのである。
IONIQ 5は人気ギタリストMIYAVI氏とのコラボモデルを展示
そして、このモデルの本質はビジュアルだけではない。IONIQ 5が備えるV2L(Vehicle to Load)機能を活用し、車両から電力を取り出してアンプを駆動させることができる。つまり、飾りではなく実際に音が鳴るのだ。EVがエネルギー源となり、音楽というカルチャーと直接つながる。その体験を、視覚と聴覚の両面で提示している。
ちなみに会場では、MIYAVI氏がこのコラボのために書き下ろした楽曲を用いた映像も上映されており、ヒョンデのサウンドロゴを本人がギターで奏でる演出も盛り込まれている。これもブースでの見どころのひとつだ。
ここでヒョンデが狙っているのは、性能訴求とは異なる文脈でのEVの理解だ。これまで日本では、高性能モデルや走りの話題でブランドの存在感を高めてきた。しかし今回は速さではなく、「EVだからこそ可能になる広がり」に焦点を当てた。電気を外へ供給できるという特性を、音楽というわかりやすい形で翻訳してみせたのである。
‟愛犬と旅をする相棒”をテーマに生活に寄り添うクルマに仕立てたINSTER
一方の「INSTER Retro Traveler」は、より日常に寄り添う提案だ。INSTERはもともとコンパクトで親しみやすいEVだが、このコンセプトでは“愛犬と旅する相棒”というテーマを与えられた。ホワイトを基調にペールブルーを重ねたネオクラシックな配色。どこか西海岸を思わせる軽やかなムードをまといながら、ルーフラックやボディ各所に犬のモチーフをあしらっている。室内には肉球デザインのラゲッジマットやフロアマットを採用し、クルマ全体を“ペットのような存在”として演出している。
重要なのは、その世界観の一部が実際のアクセサリーオプションとして用意されている点だ。メッシュグリルやデカール、肉球デザインのアイテムなどは市販アクセサリーとして展開され、ユーザーがコンセプトモデルに近いイメージに仕立てることは可能だという。
そしてINSTERも、IONIQ 5と同様にV2L機能を備える。アウトドアで家電を使用する、旅先で電源を確保する。可愛らしいスタイリングの裏に、EVならではの拡張性がある。見た目は柔らかくとも、本質はIONIQ 5と同じだ。電気を“走るため”だけでなく、“使うため”のものとして提示している。
暮らしと繋がることでEVライフはさらに広がりを見せるはず
この2台に共通するヒョンデの狙いは明確だ。EVを単なる電動車としてではなく、ライフスタイルのハブとして再定義すること。これまでEVに触れたことのない層に対して、「こんな使い方がある」と具体的に想像させることである。
とくにINSTERの投入以降、日本市場でのユーザー層は確実に広がっているという。大型EVにハードルを感じていた層や、セカンドカー需要を考えるユーザーにも選択肢が生まれている。
今回はIONIQ 5をロックテイストで尖らせ、INSTERはキュートで親しみやすくまとめた。アプローチは対照的だが、根底にあるのは同じ思想だ。EVは移動のための箱ではない。電気というエネルギーを介して、音楽とも、旅とも、暮らしともつながる存在である。
速さで注目を集めるフェーズから、共感で広げるフェーズへ。大阪オートメッセ2026でヒョンデが示したのは、EVを“選ばれる理由”へと進化させるための次の一手だったといえるだろう。
