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46万kmスカイラインGT-Rエンジンの呪縛を開放する【BNR32不定期連載5】

耐久性を高めるハイバランス組み上げ
不均衡をなくしてストレスを解消

ワンオーナー走行46万kmの平成3年式・日産R32型スカイラインGT-R。じつはこの個体は新車時から搭載するエンジンとミッション、さらに前後のデフを使い続けている。
そんな奇跡のスカイラインGT-Rが、ついにエンジンをオーバーホールを奈良県のチューニングショップ「Kansaiサービス」で行った。初オーバーホールは19万kmというから、それからじつに27万kmも走行していることになる。
すでに報告しているように、エンジンブロックは残念ならが交換となったが、クランクシャフトなどまだまだ継続使用する大物パーツが残されていたこと自体が驚き。
さらに、オーバーホールではさらなる50万kmを目指した精密なバランス取りをしたパーツで組み上げられている。
エンジンのブロックは、46万kmの経年劣化に耐えられず各部にクラック(ヒビ)が入り継続使用は不可能となった。使い続けることもできたが、エンジンブローのリスクを回避したというのが正確なところだ。

そこで投入したのは、強度の高いN1ブロック(上の写真)。ちょうどオーバーホールしているとき、日産自動車が標準仕様のブロックを長期欠品していたこともあり、新品ブロックは「N1」しかなかったのが採用の理由の一つでもある。

ピストンは、強度に優れる鍛造のHKSステップ2ピストンを投入。コンロッドやクランクシャフトは、新車時から使用してきたものをバランス取りや研磨、修正などを施し継続使用することになった。

そもそも今回のオーバーホールは、エンジンの寿命を延ばすことが目的でパワーを追求したわけではない。
各部のパーツの強度を高めるとか、精度を高めるのは、耐久性を高め各部の動きをスムースにすることで高いレベルのコンディションを維持できるようにするためだ。
たくさんのパーツで構成されているエンジンは、僅かな重量差などが人間で言うストレスと同じような歪みの原因となるのだ。
これは新品パーツを組み上げただけでは成り立たない。
このオーバーホールを行った「Kansaiサービス」は、まさに調律(チューニング)を施したわけである。

未来の50万kmを目指した施し
RB26エンジン本来の性能を引き出す

精密なバランス取りをした各パーツが、エンジンブロックと合体されていく。
しかし、ネジ1本の締め付けトルクも完全管理され、合わせる部分はすべて揃えられている。
クルマのチューニングというとパワーを出すイメージがあるが、日本語にすれば「調律」。ピアノもエンジンも繊細な調律によって、歪みのないサウンドを奏でることができるわけだ。
ピストン/コンロッド/クランクシャフトが固定され、あとはヘッドを載せる作業に移るかと思ったとき、燃焼室の容量をチェック。
シリンダーとピストンのスキ間に灯油を流し込んで計測するのだが、もし容量が均一でない場合はここまでの作業はすべてやり直しとなる。
燃焼室の容量が均一でなければ、気筒間の圧縮比にアンバランスが生じる。極端なことを言えば、あるシリンダーは低回転域でパワーがあり、ほかのシリンダーでは高回転域でパワーが出るということになる。
そんな状態では駆動をミッションに伝えるコンロッドは、不均衡な回転となる。当然のことながら、そのようなエンジンにスムースな吹き上がりは期待できない。
なによりアンバランスこそ、エンジンの寿命を短くする原因である。

ちなみに、今回のオーバーホールでは、ストリートユースをメインにしているため圧縮比はノーマルと同じ8.5に設定。圧縮比を低めにすればターボの過給圧を高めることができるので、低回転域のパワーやトルクは低くなるがピークパワーは出せるわけだ。

ノーマル仕様のエンジンでも
チューニングパーツを投入する意義

メタルガスケットは、チューニングエンジン用と思われがちだが、じつはノーマルエンジンでは高い耐久性を得るために採用される。さらに面追従性が高いので、シリンダーの気密性を確保できるのだ。
R32型〜R34型スカイラインGT-Rに搭載されているRB26DETT型直6ツインターボエンジンは、発売当時の280ps自主規制などから本来のパワーを発揮していない。表現は悪いが去勢されたようなものだ。
その原因の一つがカムシャフト。ここを少し作用角の大きなものに替え、オーバーラップを付けるだけでエンジンフィールは激変する。

今回はHKSのステップ1カムシャフトを採用。ノーマルコンピュータでも対応できる作用角256度だ。
バルブのシム調整も重要。一つずつ合わせていく。

こうして組み上げられたエンジン。同時にフロントデフもオーバーホールを施し、失っていたイニシャルトルクが復活した。

基本的にはノーマルエンジンと同じ仕様なので、タービンは定番のR34型スカイラインGT-R用となりそうだが、「Kansaiサービス」ではHKS製GTIII-SSタービンをチョイス。メタルタービンを採用するため、純正のセラミックタービンより耐久性に優れているそうだ。

なお、「Kansaiサービス」では純正の冷却水とオイルのパイプラインを使えるように加工を施し信頼性を高めている。
ストリート走行のみということからブースト圧は0.9kg/cm2。最高出力は400psくらいなので、インジェクターは、そのまま純正を使用することになった。
近年流行のR35型GT-R用のエアフロとインジェクターを使えば、さらに精度の高い燃焼コントロールが可能となり、低速トルクが太くなり乗りやすくなることは間違いない。もちろん、それなりの予算は別途必要となるが・・・。

純正パーツの価格が高騰
オーバーホール代の30%を占める

いよいよエンジンがボディに搭載。しかしトランスミッションは、新品の後期型用に換装することになった。後日報告するが、46万km走行したトランスミッションは、ギヤの入りが悪いなどの不具合はあったが、根本的な破損などは見当たらなかった。
高騰するスカイラインGT-Rの純正パーツのなかで、新品のトランスミッションの価格は16万2000円。新車時からのパワートレインを使い続けることにこだわるオーナーではあったが、これまで使っていたユニットをオーバーホールしても費用対効果は新品の方が有利と判断して交換することになったのだ。

ここまでのオーバーホールで掛かった費用は約300万円。このうち純正パーツ代だけで約100万円を要している。もちろん42万5000円と高価なN1ブロックを使ったことも大きく影響している(標準ブロックなら17万円)。
しかし、年々パーツ代は高くなっているのは事実。さらに製廃され手に入らないものもある。先日、日産がR32型スカイラインGT-Rのようなファンに支持されているクルマの純正パーツを再生産すると発表したが、果たしてその価格はどのくらいなるのだろうか。決して安くはないだろう。

実は、このオーバーホールストリーは、これで終わりではない。
まず、オーナーの希望で、現車合わせのコンピュータセッティングはエンジンのナラシ運転が終了してからとなったのだ。さらにボディまわりの補強も行っている。
その件については、近々に報告する予定だ。

(撮影:吉見幸夫)

Kansaiサービス TEL0743-84-0126 http://www.kansaisv.co.jp/

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