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ランエボVIに2.3ℓ搭載・4G63エンジン解体で見えた驚きの真実【不定期連載2】

一般的なオーバーホールの目安は10万km
それを感じさせないタフな「4G63」エンジン

三菱『ランサー・エボリューションIX』が搭載する最後の4G63型エンジンを「エボVI」へ換装したオーナーが、少し早めのオーバーホールを兼ねてボア&ストロークアップキットで2.3リットル化。施術するのは西の名店「Kansaiサービス」だ。
オーバーホールとしては「少し早め」とはいえどもエンジン搭載から約8万km。そこそこヘタリが出ても良い走行距離。果たして、最終型4G63エンジンの内部はどうなっているのだろうか?

そもそもランエボVIへ、MIVEC(吸気側のみの連続可変バルブタイミング機構)を採用したエボIXのエンジンを搭載するメリットとはなんだろうか?
「すでに販売は終了していますが、エボIXが発売されていた当時はMIVECエンジンがターボなどの補器類も付いて58.5万円。オーバーホールしてもこの価格では収まらないでしょう。しかも、MIVEC(可変バルブタイミング機構)がついていて全回転域のトルクが太いので、ストリートからサーキットまで扱いやすいエンジンにできます。本当にお得なチューニングメニューでした」と、Kansaiサービスの向井代表は語る。

今回オーバーホールする4G63型エンジンは、エキゾーストは東名パワードの等長タイプに変更され、カムシャフトはHKSの吸気側272度、排気側278度、スライドカムプーリーが投入されている。
タービンはノーマルだが、HKSのEVCでブーストアップ仕様になっている。
一般的にエンジンのオーバーホールは走行10万kmがひとつの目安。サンプル車はエンジンを換装してから約8万kmとやや早めの施工となる。しかし、今回の作業の目的はHKSの2.3リットルキットを投入なのだ。
HKSの2.3リットルキットは、ピストン、コンロッド、クランクシャフトを交換することでボア&ストロークが85.5×96.0mm(ノーマル85.0×88.0mm)に変更する。ボアは0.5mm広げる程度だが、ストロークを増やすことでピークパワーより全回転域でのトルクアップが期待できるチューニングとなる。

さて、8万km走行した4G63型2リットルターボエンジンは、とくに目立ったオイル漏れなどは見当たらない。インテークマニホールド、スロットルなどハイスペックエンジンとは思えないほど、カンタンに取り外されていく。スロットル内やインテークマニホールドもカーボンの蓄積もなく、まったく問題がない。これはブローバイガスが少ないことを物語っている。

筆者は、日産R32〜34型スカイラインGT-Rに搭載される直列6気筒ツインターボエンジン「RB26DETT」のオーバーホールに何度か立ち会ったことがあるが、それに比べるとランエボの4G63型エンジンは2気筒少ないことを差し引いても圧倒的に部品点数が少ないと感じさせられる。

タービンのアクチュエータの可動部に”傘”のようなカバーは、ボンネットダクトから進入する水滴が可動部に溜まり錆を発生の予防策。エボIXで採用されたそうだ。

ヘッドカバーを外すとカムシャフトが表れるが、カム自体には目立った摩耗は見られなかった。ただ、タペットのクリアランスを油圧で調整をするラッシュアジャスターは、目視では問題なくても信頼性を高めるために全交換となる。 

カムプーリーは、エキゾースト側のみHKS製のスライドタイプに変更されている。イン側カムプーリー(左)はMIVEC(可変バルブタイミング)なので可変プーリーとなっている。

MIVECの動作は、下の写真のアクチュエータで油圧制御。状況に応じて向かって左側の内部が油圧でスライドしてバルブタイミングを変化させるようになっている。

いよいよヘッドを外し、シリンダー内部が見えてきた。

ピストンヘッドには多少のカーボンが付着しているが、まったく問題ないレベル。
ピストンリングも可動しているので、機能はシッカリ保持されていたといえるだろう。

ピストンサイドに擦れた跡があるが、これはロングストロークエンジンの宿命。ピストンが上下する距離が長いので、どうしても首振りしてシリンダーと干渉しやすくなる。そうなるとシリンダー側にも摩耗が見られるかと思ったが、クロスハッチはシッカリ残っていてまだまだ使い続けることは可能な状態だった。

下の写真は三菱お得意のバランサーシャフト(左右の金属の棒)とフロントカバーだ。
中央の穴がクランクシャフトが通る。バランサーシャフトは、クランクシャフトからの出力でベルト駆動で回転し、エンジンからの振動を打ち消している。

バランサーシャフトやクランクシャフト、ピストン&コンロッドの状況を見ると、オーナーはマメにオイル交換をして、油温が上げすぎるような走りもしていないことがわかる。

バルブは、さすがにカーボンが付着してるが、今回のオーバーホール後も再利用できる状態だった。ただヘッド側も含めアタリ面の密着度は落ちているので、シートカット加工を施すという。

もともと4G63型エンジンはタフでトラブルは少ないそうだが、このエンジンのように使用環境が良好な個体では、オーバーホールの目安と言われる10万kmは単なる通過点となっているように思える。
また、MIVECエンジン搭載時にHKS製カムシャフトやプーリーも同時に投入。このときタイミングベルトも耐久性と伸縮性に優れるHKSに変更されている。
このようなマージンを高めるモディファイは、パワーを高めるだけのチューニングより「調律」を重視するKansaiサービスならではの施工と言えるだろう。

取材協力:Kansaiサービス TEL0743-84-0126
http://www.kansaisv.co.jp/

(撮影:伊藤吉行)

 

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