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エンジン始動は神頼み! 昭和のクルマが装着するキャブレターとは

エンジンをかけるにはチョークがキモだった

 1980年代までの昭和の時代、自動車とオートバイに積まれているエンジンの燃料供給は、キャブレターが主流だった。エンジンは、ガソリンと空気を混ぜて燃焼させる構造。ガソリンは液状のままだと燃えにくい性質があるため、空気の中に霧状にして混ぜることで燃えやすくしている。このガソリンを霧状にする役目を担っているのが、気化器と呼ばれる「キャブレター(キャブ)」だ。

 平成の時代になると排ガス規制が厳しくなり、緻密な燃料噴射制御が必要となってくる。そこにキャブレターの代わりに登場したのが、電子制御式となる燃料噴射装置(フューエルインジェクション)。それまでのクルマの多くはキャブだった。キャブ車は、長期にわたってクルマに乗らなかったり、寒冷時の時には始動に手こずることもあり、うまくエンジンをかけるためのコツと慣れが必要だった。

 さらに1970年代までのクルマのエンジン始動は、まさに「儀式」だったのである。エンジンが冷えているときや寒冷時は、ガソリンと空気を混ぜて燃焼させる混合気を濃いめに設定し、始動しやすくする。そのために欠かせないのが「チョーク」という機能だ。

気温や状況に順応しての始動テクニック

 ダッシュボードの下側などにあるチョークレバーを引くと、キャブレターの入り口にあるチョークバルブが開く。エンジンが冷えているときは、空気の量を一時的に絞って混合気を濃くすると、気化しやすくなるためエンジンがかかりやすくなるわけだ。

 気化する燃料の量が増えれば増えるほどエンジンはかかりやすくなる。しかし、チョークの使い方(開き加減など)とアクセルの開け方がポイントで、キャブレター装着車のエンジン始動は大変なところだった。その大きな要因が、外気温や湿気、標高によってもコンディションが変わるからだ。

 1970年代の日産スカイラインGT-Rやトヨタ・セリカ1600GT、日産フェアレディZ432などの高性能モデルはさらにエンジンの始動がシビアで、チョークを上手に使えないと走らせることさえできなかった。キャブレターの種類や数、チョークの種類によってもかけ方が違っていたのだ。

 また、チョークを引いたまま、アイドリングを続けているとエンジン内部にカーボンが溜まりやすくなる。さらに、アイドリングの回転が低くなるし、ときにはエンジンが止まってしまうことも。それゆえ、チョークを戻すタイミングを見極める必要があったのも事実。くわえて、エンジンの冷却水の温度や外気温などによってチョークの引き具合や戻すタイミングを変えるのだが、それが簡単そうで実はむずかしいのだ。

 エンジンの暖まり具合を感じ取りながら、チョークレバーを戻すタイミングを逸してしまうと最悪はエンジンが停止。点火プラグがかぶって(ガソリンで濡れてしまうこと)再始動がむずかしくなる。また、長く引きすぎるとエンジン不調に陥るし、燃費だってよくない。これほどに昔のクルマはシビアだったのである。

定期的なメンテナンスも当たり前の儀式

 キャブレターは故障しやすいが、現在のインジェクションのような電子制御システムに比べると構造がカンタンなので、メンテナンスしやすいのも特徴。

 しかし、機械的にガソリンを送る仕組みのため、走行状況によっては息継ぎするような症状を発生することもある。とくに苦手なのが、気圧や温度の変化。標高差がある場所や温度が大きく変わってしまうなど、場所や気候に性能が左右されやすい。気候や点火系の汚れなどによってエンジン不調に陥りやすいのである。

 そして高性能モデルは、「ソレックス」や「ウェーバー」製などのキャブレターをツインやトリプルに装着。外気温や気圧によって調子を崩しやすく、シングルタイプよりもシビアだったのだ。そのようなこともあって、エンジンの実力を余すところなく引き出すためには、走る状況に応じてキャブレターをマメに調整する必要があった。

 ガソリンを最適なタイミングで霧状に噴射させるために、メインジェットやエアジェット、ポンプノズルなど、ジェットと呼ぶパーツのセッティングが重要になってくるし、点火プラグの焼け方にも注意を払わなくてはならなかったのだ。

 それゆえ、当時は標高が高い山岳路ではジェット類などを交換し、セットアップし直した、なんていう強者も決して珍しくはなかった。

キャブレターはクルマ好きの管楽器だった

 そのような手間がかかるキャブレターではあるが、ドライブフィールは感動モノ。シリンダーの手前にキャブレターの空気の通り道があり、これが狭まっているからアクセルを開けると快音を放つわけだ。とくにソレックスやウェーバーといった大口径のキャブレターを連装したクルマのエキゾーストノートは、高回転まで回すと耳に心地よかった。

 また、インジェクションのような滑らかさは期待できないが、荒々しさや息継ぎまでもがマニアには魅力と映るのだ。今は、電子制御燃料噴射装置だから、寒冷地や標高の高いところでも一発始動が可能だ。暖機運転もほぼ必要なくなっている。便利な時代になったものだ。

 ちなみに日本の自動車からキャブレターが消えたのは2002年。三菱の商用バン、リベロカーゴが最後の装着車だった。オートバイはその後もキャブレターを使っていたが、2006年から排ガス規制が強化され、電子制御燃料噴射装置が多く使われるようになった。

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