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ネクセンタイヤが激戦86/BRZレースにワークス参戦する理由とは

フォーミュラドリフトUSAでチャンピオン獲得

 海外のタイヤメーカーが、最初に日本のレースに討って出るのは、トップカテゴリーであるという印象が強いが、韓国タイヤメーカー「NEXEN TIRE(ネクセンタイヤ)」はTOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race (以下86/BRZレース)を選んだ。

 86/BRZレースとはトヨタ86とスバルBRZのナンバーつき車両によるワンメイクレースだ。NEXENの初参戦は昨年のこと。激戦区として名高いレースではあるが、当初参戦していたのはアマチュアレーサー向けのクラブマンシリーズで、そこではN’FERA(エヌフィラ)SUR4Gというスポーツタイヤが用いられていた。

 その前に、SUR4Gなるタイヤ、さらにNEXENについて簡単に説明しておこう。母体としての企業は70年以上の歴史を誇るが、社名を改めてNEXEN TIREとして立ち上げたのは2000年から。モータースポーツとの携わりは、実は北米が先行している。フォーミュラドリフトUSAを戦うフレデリック・オズボー選手にSUR4G(および前型のSUR4)を提供し、2015年にはチャンピオンを獲得。その後3年連続シリーズランキング2位、今年も目下ランキングトップで、オズボー選手の王座返り咲きの可能性は高い。オズボー選手もSUR4Gも、フォーミュラドリフトUSAでは常にトップクラスの実績を残している。

 日本でのNEXENの知名度は決して高くないが、このように性能は実証済のタイヤであるSUR4Gで86/BRZレースのクラブマンシリーズを地道に戦い、いずれ優れたパートナーとタッグを組むことで、徐々に成績やシェアを高めていくことを目標にしているのだろう、と勝手に想像していた。

激戦区プロフェッショナルシリーズへ参戦

 ところが、今年になって急転直下。NEXENは、よりレーシングなスペックの新設計タイヤ、N’FERA Sport Rを新たに投じ、86/BRZレースのプロフェッショナルシリーズに移行しての参戦となった。 正直なところ、先の勝手な想像からすれば、クラブマンシリーズで結果を残せぬまま、激戦区を通り越してタイヤウォーズとまで呼ばれる、熾烈なバトルが繰り広げられている、プロフェッショナルシリーズに挑む真意がつかめずにいた。そんな折、ネクセンタイヤジャパン営業本部長・西村竜氏に話を伺った。

「レースに参戦しようというのは、日本法人からのリクエストではなく、NEXEN本社発信のプロジェクトです。ただ、アメリカのフォーミュラドリフトでは割と早く結果を出せたのですが、サーキットでのレースはほとんどやったことがないし、スリックタイヤも持っていません(作っていない)。モータースポーツに関しては、まだまだ経験不足です。本来なら自国(韓国)のサーキットで経験を積むべきなのでしょうが、モータースポーツの土壌ができていない。そこで白羽の矢が立ったのが、日本の86/BRZレースでした。ワンメイクカーレースには、タイヤ性能を比較しやすいという利点があります。日本は物理的な距離が近い事も好都合ですし、熾烈なタイヤ競争はかえって試練の場になりますし、スタート地点としては良い選択だったと思います」と西村氏は語る。

 では、クラブマンシリーズから、プロフェッショナルシリーズへの移行した理由は・・・・・・。

「クラブマンシリーズでも十分、大変でした(笑)。そこでいろいろ検討した結果、どうせやるなら、トップレベルのドライバーが参加しているプロフェッショナルシリーズに挑戦しよう……と。ええ、より苦労するのは承知の上です。ただ、昨年以上に本腰入れていて、毎レース、本社から研究所のスタッフが来るようになりました。正直、すぐ結果が残せるなんて、甘い気持ちは少しもなくて、年単位の時間が必要な事は覚悟しています」と86/BRZレースの厳しさを真摯に受け止めていた。

 実際、プロフェッショナルシリーズに参戦が決まったはいいが、実績のない新規参入メーカーのタイヤをわざわざ使ってくれるチームなどない。そこで、今年から新たにNEXEN RACINGが結成され、スーパーFJやFIA-F4などエントリーフォーミュラの経験を持つ、岡本大地選手をドライバーとして起用している。だが、正直なところ結果は出せていない。

「クルマやドライバーも発展途上ですが、今はタイヤにより多くの課題があると思います。また、まだ実績はないけど、これから伸びるだろうという若いドライバーが、NEXENのチャレンジする精神には合っています。先ほども言ったとおり、今すぐ結果、とは開発陣も思っていません。もし早い段階で結果を出せるようであれば、それは驚異的な開発能力だと思いますよ。まぐれでは結果の出ない世界ですから」と西村氏。

モータースポーツでの実績がブランド力を高める

「当面の苦戦は承知のうち……」ということなのだ。そういった長期的な視野を見据えられるのは、同じ韓国のライバルタイヤメーカー、ハンコックの前例もあるからだという。

「最終的に、可能であればスーパーGTに参戦したいという意向があります。ハンコック社が以前やっていて、勝つまで数年かかったと聞いています。ハンコック社がスーパーGTで結果を出したことで、日本でのバリューが上がりましたし、タイヤのプロの人たちの見る目が変わりました。ハンコック社はヨーロッパでも積極的にレース活動を行っていて、DTMに参入してからは、ドイツでの新車採用が一気に増えました。86/BRZレースというのは、盛んなレースであるとともに、トヨタが関わっているレースじゃないですか。NEXENとしては、いずれトヨタの新車にOEタイヤを供給したいという夢も持っていますので、そういう意味でもベストチョイスだったと思います。2000年に生まれたタイヤブランドとしては、適切なステップではないでしょうか。モータースポーツとOEは、タイヤメーカーの王道ですから」と西村氏はNEXENの未来を語る。

 ポルシェの新車装着タイヤとしての認証は受けているが、モータースポーツにおいてはまだ新参者のNEXEN TIRE。グローバルメーカーとしてさらなる飛躍を遂げるための足がかりとして、86/BRZレースを選んだ理由がはっきり理解できた。目標が達成されるまでの過程を、じっくり見守っていきたいものである。

ネクセンタイヤ 
https://www.nexentirejp.com/

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