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信号と連携する自動運転バス試乗! 減速時のカックンブレーキで課題も残る

小田急グループとSBドライブが江ノ島で公道実験

 小田急グループの小田急電鉄と江ノ島電鉄、ソフトバンクグループのSBドライブが、神奈川県の江ノ島で、8月21日に自動運転バスの報道関係者向け試乗会を実施。実験車両にはセンサー類など様々な装置を搭載するほか、信号や交差点に設置したセンサーからの情報などで、正確に周囲を把握しレベル3の自動運転が可能だという。

 だが、歩行者や他のクルマが多い観光地の公道では、急に止まるいわゆる“カックン”ブレーキが続くなど、完全自動化にはまだまだ課題が残っている印象だった。

車両は日野ポンチョがベース

 今回の試乗会は、8月21日〜8月30日の間に行なわれる自動運転バス実証実験の一環として、初日の21日に実施したもの。路線バスのドライバー不足など公共交通機関に関する社会的課題の解決策を模索することが目的で、江ノ島での実験は2018年9月に続き2回目(筆者は昨年も試乗)。

 実験を実施したのは、鉄道やバス事業に携わる小田急グループをメインに、2020年の東京オリンピック開催時に江ノ島での運用を目指す神奈川県が協力、技術面では自動運転技術や関連サービスの開発を手掛けるSBドライブが参画している。

 主な実験内容は、江ノ島周辺の「県立湘南海岸公園中部バス駐車場」(臨時バス停)~「湘南港桟橋バス停」 間の片道約2km、往復約4kmの行程。自動運転バスを走行させ、一般車両や自転車、歩行者が行き交う公道で、自立走行に関する技術面や乗客サービスなど運用面の検証を行なうというもの。

 実験エリアは、関東在住の人ならよくご存じの観光地・江ノ島。平日とはいえ夏休み真っ直中であることもあり、多くの海水浴客や観光客が訪れ、また大きな渋滞はないもののクルマの通行量も比較的多い状況だ。

 実験車両は、日野自動車のマイクロバス「日野ポンチョ」がベース。車体の前後左右へ7台のカメラを搭載したほか、電波の反射で人や他車、障害物など物体と自車との距離を測定する”ミリ波レーダー”など自動運転向けセンサー類を装備している。

 センサーには他にも、車両前後には人や車、障害物などの距離と輪郭を補足するLiDER(ライダー)も装着されるが、今回の実験では昨年仕様に比べ、より精度が高い3Dタイプを採用している。

 また、運行制御システムに走行ルートの地図情報などを事前に登録したほか、車体ルーフに設置したアンテナ類によりGPS情報も取得することで、より正確な自車位置を把握し、誤差5cm範囲の正確な運行が可能だという。これらにより、いわゆる“レベル3”の自動運転が可能。レベル3とは、限定エリア下という条件はあるものの、システムが全ての運転タスクを行ない、システムの要請や状況などに応じドライバーが手動に切り替え対応をする自動運転のことだ。

 

ドライバーがいることで公道でも安心感は高い

 早速、実験用バスへ乗車し座席に座る。アクセルやブレーキ、ハンドル操作は自動だが、今回は、運転席に現役のバスドライバーが座り、自動運転中はハンドル近くに手を添えたいわゆる“手放し運転”という設定。不測の事態や安全確保が必要な時には、ドライバーがいつでもハンドルを握り手動運転に切り替えることで、実験中の事故などを防ぐことが目的だ。

 ついに走行スタート。発進時はいたってスムーズで、出発点のバス駐車場から走行ルート内の国道134号には問題なく合流する。今回の実験では、国道では最高速度40km/hまで、ルート途中にある江ノ島へ渡る江ノ島弁天橋では最高速度35km/hまでの速度で走るようにシステム設定されている。

 速度が比較的低いことと、ドライバーが同乗していたため、周りの車両が不意な動きをした際にもすぐ対応してくれるという安心感があり、自動運転中でも不安感はない。逆に、もしドライバーがいなかったら、乗ってしばらくは少し不安に感じるのかもしれない。

 

インフラからの情報で精度アップ

 実験車両は、前述の通り、信号や交差点といったインフラからの情報も携帯電話などに使われるLTE通信を介して取得。公道を走ることを前提とした自動運転バスは、当然だが“止まれ”の赤信号や“進め”の青信号、“注意”の黄色信号や右折信号など道路法規を守って走る必要がある。従来、この手の実験車両では、信号の認識は車載カメラで行なっていたが、逆光や障害物で認識しづらい場合があるという問題があった。

 そこで、今回導入したのが信号機から通信で直接情報を入手する方法。これにより、バス側は信号の切り替わりなどをより正確に判別することができる。なお、実験では、走行ルート中にある5台の信号機を通信機能付きタイプにしてバスと連携。赤信号で停止中に、あと何秒で青信号に切り替わるかといったこともモニターで表示されていた。

 一方、交差点に設置したセンサーは、今回の場合は交差点を右折する際に対向車の動向を判別するために使用(写真下の信号左上のボックスがセンサー)。これにより、2018年の前回実験ではドライバーが手動で行っていた右折まで、自動運転で行なうことが可能となっている。

 

交差点の右折レーンで“カックン”

 そこまでは、かなり進歩が見える実験車両だったが、交差点の右折レーンへの進入時にちょっと気になることがあった。

 レーン内には先に他のクルマが止まっていたためバスはその後ろに停車。その後、前車が交差点へやや前進しすぐに停車するというよくあるレーン内の動きに対し、バスも車間を詰めるため前車に自動で追従しようとしたのだが、止まる時にブレーキがグッと効き過ぎて、座っていても感じるほど車体姿勢が前方へ。いわゆる“カックン”ブレーキだ。前車がさらに少しだけ進み止まると、バスも再び進んで“カックン”と止まるといった挙動を再三見せていた。

 車体の挙動は、速度が2〜3km/hと低かったこともあり、座席に座っていれば問題ないレベルだったが、立っていたら上体が前へもっていかれ、場合によってはバランスを崩すことも考えられる。路線バスでは、立っている乗客や車いすで乗車している人がいることも想定できるので、こういったブレーキ制御については改善が必要だと感じられた。

 また、江ノ島内の道にある横断歩道手前で一時停車する設定だったが、一旦止まり再発進しようとしたタイミングで、歩行者が急に横断歩道を渡り始めた際にも急停車に近い“カックン”ブレーキ連発。

 これについて、技術関連の担当者は、試乗後の質疑応答で、「歩行者の急な飛び出しなどに対し、どれだけ早く車両が認識するかについては、課題も残る」とコメント。安全面についても、公道ではまだまだ改善の余地があることを語った。

 

車内監視システムも搭載

 ちなみに、実験車両には、フロントガラス上部にモニターが設置されおり、乗客の様子を写しだしていた。これは、SBドライブが開発中の遠隔運行管理システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」の映像。同システムは、車両から離れたデータセンターなどにいる遠隔運行管理者が自動運転中の車内を常に監視するためのものだ。

 主な仕組みは、車内に設置した数台のカメラからの画像情報がデータセンターへ送られ、AI画像認識システムがそれらを基に乗客の様子を常に監視。例えば、運行中に乗客が立ち上がり移動した際に転倒の危険がある場合には、管理者が車内にアラートを出して注意を促すなどで、ドライバーがいない自動運転バスにおける安全上の管理を行う。

 さらに、実験では8月26日からセーリングワールドカップシリーズ江の島大会が開催されることもあり、一般から募った参加者の試乗も予定。車内に車掌が同乗することでサービス面の検証も行なう。

 いかに車両が安全に自動運転をできるようになったとしても、例えば高齢者や障害者などが乗降する場合の補助は必要。その意味でこの試みは、実際に運用する際には当然必要となるサービスのひとつだといえる。

 今回は、車掌に扮したスタッフが、ルート上にあるバス亭で乳母車を車内に乗せるのを手伝った後、安全確保のためロープなどで乳母車を固定する実験を実施。車掌の役割は、ほかにも乗客乗車時の本人確認や、不測の事態などの際に車内外の安全確認を行なうなどを想定しているそうで、これらにより車内でリアルタイムに必要となるサービスの充実を図るという。

 

自動運転時間は格段に伸びた

 前回の実験では、特に江ノ島内の狭い道路の路肩に路上駐車車両が多く、それらを避けるためにドライバーが手動に切替える場面が多かった。その点、今回は、走行ルートの距離は前回の約2倍だったにも関わらず、ほとんどの区間で自動運転をしていた印象だ。これは、制御ソフトのアップデートなどで自動運転機能が向上したことは間違いない。ただし、江ノ島内の道路に関しては、今回は路肩にコーンを設置し路上駐車ができないようにしていたため、一概に技術面の成果だけとは言い切れないだろう。

 人などの認識やブレーキの細かな制御など、自動運転バスの実用化にはまだまだ課題もある。だが、今回試乗した印象では、空港や商業施設などの限定エリアで人や他車がいない道での運用なら、急な飛び出しなど不測の事態が少なく、意外に実用化の時期は早そうな気がする。

 自動運転バスは、公共交通機関の路線数減少などが問題となっている地方の過疎エリアなどで、高齢者など住民の「生活の足」としての運用も期待されている。だが、今回試乗した印象では、公道での活用にはもう少し技術面での進歩が必要だと感じた。

 サービス面や導入コスト、運用地域の自治体との連携など、他にも乗り越えるべき問題は多いだろうが、まずは“乗客が安心して乗れるクルマ作り”が先決かもしれない。

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