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普段使いもこなす、トヨタ・マジェスタの心臓部を移植した50’sポンティアック

古き良き時代のアメリカを偲ばせるスタイリング

 とあるクラシックカーイベントに出展されていた1台の古めかしいアメ車。古き良き時代のアメリカを偲ばせるスタイリングに惹かれて近づいてみる。1950年式ポンティアック・シルバーストリークだ。ところが、エンジンのアイドリング音が、オリジナルとなんか違うような…。

「積んでいるエンジンを知ると皆さんビックリします」。そう語るのは鹿児島県内で歯科医院を営むオーナーの重永誠之さん(76歳)・応樹さん(42)親子。

 元々は3.9リッターの直6エンジンをトヨタ・クラウン マジェスタ用の2JZ-GE型3リッター直6(240馬力)に換装しているのだという。

 シルバーストリークの購入は2013年。誠之さんのひと目惚れだった。
「3年間ほどでしょうか? 鹿児島県内の中古車販売店“アメリカンドリーム”のショールームに展示されていました。不動車でしたが、間近で見てみるととてもキレイで新車のような輝きを放っていました。内装もほぼオリジナル。気づいたら契約書にハンコを押していました」。

 ちなみに、当該車両は、1991年(平成3年)から一時抹消登録されており、約10年間倉庫に眠っていた個体だという。

12Vバッテリー化、エンジン&ミッションを換装

 再生のために、さっそく日頃メンテナンスでお世話になっている県内のガレージにシルバーストリーク持ち込み、初めて運転席に座った父・誠之さん。ところが、ここで予想外の事態が発覚する。

 クラッチどころか、ブレーキペダルを踏み込もうと足を伸ばすも届かない。シートを一番前にスライドさせても、シートバックにクッションを当ててもダメ。身長158cmの誠之さんには遠すぎたのだ。

 厚底シューズではないが、木材とゴム材を貼ってペダル自体を厚くする作戦に出たが、なかなかうまくいかない。この時点で、もはや運転は息子の応樹さんに譲るしかないと諦めたという。

 さらに、バッテリーの電圧が現代のクルマでは一般的な12ボルトの半分、6ボルトと非常に低いため電気の使用量が上限一杯近くになると、ヘッドライトは自転車のそれよりも頼りない光度に。エンジンの始動もままならなくなる。

 かくして、12Vバッテリー仕様へのバージョンアップとともに、エンジンおよびミッションを載せ替える方向で具体的に話が進みはじめたが、鹿児島県内のガレージでは他の作業と並行となるため、時間がかかってしまう。そこで、遠路はるばる、以前から応樹さんと親交のあった千葉県松戸市の“JEEP CAFE TOKYO”に持ち込むことにした。

「2トン近い大柄なボディに対して、エンジンが約90馬力と貧弱だったので、パワートレインのスワッピング(換装)には抵抗なかったですね。V8エンジンがアイデンティティだったり、マスタングといったスポーツモデルだったら話は違ってきますが…。ホノボノとした雰囲気はそのまま、普通に走れるほうがいいと考えました」(応樹さん)

 紆余曲折を経て、“見た目は‘50年代、中身は現代的”をコンセプトとした大改造は、作業開始から公認車検取得まで約4カ月という短期間で終了。28年ぶりに無事路上復帰となった。

ホイールスピンも誘発する動力性能

 初のお披露目は冒頭のクラシックカーイベント、2019年11月23日に開催された“COPPA DI TOKYO”だが、じつは応樹さん、イベントの前に試乗がてら東京の名所を巡っていた。

「パワートレインの積み換えで400kgほど軽量化されたことも功を奏している様子で、発進・加速が力強く、アクセルレスポンスもいい。濡れた路面で不用意にアクセルを開けるとホイールスピンするほどです」。

 パワフルなエンジンとプアなブレーキとのギャップもそれはそれで刺激的だが、応樹さんは、安全面も考慮して今後のブレーキの強化、つまりディスク化も検討しているという。

 イベント後日、撮影のため、今回のシルバーストリークを手がけたJEEP CAFE TOKYOの代表・和田さんに千葉県松戸市から埼玉県の河川敷まで助手席に乗せていただいた。

 モケット地のベンチシートは、昔のアメ車らしいフワフワとした座り心地。サスペンションはきわめてソフトで、カーブにさしかかかると、やや大袈裟なロールを感じさせるあたりも往年のアメ車テイストだ。

 それとは対照的に、動力性能は現代のクルマそのもの。信号が青に変わったタイミングで、和田さんにアクセルを大きく踏み込んでもらうと、2JZ-GEエンジンは勇ましい咆哮をあげ、4速ATの適切なギヤリングとも相まって、背中を蹴飛ばすような力強い加速をもたらす。速い!

 なによりのチャームポイントは全長5.1mという長大なボディにマッチした、テールが垂れ下がったファストバックの流麗なスタイリング。独自の存在感で周囲の視線を釘付けにする。

“臓器移植”で70年前のクルマの命を繋ぐ

 生粋のクラシックカーファンからすれば、スワッピングなど“邪道”と思われるのかもしれない。が、旧車の楽しみ方は人それぞれだ。

「こんなレトロなクルマが、故障などの心配をせず、普通に走れたら夢があると思いました。信頼性の高いトヨタ製のパワートレインなら真夏・真冬でもエアコンを効かせながら日常的に使える。ワタシにとってのまさにドリームカーです」。

 70年前に生まれたクルマに現代車の“臓器” を移植し、その命を繋いでいくことの意義と、素晴らしさ。応樹さんの言葉に思わず納得だ。

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