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社会問題の「介護疲れ」を緩和! 介護者はもちろん障がい者も満足できる福祉車両選びとは

機能の簡便さだけではなくどこに行くかも重要

 介護疲れしにくい福祉車両の選び方といっても、画一的な話にはなりにくい。理由は、障害を持つ人や高齢者も含め、一人ひとり体の状態が異なるからだ。また高齢者福祉の場合には、必ずしも福祉車両ではなくても、そもそものクルマ選びをどのように考えるかといった見方もある。

 ことに高齢者の場合は、いまの状況だけでなく数か月後の体力の変化など、比較的短期間に体調が変わる可能性もあるので、予測は難しいながら、こうなるかもしれないといった想像力を働かせることも大切だ。

 健常者が考える福祉車両は、機能が満載され、あらゆる操作が電動化などで自動的に楽にできるのがよいのではないかと思いがちだ。しかし、介護される側からすれば、モーターが動き出す瞬間の回転力の掛かり方次第で、急に動き出したり、ガクンッと強いショックがあったりすると恐怖心が先に立ち、利用したくないといった気持にもなる。

 なぜなら、障害があったり体力が落ちたりした人は、瞬間的な動きや方向転換へ体を踏ん張ることが十分に、しかも素早くできないからだ。そこを考えると、介護者が主導で動かす機能の方が、唐突にならずに済むこともある。

 自動であろうと、人手で動かすのであろうと、何か動作をはじめる前には必ず「これから動きますよ」とか「前へ進みますよ」「後ろへさがりますよ」といった声掛けは不可欠だ。

どのような場所で車椅子の乗降を行うかも考慮

 障害を持つ人のなかでも車椅子で移動する人には、スロープ付きの福祉車両がもっとも思いつきやすい選択肢だ。日常的に使っている車椅子のまま、車体後方のゲートを開け、乗車のためのスロープを引き出し、車内へ乗り込む。

 車内には、車椅子を牽引するためのフックとワイヤーが装備されているので、介護者はそれを車内から引き出し、車椅子の骨格にフックを引っ掛け、ワイヤーの巻取りで車椅子を引き上げる力を補助にして車椅子を押し上げる。そしてフックを固定することにより、車椅子が車内で移動しないよう位置決めをする。そのうえで、3点式シートベルトを取り付け、下車し、スロープを折りたたんで、リアゲートを閉じる。これだけの作業をするのに、10分前後は要するだろう。

 また、スロープを車体の後ろへ引き出すため約1mの余裕が駐車場所に必要であり、さらにその後ろから車椅子を押し上げるのであるから、さらに車両後方のゆとりが不可欠になる。こうなると、建物に対し後退してクルマを止めるのが難しい状況も考えられ、前向きで駐車するとなれば、今度は出発の際に後退して道路へ出なければならず、後席側に車椅子で乗った人が後方確認の見通しを悪化させる可能性もなくはない。

 したがって、単に福祉車両の出来や、車椅子で乗り込むための機能の簡便さなどだけでなく、家や出先など、どのような場所で車椅子での乗降を行うかも考慮すべき要件の一つになってくる。

トヨタはクルマで移動するための専用車椅子を開発

 慣れた車椅子で乗車しても、クルマの加減速やカーブでの遠心力などで揺れた際、下肢が不自由な人は上体を支えにくいため、福祉車両を使うことで移動の目的は果たせても、乗車すること自体が苦痛になる場合もある。

 トヨタでは、クルマで移動するための専用車椅子を開発しており、これは乗車後に座席が後ろ側へチルトする機構を備え、若干傾けることにより背で上体を支えるような仕組みになっている。また3点式シートベルトを装着することを前提に車椅子の骨格が設計されているので、介助者がベルトを装着しやすいように工夫されている。

 ただし、すべての車椅子利用者が、日常と移動とで車椅子を使い分けることは難しいだろう。将来的には、クルマでの移動を前提とした車椅子の普及がより望まれるのは確かだ。

 そこで、障害を持つ人や介護する人の年齢や体力にもよるが、車椅子からクルマの座席へ乗り換えるほうが、乗車中の体が安定しやすい場合も考えられる。クルマの座席は、背もたれをリクライニングさせることができ、それによって背中で上体を支えることができるからだ。

 この場合には、回転式のチルトシートやリフトアップシートであれば、車椅子への乗り換えも楽になるだろう。だが、車椅子の座面とクルマ側の座席の高さが同じになるかどうかなどをあらかじめ確認しておくことが大切だ。当然、段差があれば、座り替えしにくい。

 自分で座り替えることのできる人ならいいが、腕で体を支えにくく介助の必要のある人もあるので、介護する側の体力が問われる可能性がある。

クルマの使い勝手は介護者が確認しておく必要がある

 回転式の座席を利用する場合も、クルマの側面にある程度ゆとりのある駐車場でないと、車椅子で近づいてクルマの座席へ乗り換えることが難しくなる。高速道路のサービスエリアなどにある障害者用駐車場が広く作られているのは、このためだ。

 そのうえで、目的地では再び車椅子へ座り替えることになるので、移動中はトランクなどに車椅子を載せておくことになる。車椅子は5~10kgほどの重さがあるので、ウインチなどを利用して荷室へ乗り込むと楽だが、その使い勝手も介護者が確認しておく必要がある。

 単に重い車椅子を容易に持ち上げられるだけでなく、それを荷室へしまい込む手順や、周囲の空間、また車体を傷つけない配慮などがどのようになされているかなどを実体験してみるだけでなく、利用する駐車場などの周囲の様子も想定しながら検討するといい。  以上のように、福祉車両の機能や装備だけで決めるのではなく、使う場所の駐車施設や道路の状況なども考慮しながら選ぶとよい。

回転シート機能は体力の落ちた高齢者の乗降を助けてくれる

 次に、高齢者の介護については、年齢を重ねるごとに体力に変化が生じるので、基本的には自力での乗降がより難しくなる可能性を視野にクルマ選びをする必要がある。

 まず、急いで福祉車両を購入するのではなく、一般の乗用車でも、どのような車種を選ぶべきかの視点がある。年齢を重ねると、玄関の段差さえ足が上がりにくく、また足が上がっても、そこで踏ん張って自らの体を持ち上げるのが難しくなっていく。

 クルマに乗るときも同じであり、座席の高いSUVやミニバンは、そもそもクルマに乗り込みにくくなる。一方、昨今では4ドアセダンの人気が下がる傾向だが、実は高齢者を乗せるには座席の位置が低いセダンやハッチバックなど、昔ながらの車種のほうが容易だ。

 そして腰から先に座席に座り、あとから足を車内へ差し入れる。降りる際も、まず足を地面につけて、それから上体を車外へ出す。このとき、自らの力で出られない場合は、手を引くなど手伝う必要が生じる。

 このとき、たとえば福祉車両の回転シート機能があると、当人の体全体がまず車外へ出て、そこで介護者が手を引くことができるので、乗降は容易になる。

 軽自動車のトールワゴンや登録車のミニバンにも、そうした回転シートや回転しながらスライドしたりリフトしたりする機能がある。それであれば背の高い車種であっても、座席の機能が体力の落ちた高齢者の乗降を助けてくれるだろう。

使う現場での使い勝手を実際に確かめる

 床下にステップがせり出す機能もあるが、ステップは、玄関の段差と同じことであるため、そのままずっと有用であるかどうかは定かではない。また、ステップを踏み外すなどの懸念もあるので、介護者が付き添う方が安心だろう。

 以上のように、介護を必要とする人たちとクルマで移動するには、考えている以上の現場力や知見が不可欠だ。そこで、できることなら当事者と一緒に販売店へ行き、状況が許されれば自宅まで試乗をし、使う現場での使い勝手を実際に確かめるといいのではないだろうか。

 レンタカーなどを借りる際にも、借りてからやっぱり使えないということにならないよう、事前の検討を入念に行うといいだろう。とはいえレンタカーは借りる時点ですでに使用料が発生するので、容易ではない。また乗降などに時間を要したり、駐車できる場所を探したりする手間が余計に掛かる可能性があるので、借用時間や返却日程に通常のレンタカーに比べゆとりを持たせておくことも必要ではないか。返却を慌てると、余計な事故を生じさせてしまう恐れもある。

 購入するにしても、借りるにしても、相談にのってくれ、具体的な助言のできる店をまず探すことが、はじめの一歩となりそうだ。

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