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「シャコタン」よりも世間の目も優しい! 軽自動車の「シャコアゲ」が流行るワケ

中途半端に下げるなら、逆に上げてみるという選択

 車高をアゲて乗るという文化は、四駆の世界などではずいぶん前から存在していたが、ことドレスアップカーという視点から見ると、数年前まではほぼ「あり得ない」と言ってよかったと思う。車高は落とすのが当然。ローフォルムで地を這う姿こそがカッコイイ、というのが長らくドレスアップ好きの定説であった。

 軽自動車カスタムもその流れに乗って、いかに低くするかに「しのぎ」を削ってきたものだったが、近年少し様子が変わってきたように思う。中途半端にサゲるなら、アゲてしまった方が格好いいんじゃないか、というムーブメントが発生。特に純正ショックのストローク量でギリギリまかなえる範囲で車高を上げる「ちょいアゲ」派が急増中なのだ。

 そんな軽自動車のリフトアップ文化は、間違いなく軽カー総合カスタマイズメーカーの「KLC」が推奨してきたと言える。同社が出した車検対応、約3センチ(車種により数ミリの変動あり)のリフトアップスプリング「轟」は、今や50車種以上のラインナップを誇る。

 だが同社は車高短が似合うオシャレで小振りなエアロで有名だったはず(今でもS660などはそのスタイルのエアロパーツ)。代表の川原さん自身もかつては車高短乗りで「正直車高短以外のクルマには興味が無かった」とも言っていたほど。だが、知人のショップに頼まれて、エブリイのリフトアップ車を作ったことをきっかけに、アゲの魅力に開眼した。

他の趣味にも似合うカスタムを求める時代に

「初めて車高が上がったエブリイを見た時に『あれ? 悪くないじゃん』と思ったんですよね。これはこれでアリなんじゃないかと」。
 それがいまから約4年前。そこから色々な車種でリフトアップスプリングを作り始める。ただ当初は軽自動車をアゲるということ自体がさほど認知されておらず、反響はイマイチだったそうだ。

 その潮目が変わったのは、ハスラーの登場から。
「ハスラーは元々純正でワゴンRよりも3センチぐらい車高が高い。つまりメーカーとしてもリフトアップをアリなスタイルとしているわけですよね。しかも当時、先代の23ジムニーなんかをリフトアップしていたショップたちが、こぞってハスラーに手を出し始めた。そこからリフトアップって仕様が少し浸透したというか。その後、エブリイとかの箱車をアゲる人が出始め、さらにはそれが軽トラにまで波及し、ブームが加速していった気がします」。

「遊べる軽」をキャッチフレーズに登場したハスラーの存在は、軽自動車の流れを変えた。
「クルマと釣り、クルマとキャンプといったように、クルマと何か違う趣味を抱き合わせして楽しむ流れになってきたんですよね。キャンプをはじめとするアウトドアブームが来たこともあって、そうした場所に行くのにカッコイイクルマって何だろうという価値観がうまれてきた。そうなると、やっぱり車高短よりも断然車高がアガっていた方が使い勝手がいい。腹下も何も気にせず走れるのはやっぱり魅力ですから」。

ブーム後押しの要因にある「世間の目」

 その流れが大きくなるにつれ、先述したハスラーや軽バンからのオーダーだけでなく、ネイキッドのようないわゆる旧モデル、さらにはコペンやアルトワークス、ミライースといった、アゲたスタイルを想像しにくいユーザーからの問い合わせも来たという。「少し前にはとある県の消防署にも納品しましたね」。

 ではなぜそこまで「ちょいアゲ」が支持されたのか。そこには「世間の目」が確実にあるという。
「若い頃に本気でシャコタンに乗ってた人って、年取ってもノーマルのクルマに乗るのが嫌なんですよ。ちょっとタイヤとホイール買えようかな、ノーマルよりは車高落としたいな、ってなる。かといって車高調入れてまで本気になる気もほどでもない。じゃあ中途半端に2〜3センチ落ちてるなら、アガってた方がおしゃれなんじゃないかな、って。車高の低いクルマって、変な緊張感があって疲れるんですよ(笑)」。

「あと…これをメーカー側の自分が言うのもどうかと思いますけど、自分の歳くらいになって買った軽自動車をゴリゴリの『どシャコタン』にして、それを同級生に見られた時……なんていうか、恥ずかしいというか、やっぱり痛い感じが少なからずします(笑)。世間体が悪いというか。でもそれがアゲだと、不思議とオシャレなクルマ乗ってます、っていう感じになるんです」。

 確かに車高短はどうしてもワルっぽいイメージがあり、そこがまた魅力ではあるのだが、年齢を重ねると共に仕事や周囲の環境にそぐわなくなることも多い。

「リフトアップ車ってトゲトゲしくないから、一般の人から見ても抵抗感が少ないんだと思う。不良っぽいタイプのドレスアップカーとはまた違って、やり方によってはちょっとオシャレな感じに見えると思うんですよ。ウチなんかでも車高短のデモカー撮影している時と、ちょいアゲのデモカー撮影の時だと、周囲の人の視線が確実に違いますからね(笑)」。

足まわりだけでそれっぽく見える手軽さも魅力

 アゲブームのもう一つの理由は、その手軽さにもあるのではないかと前出の川原サンは言う。
「少しだけ車高を上げて、タイヤ&ホイールを変えるだけで雰囲気が出る。そこからキャリアを付けたり、シートカバーを付けたりっていうプラスαで十分楽しめるから、無理せずドレスアップが出来るんです。しかも車高短にしてピョンピョン跳ねて、しかも行ける場所が限られるようだと家族からもクレームがつきますが、ちょいアゲならそこもほぼ問題ない。お小遣いの範囲で出来るから、結婚している人でも出来ちゃうと思います」。

 足まわりだけで完成する仕様だからこそ、タイヤ選びは重要なポイントとなる。4WD系の「ボコタイヤ」が主流だが、あえてラジアルタイヤにしたり、ホワイトリボンやホワイトレターといった選択肢もある。少し前まではサイズ的に限りがあったのだが、トーヨーや横浜ゴムといった主要メーカーからも軽自動車用サイズの4WDタイヤがリリースされ、色々選べるようになったのもブームへの追い風となっている。


  車高短同様、どうせやるならとことん上げたいという人もいるだろうが、同社が推奨するのは、あくまで車検対応内で出来る「ちょいアゲ」。

「もちろんもっと上げたいという問い合わせは頂きますが、うちはあくまでも純正ショックのストローク量で賄える範囲で、構造変更もいらない範囲でのリフトアップを提案しています。それ以上になると、敷居もグッと上がるし、それはプロショップさんの仕事になってくると思うので。ダウンサスでローダウンするのと同じぐらいの感覚で、オシャレに楽しめる。そのぐらいの『ちょいアゲ』がオススメです」。

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