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「加工済みリアアクスル」て何だ? 軽やコンパクトカーの「地を這う」シャコタンの作り方

乗り心地をキープしつつ落とせる夢のダウン方法

 ローダウンといってもさまざまな方法がある。スプリングをダウンサスに換える、車高調を装着する、エアサスを導入するなど。では「リアアクスルの交換・加工」はご存知だろうか。

 軽自動車やワゴン、コンパクト系で主流の「トーションビーム式」「3点リンク式」のクルマに使われている、リアの車輪を繋ぐ車軸(アクスルやホーシングと呼ばれる)を加工するやり方のこと。ショックアブソーバーのストローク量を保ったまま3~5センチほど落とせるのがメリット。加工済みのリアアクスルに交換、または現車のリアアクスルを加工する方法もあるが、どちらも効果に変わりはない。

 基本的にローダウンするとショックのストローク量は減る。たとえばダウンサスなら単純に落とした分だけ縮み側のストローク量が削られる。だから段差などを踏んでサスペンションが縮んだ際、早い段階でショックが底づき(正確にはバンプタッチ)してガツンと衝撃が来る。これが「車高を落とすと乗り心地が悪くなる」といわれる理由の一つ。底づきしないようバネレートを上げる対策法もあるが、それはそれで乗り心地も硬くなってしまう。

 その点、加工済みアクスルを使ったローダウンでは、スプリングやショックの長さはそのままキープできる。車高が落ちる=重心が低くなるという変化はあるが、乗り味自体はほぼ変わらない。同じ3センチダウンするにしても、ダウンサスよりは加工済みアクスルを使った方が乗り心地の面では確実に有利だろう。

よく考えたら分かる!? 「加工済みアクスル」で落ちる仕組みとは

 そんな「加工済みアクスル」だが、一体どんなメカニズムで車高が落ちるのだろうか。ちょっと難しいが簡略化して説明する。まず純正のアクスルは真っ直ぐな鉄の棒だと思ってほしい。その両端にハブが付いており、左右のタイヤ&ホイールを繋ぐだけの単純な構造だ。

 またアクスルにはお皿のようなバネ受けが付いていて、リアのスプリングが載っかる仕組み。そのスプリングがボディを支えている。

 加工部分はアクスルの両端部分。ここをかさ上げするように加工することでハブの位置が高くなり、つまりはタイヤ&ホイールの位置も高くなる。もともとほぼ一直線だったアクスルとタイヤ&ホイールの位置関係が、アクスルに対してタイヤ&ホイールの方が上になる。「ってことは車高も上がる?」と思ってしまうが、実際は逆だ。

 タイヤ&ホイールは地面に接地しているので、それ自体の位置は変わらない。だがアクスルに対してタイヤ&ホイールの位置は上になっている=逆にいえばアクスルの位置はタイヤ&ホイールよりも下になるので、アクスルに載っかっているスプリング位置も下がり、ボディも下がる=車高が下がるという理屈。

 初めて聞いた人にしてみると「何のこっちゃ?」かも知れないが、サスペンションを短くして落とすのではなく、サスペンションの位置自体を下げて車高を落とす方法と分かってもらえればOKだ(この「かさ上げ量」で「ダウン量」が決まる)。

「全長調整式」車高調でもリアは落ちない。だからアクスル加工が有効

 ストローク量を保ったまま落とせるといえば、全長調整式の車高調もそれがウリ。ならば加工済みアクスルじゃなくても良さそうな気もするが、トーションビーム式のクルマの場合、リアのスプリングとショックは別々の構造。実はいくらショックの全長を短くしても車高は落ちない。リアの車高を決めるのはあくまでスプリングなのだ。

 そしてスプリングで落とせる余地は少ない。構造的にボディ(フレーム)とアクスルのクリアランスが狭いためで、もともとの純正スプリングも短く、そこからさらに短くするといってもたかが知れている。車種にもよるが、特に軽自動車は厳しい。めいっぱい頑張ってもフェンダーがタイヤに被るかどうかといったレベルだろう。しかもすぐにバンプタッチするから乗り心地は望むべくもない。

 だから加工済みアクスルは「落としても乗り心地を悪くしたくない」という人たちに支持されている。さらに車高調やエアサスを組み合わせることで、普通ではなし得ないローフォルムを実現できる。車種や履くタイヤ&ホイールにもよるが、10センチ以上は落とせるだろう。「ドレコン」と呼ばれるカーショーで活躍する低さ自慢のユーザーたちが、加工済みアクスルを付けている理由はこれだ。

 ちなみにフロントの車高はどうすればいいのかというと、普通にダウンサスや車高調を使う。リアがトーションビーム式のクルマのフロントは、スプリングとショックが一体のストラット式が多い。リアよりは自由度が高く、全長調整式車高調を使えばストローク量を保ったまま落とせる。リアの落とし具合に合わせてフロントの車高や落とし方を決めるといいだろう。

加工済みアクスルはホイールマッチングの自由度も広がる

 加工済みアクスルのメリットはほかにもある。キャンバー角やリアアクスル自体の長さも調整できるのだ。リアトーションビーム式のクルマでリアにキャンバー角を付けようと思ったら、加工済みアクスルにするかキャンバープレートを入れるしかない。

 キャンバープレートもお手軽さでは利点があるが、薄いスペーサーを挟み込む構造なので、その分だけホイールが外に出てしまう。よって「リム幅が太く(&リムが深い)フェンダーからはみ出してしまうホイールを、内側に倒して何とか収める」といった使い方には向かない。

 加工済みアクスルの場合は加工時に長さ調整もできるから上記のような使い方もできるし、「キャンバー角は倒さずに長さだけ短くして太いホイールを履く」ということも可能。つまり履くタイヤ&ホイールサイズの自由度もグッと広げられる。これがローダウンと並ぶアクスルキットの大きな利点だ。

 たとえば軽自動車に6.5Jサイズのホイールは、普通ではフェンダー内に収められない。何とか入ったとしてもパツパツ過ぎて足が動いた際にフェンダーにタイヤが当たってしまうのがオチ。

 だが加工済みアクスルを使えばきちんとフェンダー内に収まり、ストロークもさせられる。きっちり落ち、深リム履きにキャンバーも効いてスタイルが向上。なおかつストレスなく走れるという夢のセッティングが可能となる。

 具体的なオーダー方法や細部の仕組みはメーカーやショップによっても異なる。アクスルキットを取り扱っているのは、Jライン、JIC、ファイナルコネクション、パルテック、アヒル商会、BODY-WORKSちび鬼などいくつかあるが、今回は世の中にアクスルキットを広めた元祖メーカー・Jラインの例を中心に紹介しよう。

キャンバー角は固定式が基本だが可変式の商品もある

 Jラインの場合、ベーシックモデルの「アクスルキットプレミア」と、ハイエンドユーザー向けの「プレミアムエイト」という2タイプのアクスルキットを用意している。前者は標準設定のキャンバー角が3度だが、オプションで5度に変更可。後者は標準設定が8度、オプションで10度にも対応する。

 アクスル自体の長さについては3ミリ刻みでオーダーできる。調整範囲はおおむね純正+9ミリ~-9ミリあたりだが、車種によっても変わるので、詳しく知りたい人はJラインのWEBサイトを参照のこと。

 キャンバー角および長さは固定式。加工後に変更することはできない。ただ、他社ではキャンバー可変式のアクスルキットも存在し、たとえばファイナルコネクションではキャンバーアダプターを使って0度/3度/5度/7度と変更可能だし、アヒル商会のキャンバー可変アクスルは0度~10度の間で調整できる機構を備える。

 ダウン量については車種によって異なるが、だいたい純正比で-30~50ミリくらい。これもJラインをはじめほとんどは固定式(加工後は変更不可)ながら、中にはダウン量も可変式を採用したアクスルキットも存在する。

 もう1つ、忘れてはいけないのがトー角。リアトーションビーム式の足でキャンバーをネガティブ方向に倒し、ローダウンするとトー角が内向きに変化していく。キャンバー角が大きいほど、またローダウン量が多いほどこの変化量も大きくなる。そしてトー角が狂ったまま走ると、タイヤが猛スピードで偏摩耗してしまう。

 よってトー角もアクスルの加工で補正しなくてはならない。Jラインの場合、「ハイ」「ミドル」「ロー」「スーパーロー」の4種類を用意しており、設定したい車高に応じてこの中から選ぶ仕組み。目安としてはタイヤにフェンダーが被らないくらいが「ハイ」、タイヤに半分被るくらいが「ミドル」、タイヤに全部被るくらいが「ロー」、ホイールにも被るくらいが「スーパーロー」。適正を選べばトー角はプラマイゼロ付近に補正される。

 だが軽めのローダウンなのに「スーパーハイ」を選んだり、がっつり落とすのに「ミドル」を選ぶとトー角の狂いは補正できない。アクスルキットをオーダーする時は、事前にどれくらいの車高にセッティングしたいのか決めておこう。エアサスの場合はマックスダウン状態ではなく、普段の走行車高に合わせて選ぶべし。

車検は通る? 通らない? 構造変更の必要もある?

 アクスルは左右の車輪を繋ぐ重要なパーツ。そんなところを改造したらアウトなんじゃ…と心配になるが、きちんと強度や耐久性が確保されていれば問題ない。しかしアクスルの加工や交換は法規上で「走行装置の変更」となるため、記載変更や構造変更は必須。これはどんなメーカーのアクスルキットも共通で、何の手続きもナシに車検が通るケースはない。

 Jラインのアクスルキットの場合、事前にVIA(日本車輌検査協会)で試験を受け、その精度や安全性が公的に認定・登録されている商品になる。だから記載変更の手続きをするだけで車検に通る。具体的には、まずメールやFAXなどでJラインに書類発行を申し込み、代金(税別3万8000円)を振り込めば、10日~2週間ほどで改造概要等説明書類が届く。それを陸運局や検査協会に持ち込めば記載変更できる。

 注意して欲しいのは、改造概要等説明書類はアクスルキット単体に対する書類ではなく、アクスルキットを付けたクルマに対する書類だということ。Aというクルマにアクスルキットを付けて発行した書類があったとして、Aに付いていたアクスルキットをBというクルマに付けた場合、その書類は無効になる。

 Jラインのアクスルキットは中古品として出回ることもあり、たまに商品説明に「公認書類付き」などとあったりするが、その書類自体は役に立たないので注意。だがそのアクスルキットに正規のネームプレートがきちんと付いていれば、それを元にJラインに料金を支払って書類を発行してもらうことは可能だ。

 もちろんJライン以外のアクスルキットも車検取得可能。メーカーに強度検討書や改造概要等説明書といった書類を発行してもらい、それを陸運局や検査協会に持っていって記載変更や構造変更をする、という大まかな流れにも変わりはない。細かい手順や費用は各社異なるので、事前に問い合わせて確認しておくことをおすすめする。

 いずれにせよ、アクスルキットを装着する(アクスルを加工する)=記載変更/構造変更は必ずやらなくてはならない。導入を考えている人はそれを踏まえておこう。またいくら記載変更/構造変更をしても、最低地上高が9センチを割っていたり、タイヤ&ホイールがはみ出すなど、保安基準違反の場合は当然ながら車検NG。アクスルキットはよく落ちる手法だが、オーダー次第では「思ったより落ちすぎて困った」というケースもあるので注意して欲しい。

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