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「乗る前後」も「乗ってるとき」も高クオリティ! 自動車メーカーは「車いす」まで作る時代に

トヨタと日産が専用の車いすをラインアップ

 近年、福祉車両が充実しはじめている。福祉車両というと、これまでは車いす利用者など障がいを持つ人の移動のためと考えられてきたが、高齢化社会を迎え、足腰の弱くなった人の移動の際に楽に乗降できるようにするなど、用途や採用車種が広がっている。それにあわせて自動車メーカーや関係メーカーが、クルマに乗ることを前提とした車いすの開発をしはじめている。

走行中の姿勢が安定するトヨタの「ウェルチェア」

 最初にこれを行なったのはトヨタであり、製品を「ウェルチェア」という。最大の特徴は、乗車後に座席がチルトし、後ろへやや傾く機構となっていることだ。

 それによって体を背中で支えられるようになり、足腰で踏ん張れない人でも加減速やカーブでの遠心力に対し体を支えやすくなる。したがって、クルマでの移動が苦痛でなくなるのだ。

 ほかにも着座位置が一般の車いすより低くなるため、同乗者との会話も、頭の高さが同じになって楽にできるようになる。また、乗降の際のシートベルトの装着・脱着もしやすくなっている。

 車いすでの乗車はスロープの設置やフックでの車いすの固定、そしてシートベルトの装着などで10分前後かかる。広い場所での状況なら時間は気にすることはないが、状況によってはゆっくり時間をかけられないケースも考えられ、また介護者の手間としても簡単に手早く操作できるのが望ましい。

 とくに既存の車いすでは、シートベルトの装着が考慮されていないため、腰ベルトだけしか装着せずに事故にあい、亡くなる事例も起きている。クルマに乗るための車いすがあるにこしたことはない。そこに手を打ったのがトヨタであった。ウェルチェアの価格は19万8千円で非課税だ。

軽自動車の荷室に収納可能な日産系の「LV車いす」

 日産もグループの一社であるオーテックジャパンと、車いすメーカーの共同開発による福祉車両向けの車いすを開発した。

 特徴は小さく折りたたむことができ、軽自動車の荷室にも搭載できる設計である点だ。もちろん、車いすで乗車することもできるが、クルマの座席へ移動できるくらいの体調であれば、車いすのまま乗車するより快適に移動できるだろう。そして軽自動車の福祉車両が充実し始めている今日、荷室容量に制約がある軽自動車へ容易に載せられる意味は大きい。通院や介護施設などへの送迎は、日々の生活であるからだ。

 そのうえで車いすのまま乗車する際にも、固定のためのフックを取り付ける場所に目印が設けられている。一度覚えてしまえば作業は難しくなくても、たまにしか使わない場合は、何処にフックを掛けるか迷うかもしれない。正しくフックを掛けられなければ、車いすの固定が不十分になり、走行中に動いたりずれたりする懸念もある。車いすの固定は「安全」と、また車いすを使う人の「安心の面」で重要だ。

 ほかにも左右の肘掛け部分にはシートベルト装着用の隙間が設けられており、ベルトを装着しやすくしている。

 さらにヘッドレストは取り外すことができ、使わない場合はいすの後ろ側に収納ステーに収納可能だ。

「LV(ライフケア・ヴィークル)車いす」と呼ばれるこの製品の価格は15万円で、これも非課税だ。またLV車いすはオレンジと黒の2色から選べる。

電気自動車の廃バッテリーを電動車いすに

 車いすで乗れる福祉車両の開発には目が行き届いてきたが、乗った人の安全は忘れられていた側面がある。つまりシートベルトの重要性や、追突事故に対応するヘッドレストの有無だ。あるいは車いすでの乗降だけに目が行きがちで、電動であったり、スロープの角度であったりについて自動車の設計者が腕を振るったが、車いすに乗った人の乗車後については、なかなか目が行き届いていなかった。

 一方、クルマ用の車いすはウェルチェアでは車輪が小さく、オーテックのLV車いすは幅が狭い。それらが、日常生活における車いすの利便性に影響を与えないのか。場合によっては、日常生活と、クルマでの移動で車いすを使い分ける必要があるかもしれない。

 これから進むクルマの電動化に際して、電動の車いすも自動車メーカーでつくれないだろうか。そこにEV(Electric Vehicle=電気自動車)廃車後のリチウムイオンバッテリーを搭載するのである。現在の電動車いすは鉛酸バッテリーが使われているが、リチウムイオンバッテリーであれば小型軽量で、なおかつ容量があるので遠出をしても安心ではないか。一方、リチウムイオンバッテリーは高価なのだが、EV廃車後の再利用であれば原価を下げられる。

 つまりクルマの電動化と福祉は一体であり、それによってEV開発と車いすの連携が進むことにより、万人が移動の喜びを味わえる機会が広がるはずだ。EVを主体としたクルマの電動化は、単にエンジン車の代替でなく、クルマの技術がより広く社会に貢献できる夢の時代の開拓なのである。

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