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高齢者には「マツダ車」がおすすめ! その理由は座ればわかる「ペダル」にあった

マツダがこだわる「オルガン式ペダル」

 マツダは約3年半前に、高齢者の交通事故に関する説明会を開いた。ここで、正しい運転姿勢をとるために大切な要件のひとつとして「アクセルペダルはオルガン式であることが望ましい」と、論理的かつ幾何学的に解説し、以後マツダが開発する新車はオルガン式アクセルペダルを採用するとした。また、このことは高齢者に限らず多くの運転者にも安全運転を促すために重要なことである。

「オルガン式」と「吊り下げ式」

 オルガン式アクセルペダルとは、まさに言葉どおり楽器のオルガン演奏で使うペダルのように、床に設けた視点を基準に、ペダルを操作する方式である。

 これに対し、軽自動車やコンパクトカーなどを中心に、またそれよりも車格が上のクラスの登録車でも前輪駆動の車種などで多く採用されているのが、「吊り下げ式」のアクセルペダルだ。これは、ダッシュボード下を頂点とし、そこからレバーを介してアクセルペダルを吊り下げた機構である。

 どちらのペダルも右足で奥へペダルを押し込むことでクルマを発進・加速させることができる。ただ、機構の違いによって右足で押し込まれたペダルの軌跡が異なるのだ。

 オルガン式は、かかとを床に着けた状態で足首の動きを活かしながらペダルを押し込むことになるので、関節の動きに自然で、基本的に右足の置かれた位置は変わらない。

 一方、吊り下げ式の場合は、振り子のようにペダル位置が奥へ逃げていくような軌跡を描くので、はじめのうちはかかとを床に着けたまま足首の動きでペダルを押せても、それ以上深く踏み込んだ場合はかかとが前方へ移動する可能性がある。さらに、遠ざかるペダルに対してかかとを浮かせてアクセル操作をしている人もいるかもしれない。

 この違いが、ペダル踏み間違いや踏み損ないにどう影響するのか。ここもマツダは検証しており、ペダルの動きと共に右足が奥へ行ってしまう可能性がある吊り下げ式は、アクセルを深く踏み込んだ状態からブレーキへペダル踏み替えを行おうとすると、ペダルの高さの差が大きくなるので、しっかり右足を引き上げて踏み替えないと、ブレーキペダルの脇に足を引っ掛けたり、ブレーキペダルに足をのせかえられず右足を再び踏み込むことになったりして、ブレーキではなくアクセルを踏んでしまう恐れがある。

 3年前の取材会は現在のマツダ3が登場する前であり、当時のアクセラを使って新旧でペダル踏み替えの違いを体験した。新型はオルガン式で、旧型は吊り下げ式である。停車したクルマの運転席で、それぞれアクセルからブレーキへ踏み替えのペダル操作をしてみる。緊急時ではなく、なおかつクルマが止まった状態なので慌てることなく、どちらも落ち着いてペダル踏み替えができたが、それでも旧型(吊り下げ式ペダル)はアクセルとブレーキのペダル位置の差が大きいと感じた。

 ところがマツダによると、新旧でアクセルとブレーキのペダル高さは同じだという。つまり、アクセルペダルの方式の違いで、ペダル踏み替えのしやすさが違ってくるのを実体験したのだ。

機構と同時に重要な「ペダル配置」

 もうひとつ、ペダル踏み替えで重要なことはペダル位置の設定だ。新旧アクセラでは、アクセルペダルの方式の違いだけでなく、アクセルとブレーキを含めたペダル位置を修正している。新型は運転席に座った人の体を正しく前へ向かせるため、全体的にペダル位置を右へ移動している。これによって股関節足の動きを左右同じようにできるので、アクセルペダルからブレーキペダルへの足の移動が容易にできるようになる。

 旧型ではペダル位置が左寄りであるため、最初から状態に対して下半身が左へよじれた状態で着座することになり、右足はアクセルペダルを操作しているときから左寄りで動かしていることになる。そこからさらに左にあるブレーキペダルを踏もうとすると、もっと股関節をよじらなければならない。それは苦しいことだし、高齢になって関節の動きに制約が出てくると、十分左へ足を移動できなくなる。その結果、ブレーキペダルを踏み損なう可能性が出てくる。

 そこまでわかっているのに、なぜ世の中の多くのクルマはペダル配置が左に寄っているのか。その理由は、前輪駆動のクルマの多くはエンジンを横置きに搭載するのが一般的で、それによって前輪が客室側へ寄ってしまうので、ペダルのための空間が狭くなる。このため、ペダルを左へ寄せてしまっているのだ。ちなみに左ハンドルのクルマでは、アクセル位置が車体の中心寄りとなるため、ペダル配置に影響を受けにくい。そして前輪のホイールハウスが、ちょうどフットレストの役目を果たしてくれる。ペダル配置が左へ寄ってしまいがちになるのは、右ハンドルであるが故でもある。

 それでもマツダは前輪駆動車であってもペダル配置が正しく右寄りにできるよう、前輪と客室の位置を調整して設計している。またその結果、ドアの取り付け位置も変わり、乗降の際に足が引っ掛かりにくくなっている。

 ペダル配置の修正については、ホンダの軽自動車N-WGNでも行なわれている。同じプラットフォームを使うN-BOXと比べ、ペダル位置を右寄りに修正し、なおかつアクセルとブレーキのペダル高さの差を少なくし、吊り下げ式アクセルではあるものの、アクセルからブレーキへの踏み替えでの段差を縮めているのだ。このためN-WGNとN-BOXでは運転感覚がまったく異なり、N-WGNのほうがより安心して安全に運転できる。一方のN-BOXは私自身、何度かペダルを踏み損ないそうになった経験がある。

乗り換えると実感する正しい運転姿勢

 マツダのオルガン式アクセルペダルへのこだわりと、ペダル位置を正しくし、運転者をまっすぐ前へ向かせる着座姿勢は、他車からマツダ車に乗り換えると実感できる。いつものように運転席に座り、走り出そうとしてアクセルを踏んだつもりが、マツダ車ではブレーキペダルを踏んでしまっているのだ。すなわちそれは、自分の体が普段いかに左寄りのペダル配置のクルマに慣れてしまっているか、そして自分のクルマのペダル配置が左寄りになっていることをこれまで気づいていなかったのを、改めて認識させられる瞬間だ。

 一方、マツダでも同社ブランド名で販売している軽自動車は、アクセルペダル配置が左寄りのままだ。自社開発ではないとはいえ、消費者にとっては同じマツダ車であり、正しい運転姿勢を取れる登録車に対し、軽自動車ではそれができていない矛盾をはらんでいるのは、なんとも惜しいところである。

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