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日本カー・オブ・ザ・イヤーは「レヴォーグ」なら福祉車両のイヤーカーは? 編集部独自にスペシャリストに評価を依頼した!

福祉車両目線だと時点のフィットが優位 部門賞の軽自動車も使い勝手◎

 2位に100点以上の差を付けるという、審査員からの圧倒的な評価を受けてスバル・レヴォーグがグランプリに輝いた2020−2021「日本カー・オブ・ザ・イヤー」。 その他にもデザインやテクノロジー、軽自動車など、いくつかの部門賞が選出されたが「仮に福祉車両として最も評価の高いクルマって何だろう?」という観点から、その道に詳しいライターの御堀直嗣氏に各車を探って貰った。 

福祉車両の観点ならレヴォーグよりフィットに優位性あり

 今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーで、私が最高得点を入れたのはホンダ・フィットだ。その理由は世界で販売するコンパクトカーとして、あらゆる人が安心して使えるクルマだと思ったから。なおかつ、その価値観を「日本に最適」という視点から創り上げ、それを世界へ展開しようという志にも感動した。

 まず何より、視界のよさは世界一だ。ホンダが、フィットで新しく開発した車体構造がそれを実現した。

 これまで、フロントウィンドウを支えてきたピラー(支柱)は、ガラスを止める窓枠としてだけでなく、1990年代から強化されてきた衝突安全性能を達成するため、客室を守る強度部材としての役目も果たしている。その結果、衝突安全基準が高まるにつれ、フロントピラーは太くなり、逆に前方視界が悪化してきた。ことに、斜め前方の視界が悪くなり、右左折でのクルマや歩行者などを確認しにくくなっている。

 世界の各自動車メーカーは、ピラーを湾曲させてみたり、ピラーの断面を三角などにしてみたりして斜めの視界の確保に努めてきたが、十分ではなかった。

 新型フィットは、フロントウィンドウのガラスを支える役目と、客室を守る頑丈さの確保との役割を分担し、二つのピラーを設けた。従来も、フロントウィンドウの脇には三角窓があり、もう一つ支柱があったのだが、その三角窓の手前側の支柱を太くして客室を守る役目をもたせたのだ。

 これによって、フロントウィンドウの支柱は細くなり、前方視界がグッと開けた。前が見えるという安心感は絶大だ。

 さらに、ダッシュボード上面をほぼ真っ平らにして、フロントウィンドウへの映り込みをなくした。映り込みは、ガラスにダッシュボードの造形が陽炎のように映って前方視界を邪魔する。それによって見難さをもたらすのだ。

 この二つの新発想により、フィットは安心して運転できるクルマになった。安全の第一歩というべき肝心なところが革命的に改善されたのだ。一度新型フィットに乗ると、他車がどれほど前方視界で制約されているかに改めて気づかせる。ホンダの真心というだけでなく、日本のものづくり、日本の技術者の真摯な姿勢が新型フィットに凝縮されている。

 新型フィットには、まだ見るべき点がある。それは、後席への乗降のしやすさだ。トヨタのヤリスも、走行性能の高さで欧州車に匹敵する実力を持つ。だが、世界で販売する小型車として、後席にも人が座ることを考えると、その乗降性はよくない。ドアの開口部分の形状の関係で、出入りしにくいのだ。

 新型フィットは、まず後席の背もたれが比較的ドアの切れ目に近いところに設けられている。そのうえ、ドアの開口部が大きいため、乗るにも降りるにも楽なのだ。ことに高齢者になると、体を曲げてクルマから降りるのが辛くなる。体が曲がりにくいのと、腕に力も入りにくいため、外に出にくくなってしまうのだ。

 新型フィットは、高齢者などを後席に載せて出かけるにも楽な、福祉車両的な視点で開発されたのだと思う。

軽自動車は今年の「イヤーカー」に加えもう1台をピックアップ

 軽自動車では、日産ルークスと三菱eKスペース&クロスペースに、助手席スライドアップシートが設定されている。これは、助手席が外側へ回転するだけでなく、外側へ向いたあとに座席が車椅子の高さまで下がるので、乗り換えやすい。また、車両の後ろのドアがスライド式なので、車椅子の収納もしやすい。

 さらに、軽自動車のスーパーハイトワゴンとして日産の運転支援技術である「プロパイロット」がハイウェイスターやeKクロススペース(G)には標準装備となるので、高速移動中などで車線維持機能や、前車追従型クルーズコントロールを利用できるため、足腰に力の入りにくい同乗者も快適な移動ができるだろう。

 自動運転につながる運転支援技術は、交通安全に役立つだけでなく同乗者の快適な移動にも効果があり、ことに障害を持ったり高齢化により体力が衰えたりしてきた人にも安心をもたらす。

 軽自動車の安全運転支援技術は、発進でのペダル踏み間違いなどを想定した衝突防止の自動ブレーキなどが主体だが、登録車で搭載が進む運転支援機能は、安全+快適装備として、幅広い利用者に有効な装備なのである。

 従来、誰にも使いやすいとする視点のユニバーサルデザインは、使い勝手などの面で注目されてきたが、センサーや制御技術を用いた積極的な運転支援は、これからのユニバーサルデザインの一つに加えられていくべきだろう。

 そのためには、昨年発売されたダイハツのタントが、産官学民の連携により、消費者や販売店、また医療の専門家などを交えた軽自動車開発をはじめている。単に自動車メーカーの社内で考える開発ではなく、外へ出て、顧客や販売店、そして研究者などと連携した新車開発が、今後さらに求められていくのではないか。

福祉車両という観点だとEV車はアリなのか?

 最後に、電気自動車(EV)の可能性も探ってみたい。

 EVは、当然ながらモーター駆動だ。そして、モーターは、エンジンの1/100の速さで加減速を制御でき、ことに回生機能は安全性向上で大きな役目を果たす。

 エンジン車でもエンジンブレーキがそれに相当するとはいえ、変速機が高速側へシフトされていれば、エンジンブレーキはほとんど効かないも同然だ。しかしモーターなら、アクセルの踏み方一つで回生の強弱さえ加減できる。たとえば日産やホンダの「ワンペダル操作」は、ペダルをゆっくり戻せば徐々に減速し、パッと一気に戻せば最大の回生を効かせ急ブレーキのように減速する。

 さらにモーター駆動は、エンジンに比べ1000倍の精度で制御できるといわれる。たとえば1A(アンペア)の電流を流せば、1A分の出力をきっちりだせる。一方エンジンは、1ccのガソリンを噴射しても、それが運転状況やエンジン温度の違いなどによってきちんと霧化できたか、燃焼し切れたかによって出力に差が出る可能性がある。コンピュータが指示した通りの加速や減速を狂いなくできるのがモーターだ。

 モーターの特性を活かせば、障害を持つ人が手だけで運転するときも、期待通りの加減速ができる。

 ホンダには「テックマチック」という手だけで操作できる運転支援装置がある。これを、新型フィットに取り付けることができる。自動車メーカー自らこうした装置を販売するのはホンダだけだ。

 これを、ホンダ初のEVであるホンダeと組み合わせれば、さらに高度で安心の高い手動運転ができるようになるのではないかと思う。

「テックマチック」は左手で操作するコントロールグリップに加減速や、ウインカー、ヘッドライトなどの機能が集約されている。加速はコントロールグリップを手前に引く、減速はコントロールグリップを前方へ押す。万が一のとき、コントロールグリップを手前に引いてクルマが前進していたところから、一気に前方へコントロールグリップを倒しこめば回生が強く働き、なおかつブレーキも最大に効かせることができ、エンジン車より短距離で減速・停止できるのではないだろうか。

 かつて日本EVクラブでは、バイクのハンドルを使い、手だけで運転できるモーター駆動のカートを製作し、2輪事故で車椅子の生活となった青木琢磨選手に運転してもらったことがある。私も運転したが、実に扱いやすかった。EVになれば、同じように手だけでの運転が容易にできるようになるのではないか。

そうした期待も込め、今年のクルマとして「ホンダe」も取り上げたい。

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