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高齢者や障がい者は「後席」と「リヤタイヤ」をチェックすべし! 乗降性を決定するクルマの「基本」とは

福祉車両と標準車の境界線がなくなることが理想

 福祉車両の充実が進むなかで、豊富な品揃えであるのは、リアゲートから車椅子で乗り込むことのできる車種と、助手席や後席が外側へせり出す機能を持つ車種ではないだろうか。このうち、座席が回転して外へせり出すターンシートや、ターンチルトシートは、高齢になったり障害を持っていたりしなくても、クルマへの乗り降りを容易にする機能である。逆に、すべてのクルマに標準装備してもいいのではないかと思えるほどだ。

 クルマへの乗り降りは、乗るときも降りるときも体に窮屈な姿勢を強いられる。しかしターンシートや、とくにターンチルトシートでは、座席が人を迎えに来る動きをするので、楽に座り、車内へいざなってくれる。この機能は、たとえば女性がスカート姿であったり、和服姿であったりする際にも、足を揃えて乗降できるので、日常的に便利なはずだ。

 従来は、助手席やミニバンなどの後席に福祉車両の一環として事例があったが、トヨタのヤリスでは、運転席と助手席の両方に設定できるようにしている。健常者でも、運転席のターンチルトシートを使えば、余計な手間をかけずに日々利用でき、そのまま運転して出かけられる。 操作は簡単だ。座席脇の操作レバーが外側へせり出すまで、まず座席全体を後ろへ移動させる。するとレバーが手で引き上げられるように飛び出す仕掛けだ。その位置になったら、レバーを手で引き上げて座席を外側へ向け回転させる。両足を外に出し、再びレバーを引き上げると、さらに座席が外側へ回転してクルマから出やすくなる。クルマから降りたら、座席の背もたれを押すと、元の位置に座席が戻り、ドアを閉めることができる。

 それら操作にかかる時間は、車内から両足を抜け出しにくくもたもたしてしまうより素早いのではないか。

 乗る際も、同じレバーを手前に引くと座席が回転して出てくるので、腰かけ、車内へ両足を差し入れれば座席が回転し、乗車完了だ。

ターンチルトは女性のみならず高齢者にも優しい装備

 助手席では比較的見慣れたターンチルト機構だが、運転席にもという発想は新しい。とはいえ、かつて80年代に登場した2代目スズキ・アルトに設定があった。やはりスカート姿の女性への配慮だったが、高齢化時代を迎えた今日では、女性のみならず高齢者にも優しい装備といえるだろう。

スズキ・アルトのカタログから転載

 ミニバンの2列目の座席にも、ターンチルトシートが設定された福祉車両がある。しかし一般的な乗用車では、後席がベンチシートとなるため、座席を回転させて外へ向けさせることはできない。

 それでも、後席の背もたれを後輪のホイールハウスより前側に位置するよう設計すると、体をあまりよじらなくても、あるいは大きくかがまなくても、乗り降りしやすくなる。  たとえば、運転手付きで後席に乗ることを主目的としたトヨタ・センチュリーは、そうした後席と後輪ホイールハウスの位置関係となるよう、意図的に設計されている。

 これによって、体を横へずらせば自然に足を外へ出せ、そこから体をかがませなくても外に降り立てる。乗る際も、座席に腰を下ろし、体を横へずらせば乗り込める。

 この後席背もたれと後輪ホイールハウスの位置関係は、乗降の際にドアを大きく開かなくても乗り降りできるため、ヒンジドアを大きく開けられない狭い場所でも、不自由が少ない効用もある。重量増となりがちなスライドドアでなくても、こういう工夫で乗降性は変わるのである。

 最新の小型車では、ホンダ・フィットは上記に近い後席と後輪ホイールハウスの関係となっており、後席の乗り降りがしやすい。一方、トヨタ・ヤリスは、後席背もたれ自体はそれほど後輪ホイールハウスの奥にあるようには見えないが、後ろのドアの開口部が小さいため、センターピラーのところから足を外へ出しにくく、なおかつ体を大きくかがませなければ出られない。

 誰にでも乗降しやすいという福祉車両的視点でみると、後席に関してはフィットに軍配が上がる。前席に、ターンチルトシートを設定していながら、前後の席では乗降性の差が大きい。走行性能の高さが特徴のヤリスは、前席中心の考えなのだろう。

 かつて、スバル1000は、前輪駆動(FWD)の特徴を活かすため、プロペラシャフトが床下を通らない平らな床による広々とした室内を優位性とした。同時にまた、後席背もたれは後輪のホイールハウスより前にあって、センチュリーの例と同様に乗降性も優れていたのである。

 福祉車両で採り入れられている回転シートのような機能を標準車にも採用するだけでなく、そもそもすべてのクルマで乗降性のよさが求められてしかるべきだ。それは、高齢者や障害者の為だけでなく、健常者や若者であっても、体調がすぐれなかったり怪我をしたりして体が思うように動かせないとき、病院や仕事へ向かう際にクルマを必要とすれば有り難い機能や室内設計になる。そしてクルマで出掛けたいという意欲も増進するだろう。

 これからは、福祉車両と標準車の境界線が無くなっていくことが理想であり、それこそがバリアフリーであり、工業製品におけるユニバーサルデザインになるのだと思う。

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