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タイミングベルトはいつ変える? 適切な交換時期や費用とは

タイミングベルトの働きとメンテナンス方法を知る

カムシャフトとクランクシャフトを結ぶ役割

 メーカーでも10万kmごとの交換を奨励しているタイミングベルト。エンジンパーツの中でも要の部品のひとつであり、エンジンのコンディションに直結しているタイミングベルトの仕組みや交換の必要性を見ていこう。

タイミングベルトはどこに付いている?

 タイミングベルトはレシプロエンジンの前端、縦置きエンジンの場合、一番ラジエータ寄りにレイアウトされているのが一般的。走行中は高速で回転する重要な部品なので、樹脂製のタイミングベルトカバーで覆われていて、通常はボンネットを開けただけでは直接見ることはできない。点検などを行うときは、このカバーを取り外して作業を行っている。

タイミングベルトの仕組み・役割

 クルマのエンジン作動は、4サイクルエンジンの場合、吸入行程→圧縮行程→燃焼・膨張行程→排気行程の4つのサイクルを繰り返して行われる。

 この過程は、吸入行程では吸気バルブを開いてピストンが下がることで混合気を吸入し、圧縮行程ではバルブが閉じてピストンが上昇・圧迫、燃焼・膨張行程でもバルブは閉じていて、燃焼ガスの膨張力でピストンが押し下げられて、クランクシャフトが回転。最後に排気バルブが開いて燃焼ガスを排出する(ピストン上昇)ということになる。

 この時に吸気バルブ、排気バルブはピストンの上下動に合わせて開閉する必要があり、そのバルブの開閉はエンジンの上部にあるカムシャフトが司っている。

 タイミングベルトは、このカムシャフトにクランクシャフトの回転を伝える働きをしている。

 ちなみに前記の通り、4サイクルエンジンは、4行程の間に2回しかバルブは開閉しないので、クランクシャフトが2回転する間にカムシャフトは1回転するよう、クランクプーリーの径はカムプーリーの1/2の直径になっている。

タイミングベルトの劣化要因

 タイミングベルトは、ゴムをベースに高張力繊維の抗張体で補強された丈夫なものである。

 このゴムのタイミングベルトが普及する前は、金属製のチェーンが主流だった。しかしチェーンは伸びる、ノイズが大きい、潤滑が必要といったデメリットがあった。

 そこで安価で軽く、静粛性に優れ、潤滑も不要なゴムのタイミングベルトを採用するエンジンが増えていった。

 そんなタイミングベルトも、ゴムと樹脂からできているので、熱や油分の影響で経年劣化が現れていく。具体的にいえばベルトが伸び、表面にひび割れを起こしたり、コグドベルトの歯が欠け、最悪の場合はベルトが切れてしまうことも……。

劣化したまま使用した場合

 では劣化したタイミングベルトをそのまま使い続けるとどうなるのか。

 軽度の劣化、つまりタイミングベルトが伸びた場合、ある程度はテンショナーが張り具合を調整してくれるが、その調整幅以上に延びてしまうと、バルブの開閉タイミングに狂いが生じて、パワーダウンなどの影響が出てくる。

 さらに劣化がすすみ、コグドベルトの歯が欠けたり、コマが飛んでしまったりすると、バルブタイミングがずれて、バルブとピストンが干渉する可能性が出てくる。

 その結果、バルブステムが曲がったり、バルブの傘が傷ついたり、ピストンが傷ついたりすると、そこから圧縮が抜け、エンジンが止まり、再始動できなくなる。これは実質的なエンジンブロー……。こうなったら大掛かりなオーバーホールが必要になる。

 そして最近ではあまり聞かなくなったが、タイミングベルトが走行中に切れてしまう可能性もある。切れてしまった場合、エンジンは不動になるので、自走では動けないし、帰ることができない。

 万が一、出先でタイミングベルトが切れてしまった場合は、JAFや自動車保険のロードサービスを利用し、レッカーを手配してもらうしかないだろう。

 また、エンジンの種類にもよるが、走行中にタイミングベルトが切れたとなると、バルブとピストンがヒットする、いわゆるバルブクラッシュが発生し、タイミングベルトの交換だけでは済まない大きなトラブルになる(一部には、タイミングベルトが切れてもバルブクラッシュが起きないエンジンもあるが、そうしたエンジンでも、タイミングベルトが切れれば当然動かなくなってしまう)。

タイミングチェーンは交換不要

 こうしたトラブルを避けるために、一時廃れた金属製のタイミングチェーン(ローラーチェーン)が見直され、1990年代後半以降はタイミングチェーンを採用するエンジンが増えた。今日では切れる心配がほとんどなく、基本的に無交換でOKな金属性のタイミングチェーンのほうがむしろ主流になってきている。

 もちろん、かつてのチェーンのままではなく、チェーンのコマの小型化が工夫され、静粛性も優れたサイレントチェーンが開発されたことが普及に大きく貢献している。

 とくに軽自動車は、日常的に低回転から高回転まで全回転域を使って走行する機会が多いので、タイミングチェーンを積極的に採用する傾向だ。

タイミングベルトの交換時期の目安は?

 前述の通り、タイミングベルトが切れてしまうと、クルマは不動になり、エンジンもブロー。修理費が非常に高くつくので、自動車メーカーはタイミングベルトが切れる前に交換することをすすめている。詳しくは、各車ごとの取扱説明書に書かれているが、国産車の場合、ほとんどクルマのタイミングベルトの交換時期は10年10万kmがひとつの目安になっている。

 自動車メーカーが指定する交換時期にはかなり余裕があるはずなので、通常は10万km以内にタイミングベルトが切れてしまうようなことはほとんどない。年間の走行距離が1万km以内の人ならば、新車から4回目の車検、9年9万kmのときにタイミングベルトを交換しておけば安心だ。

 また中古車を購入し交換時期などがわからないという人は、一度整備工場で点検してもらうといいだろう。タイミングベルトカバーを外し、ベルトの張り具合や表面の劣化、クラックの有無、ベルトの歯の状態などをチェックしてもらえば、およその寿命やコンディションはわかるはず。そして、音のチェックもけっこう重要な要素といえる。

 タイミングベルトそのものは10万km走ったとしても切れないケースが多いのだが、ベルト本体ではなく、タイミングベルトのテンショナーベアリングが破損してしまったり、焼き付いてしまったりというケースは意外に多い。

 こうしたベアリング破損があってもベルトが切れてしまったときと同じように、バルブタイミングのずれから、バルブとピストンの干渉やバルブクラッシュが生じ、エンジンのオーバーホールが必要になることが少なくないのだ。

 こうしたテンショナーベアリングが劣化してくると、ベアリング本体から異音が出たり、ベルトの張りが甘くなって、ベルトが滑ってキュルキュルと音が出ることがある。5万kmを越えたらときどきボンネットを開けてエンジンルームを覗き、タイミングベルト付近から異音が聞こえてこないかをチェックするようにするといいだろう。

 逆にいえば、ドライバーのフィーリングだけでタイミングベルトが切れる予兆をキャッチするのはほとんど不可能……。

 というわけで10万kmが近づいて来たら、タイミングベルトカバーを外してプロに目視点検してもらうか、距離で判断して早めに交換してしまうのが一番無難だといえるだろう。

タイミングベルトの交換費用は高い!

 タイミングベルトの交換は10万kmに一度でいいといわれても、その費用はけっこう高い。車種にもよるが、だいたい5~10万円ぐらいはかかる! 実のことをいうと、タイミングベルトの部品はけっして高いものではなく、ベルトの部品代だけなら5000~6000円ぐらい。あとの大半は工賃……。

 タイミングベルトを脱着するにはいろいろなパーツを外す必要があり、手間と時間がたくさん掛かるからだ。整備性の悪いクルマほど外す部品は多くなるし、車種によってはエンジン本体を車体から降ろしたほうがいい車種も……。

 また、水平対向エンジンやV型エンジンの場合、直列エンジンの倍近い手間がかかるし、縦置きエンジンか横置きエンジンかでも作業性が変わってくるので、車種ごとに見積もりを確認したほうがいいだろう。

「そんなに工賃が高いならDIYで」という人がいるかもしれないが、交換作業で必要なクランクプーリーの締め付けは、150N・m、200N・n、300N・mといった高トルクで締め付ける必要がある。スカイラインGT-RのRB26DETTなど500N・mという驚きの数字である!

 こうなると普通の工具では歯が立たないので特殊工具が必要となる。プロに高い工賃を払うということは、それだけの技術と環境(工具)が必要だということを覚えておこう。

 またタイミングベルトの交換費用が高いのにはもうひとつ理由がある。それはタイミングベルトと一緒に交換する部品が多いため。前記の通り、タイミングベルトが寿命を迎えるときは、タイミングベルトテンショナーとタイミングベルトアイドラプーリーのベアリングも一緒にダメになるので、これは必ず交換する。

 あとはウォーターポンプ。エンジンに冷却水を流すウォーターポンプは、タイミングベルトで動かしている車種が多い。ウォーターポンプの交換時にはタイミングベルトの脱着も必要になるので、ウォーターポンプも10万kmを目安に交換するのがベスト。

 タイミングベルトと一緒に交換すれば追加費用はほとんど部品代だけで、追加の工賃はかからないはず。錆びたり水漏れを起こす前に交換してしまおう。ウォーターポンプを交換するときは、もちろんクーラント(LLC)も交換したい。

 さらに付け加えると、カムシャフトのオイルシールとクランクシャフトのオイルシールの交換もオススメ。10年10万kmも走っていたら、そろそろこれらのシール類からオイルが漏れてきてもおかしくない時期。せっかくタイミングベルトを外すのなら、このふたつのオイルシールは換えておきたい。

 ちなみに、タイミングベルトは純正品以外に強化タイミングベルトを選べる車種もある。強化ベルトは切れたり伸びたりする心配はないが、カムスプロケットがアルミ製だと強化ベルトでスプロケが摩耗する可能性もある。

 また裏ワザとしてタイミングベルトを交換し、数千km走った後ベルトの張りを再調整し、初期の伸びを補正しておくとベルトの寿命はグンと延びる。

タイミングベルトを交換するより廃車にしたほうが良い?

 乗用車を乗り続けるうえで10年10万kmというのはひとつのターニングポイントになる。タイミングベルトだけでなく車体のあちこちから寿命を迎えるパーツが出てくるのだ。本当にいいコンディションで乗り続けようとすると、タイミングベルト交換代の5~10万円では済まないメンテナンス費用が一気に掛かってくる時期でもある。税金も新車登録から13年経つと自動車税が増税になるので、維持費が割高になってくるのは避けられない。 10年10万km乗ってもまだまだ愛着がある、ずっと乗り続けるという人は、迷わずタイミングベルトとその周辺パーツを一新するのがいいと思う。しかしそうでもないという人は、あと何年このクルマに乗るかということを考えて、その先のメンテナンスプランを考えたほうが良いかもしれない。

 10年10万km以上のクルマとなるとタイミングベルト以外でも、エアコン、ハブベアリング、ブレーキ、クラッチ、各部のオイル漏れ、ターボチャージャー、ゴムブッシュ、ホース類、樹脂パーツなどが交換時期を迎え、そのたびに5万円、10万円と飛んでいく。

 そろそろ買い替えてもいいかな、という人は、10万kmを迎える前、つまりタイミングベルトを交換する前に、新車あるいはより程度のいい中古車に乗り換えてしまったほうがお得かもしれない。このあたりは、一考の余地があるといえるだろう。

 タイミングベルトは万が一切れると大事になるし交換費用も比較的高額だが、一方で10年10万kmという目安があるので、計画性は立てやすいメンテナンスだ。8万kmぐらい走ったらタイミングベルトの交換をどうするか、考えておくといいだろう。

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