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「R32GT-Rの皮を被ったR35」生みの親! 破天荒すぎる「伝説のチューナー」が語る「R」の魅力とその半生

この記事をまとめると

■事故車のR32との出会いがスタート
■チューニング全盛期の相棒はR33
■1200ps仕様のR35ですべてを理解

愛車として付き合うことでRを知り尽くす

 チューニングやドレスアップをせずとも、愛車と楽しく長く過ごしたいというクルマ好きは多い。プロと呼ばれる人たちが、どのように愛車と付き合っているのか気になるところだ。そこで、GT-Rやスープラを中心としたチューニングを得意とするプロショップ「トップシークレット」の永田和彦代表に話をうかがった。1000psを超えるGT-Rを仕立てたこともあり、GT-Rについては酸いも甘いも知り尽くす。自らの愛車で不具合や弱点を探りながら、ユーザーカーへとフィードバックを繰り返している。そうして常にブラッシュアップしてきたGT-Rチューニング。永田代表の愛車遍歴と共に、頼もしい相棒との付き合い方を紹介していこう。

初出:GT-R Magazine(2020年154号)

お金がないから安くできるシングルターボ仕様に!

 好きなチューニングを仕事にしたという「トップシークレット」の永田和彦代表にとって、愛車と店のデモカーとの境界線は曖昧だ。一般的に仕事とは関係ない分野で趣味を見つけて気分転換する方が多いが、永田代表の場合は妥協のないチューニングを愛車に施すことで、明日への活力を得ている。だから愛車はトップシークレットの指針のようなものだ。その時々の永田代表の志向が色濃く反映されている。

「トップシークレットを始めたころはお金がなくて、フロントがヤレた事故車のR32GT-Rを格安で手に入れて、 フレーム修正してチューニングしていました。ターボもふたつよりもひとつのほうが何かと安く済むという理由で、TD07シングルの700ps仕様にしていたのです。カストロールカラーのグリーンメタリックで目立たせました」

 永田代表とGT‒Rとの付き合いはここから始まる。チューニングを生業にするにはGT‒Rはハズせない存在。だから30年来、常に各時代のGT‒Rを相棒にしてきた。トップシークレットの歴史はGT‒Rとは切っても切れない縁があるのだ。

自分のクルマだからこそ気兼ねなく無茶を試す

 R33GT-Rは3台を乗り継いだ。チュー ニングの全盛期で、あらゆる仕様を試みる。自分のクルマだから気兼ねなく無茶ができるのでトラブルは少なくないが、そのぶん貴重なノウハ ウが得られた。これは永田代表のかけがえのない財産だ。

 R34は2台。レスポンス重視のビッグシングルからパワー追求型のツ インターボなど、スカイラインGT-Rの心臓部であるRB26DETTチューニングはやり尽くした。弱点も対応策も心得ている。 

「だからR34の生産が終わり、新しい日産GT‒Rが出るまではちょっと変わったクルマを相棒にしていました」

 R32にZ33のVQ35エンジンを載せて、あえてNAの6連スロットル仕立てで350psオーバーを実現。ハイレスポンスと高音の排気サウンドがたまらない仕様を完成させた。R34には同じVQ35でもGT2530タービンを使い、ツインターボに。おもしろいほどトルクフルな味付になった。

「どこからともなく次期GT‒RはV8ツインターボで登場するという噂が流れたころ、それならば、とばかりにV35スカイラインでGT‒Rモドキを作ってしまいました」 

R35発売前にトランスアクスルのシステムを製作

 これがなかなか完成度の高い本格派だ。エンジンをシーマ用VK45のV8に換装。GT2540タービンでツインターボ化を行う。さらにフロントヘビーが気になった永田代表はスープラ用のゲトラグ6速MTをリヤのデフに移設。大胆にもワンオフでトランスアクスルのシステムを作った。 

「蓋を開けたらV8ではありませんでしたが、R35もトランスアクスルだったのでびっくり。しかもエンジン側に残したクラッチとプロペラシャフトとの接続部分のベアリングがすぐにダメになるところまで一緒で、良いところも悪いところも似ていて妙に手応えを感じました」

  R35はさまざまな仕様にして10台を乗り継いでいる。

R32のボディとR35のエンジン&ミッションを融合

 R35の弱点を克服した2017年には、R32にVR38のみならず、トランスアクスルも流用したVR32を完成させる。違和感のないエンジンスワップに定評のある永田代表の集大成とも言える作品で贅沢すぎる相棒。これはすごい。

「愛車を作るとすぐに売ってほしいと言われますが、VR32は売りません。一生そばに置いておきます」

 現在、新たに加わった永田代表の相棒は、撮影日の1週間前に完成したばかりのR35 MY11だ。

「VR38を体感するとRB26DETTのトルクの細さを痛感します。高回転で威力を発揮するRBは確かに楽しいですが、VR38の3500rpmから 7000rpmまでフルトルクをキープする豪快さは圧巻。同じ600psで比べるとシフトダウンいらずのVRは街中でもサーキットでも扱いやすく、確実に速いですね」

1200ps仕様も製作し弱点も隅々まで理解

 そんなR35の底力に魅せられた永田代表は、現在の相棒の前にも刺激的なR35と付き合ってきたのは前述の通り。素性の良いエンジンだから 1200psという途方もないパワーがRB26よりも苦労せずに生み出せる。しかしクラッチやミッションがおぼつかないのが弱点だ。

 初期のころはミッションギヤの位置を感知するセレクターソレノイドのピストンのガタが大きくなってミッションエラーが多発。苦肉の策として重りを付けてピストンのバランスを保たせることで誤魔化していた。 その2年後にクリアランスを減らすピストンのキャップが日産から出てミッションエラーは減っていった。  プロペラシャフトのボルト緩みを誘発するフライホイールハウジングのガタもサーキット走行では頻繁に発生。これも日産から対策品が出るまでは常にチェックを強いられた。クラッチの不快な繋がりも気になった。これにはミッションのコンピュータを使ってクラッチの繋がりの強さやタッチポイントを調整して対応。それでも直らないとクラッチをバラして内部のシムを調整した。

快適で遊べてトラブル知らずのR35が現相棒

 年々進化を続けているR35はとくにMY17から新設計部分が増えて格段に扱いやすくなった。同時に永田代表のノウハウも蓄積されて、今はトラブルをほぼ克服している。

「750psくらいだとそこそこ遊べて快適で、普通に飛ばす程度では何の問題も起こりません。しかし今回の相棒は、さらにマージンを採って600psにしています」 

 エンジンもミッションもコンピュータはMY17よりもさらに進化したMY20に変更。ブースト圧をノーマルの0.9kgから1.2kgまで引き上げているだけで、ターボはもちろんエキゾースト系も純正のままを維持している。

「パワーに頼らないでどれだけ楽しさが表現できるかをこの相棒と共に追求していきます。走行距離がもうすぐ15万kmだから、VR32と同様に手放さずにじっくりと付き合っていくつもりです」  

 不具合とは無縁で燃費もいい。さらに多くのチューニングカーを乗り継いできた永田代表ならではの奥深さも注ぎ込んでいく。パワーだけではなく楽しさを追求するのがチューニング。今後どのような楽しみ方を提案してくれるのか、楽しみだ。

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