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伊藤かずえもひと安心! オーテックジャパンの「里帰りレストア」がスゴすぎた

自動車メーカーが手がける「レストア」はどれくらいすごいのか?

 先日、芸能人・伊藤かずえさんの愛車「シーマ」が日産の子会社である「オーテックジャパン(以下オーテック)」でレストアを行うという報道がクルマ好きの間で話題となった。街の自動車屋ではなく、自動車メーカーが手がけるレストアとはどのようなものなのだろうか?

 オーテックは上記のシーマとは別に、2018年に日産セドリック(430型)のレストアを行い、その模様を同社のSNSで公開していた。改めてその時の模様を振り返りつつ、同社の担当者に「旧車のレストア」について話を伺った。

何故オーテックがレストアを行うのか

 そもそもオーテックは、なぜセドリックのレストアを行っただろうか? また、このようなレストアはよく請け負っているのだろうか?

「弊社でレストアを行ったのは合計9台で、すべて日産自動車からの依頼ですね」と語っていただいたのは、同社のレストア担当者だ。

「これまでニッサンR382(21号車と23号車)、プリンスR380A-I型(11号車)、セドリック4ドアH/T(430型)、セドリック4ドアセダン(430型)、パルサーセダン(YN10型)、ダットサンサニートラック(B20型)、ダットサン消防車(F4146型)、キャラバン・チェアキャブ(HPE20型)になります」 ちなみにニッサンR382(21号車、イエロー)は2013年にNISMOとオーテックの共同作業でレストアをスタート。当時の資料が皆無という中で、まさに手探り状態だったようだ。特にエンジンの損傷が激しく、すべて分解してから組み直したという。2013年のNISMO FESTIVALで初披露し、その後同イベントでデモランを行っている(写真は2016年のNISMO FESTIVAL)。オーテックならではの、オーテックじゃないとできないレストアと言えるだろう。

国産乗用車初ターボ搭載のセドリックをレストアする「歴史的価値」

 2018年にレストアしたセドリックも日産自動車からの依頼で「日産ヘリテージコレクションの保管車両に適した個体との判断からレストアの対象になった」のだそうだ。確かに430型といえば国産乗用車初のターボを採用したモデルであり、日産としてエポックメイキングなクルマだった。ベースとなった個体は4ドアハードトップでL20E-Tエンジン搭載の5速MT、グレードはターボSGLエクストラである。入庫時のコンディションは一見「レストアする必要はあるの?」と感じるくらい、悪くない。「前オーナーについて弊社では把握しておりませんが、提供していただく直前まで運用されており、エンジン、トランスミッション、シャーシなど駆動系のコンディションは良かったです。そこで内外装の復活、エンジンルームの清掃とヘッドカバーの再塗装などを中心に作業を進めました(担当者)」

内外装のレストアで苦労したポイントとは?

「外装のレストアで苦労したのは、隠れた部位の錆や腐食ですね。劣化が激しい箇所の補修が大変でした。ない部品について基本は日産部品センターより購入しましたが、製造廃止の場合はサプライヤーと直接交渉して手に入れる場合もございます。今回のセドリックのケースでは、新品部品はほとんど入手できておりません。中でも左右のフロントフェンダーホイールアーチ下部の腐食やパネルに穴が空いた箇所については、新規に外板を起こして復元することはいろいろな条件を鑑みて不可能でした。そこで日産自動車で補修用にストックしてあったパーツを支給していただきました」

 例えメーカーと言えど、ない部品はどうしようもない。製造廃止部品もそのためだけに新規にパーツを製作するのはコスト的に折り合わない。

「内装で苦労したのは、シートの経年劣化の復元(色褪せ)、各所ゴム類の補修ですね。前オーナーが追加したアクセサリー部品を撤去して補修したのち、オリジナル状態へ戻しました。またインストルメントパネルのアッパートリムの経年劣化による浮きを修正しましたね。内装トリムパーツも新品や程度のいい部品の入手はできず、シート表皮の色あせなどは清掃後に塗装して当時の色合いを復元しました」

エンジン関係の修復は? 電子制御部品は大丈夫だった?

 また機関系の修復に関しては、前述の通りコンディションが良かったため今回は行われていない。作業前の写真を見ると改造された形跡も少なく、ほぼオリジナルだったことも奏功しているのだろう(ヘッドカバーは金色に塗装されているが)。そこでヘッドカバーの再塗装が行われ、まるで新品のような仕上がりとなっている。「TURBO」の文字が眩しい!  ちなみに電子制御部品に関しては「これまで手がけたレストアでは電装・電子部品に大きなトラブルを抱えた車両はありませんでした」とのことだった。今回のセドリックは電子制御ありきのATではなく、シンプルな5速MTだったことも良かったのだろう。

 ちなみに今回のレストアで入庫から完成まで期間はどれくらいで、何人くらいのメンバーで作業を行ったのだろうか?
「大体3カ月、6名のメンバーで行いましたね。これまで手がけたレストアと比較して、この人数は標準で、比較的短いほうだなという印象です。レストアの内容でかかる月数はもちろん変わり、今回のセドリックはエンジンの分解整備がなかったぶん、作業としては重くない部類でしたね」

 

まとめ:レストアに「近道」はない

  完成したセドリックは現在、日産ヘリテージコレクションの公開エリアにある(本稿執筆時点では一般見学は停止中)。今後は日産が行うイベントなどで展示する可能性もあるという。綺麗に全塗装が施されたボディは新車のようだ。 インテリアは後付けのメーターなどが撤去され、浮きが発生していたトリムが修正されている。当時の日産らしい「絶壁インパネ」は今見るとかなりかっこいい。また、現在の高級車ではまず設定がない5速MTを採用しているのも時代を感じさせる。 シートまわりも再塗装が施され、今製造ラインから出てきたかのような風合い。応接間のようなデザインは当時ならでは。 内装トリムは経年劣化や汚れが堆積していたが、清掃と再塗装でご覧の通り見違えるほど綺麗になっている。ファンなら「このレストア車両を売ってほしい」と感じること必至だろう。  セドリックの現役時代を知らない、ミニバンや軽自動車ばかり乗ってきた今の世代にとって「こんなデザインのクルマを、日本も売っていたんだ!」と感動するのではないのだろうか。

 セドリックのレストアを通じてわかったのは「メーカーのレストアだからといって近道なんてない」ということ。クルマが好きだという情熱を持ちながら、地道な作業を積み重ねることでしか「極上の旧車」を作り出すことはできないのだ。

 特にこのセドリックにとっては前オーナーまで大切に維持され、レストアを施されたのち(恐らく)生涯ずっと座間で保管されるのだから、クルマにとって「最高の人生」ではないだろうか。オーテックの仕事はクルマ好きにとっても、またクルマにとっても、とても夢に満ちている。

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