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セリカの心臓をカローラにぶちこむ! 超希少な「TRD2000」を新車購入したオーナーの愛

TRD本気の限定販売コンプリートカー! 3S-GEエンジン搭載

 ラグジュアリーからコンパクトまで、チューニングしたスポーツ系車両が隆盛を極めた90年代。週末ともなると夜な夜な埠頭や峠、首都高速にと腕自慢が集結。そこには愛車を魅せる“ドレスアップ的なカスタム”はまだ少なく、走りを楽しみたい走り屋たちがしのぎを削っていた。
 各自動車メーカーの直系ワークスチューナーブランドも、自社のイメージを高めるべくレースで培った技術を惜しみなくフィードバックしたパーツや、実際にマニア垂涎の台数限定のコンプリートカーを販売するなど、今のスマホを手放せない世代と同じように、スポーツカーは当時の若者を虜にしていた。

 そんな中、1994年に2台のコンプリートカーが登場する。1台はNISMO創立10周年を記念したS14シルビアK’sをベースにした「NISMO 270R」で、エアロや強化した足まわりやパーツを装着。エンジンは270ps(純正220ps、オーテック仕様は250ps)を誇っていた。
 もう1台が今回紹介するTRD(TOYOTA RACING DEVELOPMENT)より、限定99台……の予定だったが、10台の販売にとどまった『TRD2000』だ。ベースは7代目となるAE101型カローラGTで、今なお愛されている1.6L 4A-GE型エンジンを搭載しているグレードではあるが、TRD2000はトルクフルな2.0L 3S-GE型エンジンに換装されている。このエンジンはT200系セリカやSW20 MR2に搭載しているモノと同じとなる。今回、新車のTRD2000を手に入れ、今も大切に維持しているオーナーに話を伺った。

トルクがあり、街乗りが楽しい! それでいて見た目は普通のカローラ

「TRD2000はST202型3S-GEエンジン(180ps)に換装しています。これは当時、私が所有していたSW20型のMR2とまったく同じエンジン。FFかMRの違いだけです。2000ccあるのでトルクもあって街乗りが楽なんです」

 動力性能に関してもあまり変わらなかったというが、車重がMR2よりも約80kgほど軽く(TRD2000はおよそ1140kg、MR2はおよそ1220kg)、FF駆動ということもあり「ホイールスピンで前に進まないということはありました(笑)」。 エンジンルーム内のアフターパーツは、プラグコードの変更と断熱処理程度。樹脂製パーツなどは保護ツヤだし剤を定期的に使用していることもあり綺麗な状態を維持している。

 

販売する条件と高価格が災い!? 99台の予定も、わずか10台にとどまる

 オーナーのOサンは、「とくにTRDに心酔していた訳ではないですが、JTCCに参戦しているレース車両と同じ製造工場で作られるクルマで、かつ限定車。人数に達してしまったら手に入らない。信頼と実績のあるTRDが作ったクルマなのでぜひ手に入れたいと思いました」。

 しかし購入するには、25歳以上、一都三県での車両登録、新車保証ナシ、(乗り出し335万円の)支払い能力と契約後のキャンセルは不可など(他にも交換する4A-Gエンジンも貰えない等々)、いくつもの条件を設定。結果、当初は99台の販売を予定していたが、わずか10台の成約にとどまったという。
 当時のOさんは、年齢が条件を満たしていなかったことと、前述した通り同時期にSW20型のMR2を新車で購入したばかりだったため、実父に勧めてみることにした。

「親父は当時、AE82型カローラに乗っていましたが、車検のタイミングと重なったこともあり意外にあっさりと、じゃあ買おうかと言ってくれたんです。同じAE101のセダン(およそ156〜180万円)と比べても倍くらいの価格設定。普通は買わないよなぁ……と思いましたが、購入してくれたので、“コレはもう一生乗るクルマだな”、と決意しました」

 納車後、今年で27年目に突入したが、現在の所有者はOサンになっている。

「父は、“もうクルマは怖くて乗れん!”と言って、数年前に免許を返上しました。マニュアル車しか乗れない人でしたが、判断能力や操作の能力に危険を体感したんだと思います。乗る機会も少なくなったので自ら返納しました。マニュアル車なので暴走はしないと思いますが、潔かったですね」
 ちなみにAE82型カローラの前は、“のびのび30”のキャッチコピーの3代目、KE36V型のカローラバンに乗っていたという。「商売をやっていたのでバンタイプでした。今ではそれも取っておけばよかったと思っています(笑)」。
 話を聞いていると、すべてトヨタ車に乗っているOサン。「中学生のころ、友人の影響もあって、よくディーラーにカタログをもらいに行っていたんです。そうなるとトヨタの他にも行くじゃないですか。そこで邪険にされたり、パパによろしくねーとあしらわれたり。各社で対応がまるで違う。そんな影響もあったんでしょうね、トヨタ党になりました(笑)。それに当時のトヨタは他のメーカーでは出さないクルマ、例えば庶民の稼ぎで買えるミッドシップ(MR2)やガルウイング(セラ)とか。マニアックな車両を作ってくれるのは魅力的でした」。
 車両はガレージ保管という好環境下の恩恵も大いに受けるが、Oサンの愛情もしっかり与えられており、ゴムモールの破損などはなく、ラジエターホースなどのどんなクルマでも劣化する部位の交換のみで済んでいるという。

「大きなトラブルはないです。エンジン、トランスミッションだけでなく、エアコンやパワーウインドウも壊れていません。ベース自体はAE101型の後期モデル。半年後にはAE111が出てくる時期だったこともあって、対策部品がすべて付いた熟成された状態。個体としても当たりだったのかもしれないですね」

クルマに優しく、見映えの良いアイテムを装着した最小限のカスタマイズ

 見た目でまず目を引くのがカーボンボンネット。「これはカローラ乗りの仲間内で作りませんか、という話になりまして。30台ほど集めて作りました」。製品はフルカーボンかつ軽量にしたいという理由で1枚+骨組みのみ。

「普通は2枚くらいは重ねるみたいですが。純正とは比較にならないくらい軽い。ハンドルの入りが気持ちいいくらい違います」。光にかざすと透けているのがハッキリと伺えるほど。
 また、カーボン製だが薄いボンネットとエンジンの熱を車外に逃すために、走行後には必ずある程度の時間、ボンネットを開けておくという。「家族で買い物に出かけても、先に家族には店内に入ってもらって、自分はクルマに待機してボンネットを開けて置いて粗熱を逃してから店内に入るようにしています(笑)」。ターボタイマーならぬ、2、3分の熱冷まし待ちをしているのだ。

 ヘッドライトはカローラワゴンのBZツーリング用ヘッドライトに変更。

「ハーネスのみの変更で付きました(変換ハーネスを作り、いつでも元に戻せる状態)。クリアランスランプの位置がワゴン(はヘッドランプ内)と異なるので、必要な配線処理をして装着しました」

 さらにフロントグリルは100系のFX用に変更。色もボンネットに合わせたブラック系(205ブラック[メタリック入り])に変更。フィンには赤ラインのステッカーをあしらう。
 フロントリップスポイラーはカローラワゴンのディーラーオプションを装着して、あと少しの低さを追求する。コーナーマーカーはオレンジからクリアに変更している。「クルマ雑誌のワゴニストで見つけて。まだネット通販のない時代の通販で買いました(笑)」。

 ホイールはENKEIのNT03の17インチ。購入時はすでに廃番でオークションにて格安で手に入れた。とはいえ、この17インチの前は、同じNT03の16インチを装着する徹底ぶり。

「デザインが好きで。このクルマの年代的にも合っていると思いました。インチを大きくしたのは、最近の新型車はコンパクトでも純正は16インチ以上、セダンは17インチや18インチを履く時代に突入していますよね。だったらカローラも17インチでしょ!という思いで探しました(笑)。でもコレが限界。今後さらに大径時代が来ても18インチは無理です。リヤのクリアランスに余裕がないのでストラットやインナーフェンダーに干渉してしまうんです」

 フロントに5mmのスペーサーを入れてフェンダーとはツライチ、ブレーキキャリパーもギリギリでかわしている。

「キャリパーをTRDのレビン・トレノ用として出ていた4POTのハイパフォーマンスブレーキキットに変更しています」

 リヤはNT03のインセット32を入れた時点でフェンダーまで近づいたため、ツメ折り加工でツライチを演出する。
 足まわりはTRD2000標準のショックとローダウンスプリングが入る。購入して26年の間、無交換。「正直ショックは納車して10年ほどで抜けている感覚があります(笑)。換えたいとは思っていますが、TRDはすでに廃番になっていまして。ただ車高調があまり好きじゃないんです。ほとんどがピロアッパーかと思いますが、これだと突き上げなどでダメージが蓄積しそうでクルマに優しくないと思ってしまいます」。それゆえに純正形状を探しているという。

タコメーターは4A-G用のまま?

 MOMO製ギブリ4のステアリングは「以前所有していたAE82に付けていたモノを移植しました。4ドアセダンに似合うスポーティ過ぎないデザインが気にもう30年以上愛用しています」。 ステアリングをはじめ、シフトノブやMR2から移植したレカロシートのショルダー部分など、擦り切れそうな箇所も、経年劣化は感じるも、とてもいい状態を保っている。 TRD2000の納車時のホイールが鉄ちんだったり、交換した4A-Gエンジンは貰えないなど、335万円という当時の価格からすると不満はいくつかある。メーターに関してもソレを感じたという。

「タコメーターが4A-G用のままなんです。4A-Gは7700rpmがレッドゾーン。3S-Gは7200rpmがレッドゾーンです。細かいかもしれませんがそこは大事なところ。本来は換えないとダメですよね(苦笑)。なのでこの表示のレッドゾーンの前に、ちゃんと7200rpmでレブリミットがかかります(笑)」

今作ったとしたら、ここまでコストは膨らまなかった!?

「当時はまだコイルスプリングを変更しただけで改造車検となった時代。今でこそTRDやGRなどでクルマのカスタムを推奨していますが、(当時の)トヨタとしては改造を認めてなかったため、TRDが責任を持って車両を作るといっても一切関与していないんです。ベース車も完成した状態でTRDに一旦納車されて、載っていた4A-Gエンジンをわざわざ下ろしてから3S-Gを積んでいたので、そのぶん、余計に改造費がかかっているんですよね。だから今同じように作ったとしたら、もっと抑えられると思います」
 もう少しコストを抑えられたら、販売予定の99台も完売していたかもしれない。

 シリアルナンバー#4のTRD2000は27年目を迎え、今ではふたりのお子さんのパパになっているOサン。お子さんの年齢はOさんがTRD2000を購入した時期に近づいているというが、「多分譲らないと思います(笑)。中古のMT車を購入して練習してからですね」。

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