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なぜイギリスにスティーブ・マックイーンの「ポルシェ917K」が!? 見どころたっぷりの「英国自動車博物館」

クルマ趣味王国イギリスは博物館の本場

 これまで、フェラーリに関する博物館と、ポルシェに関する博物館を紹介してきましたが、今回は特定の自動車メーカーに関わらず、幅広くクルマ趣味を嗜んでいる人向けにお奨めのイギリスの博物館を3つ紹介していきます。

    個々の博物館を紹介する前に、イギリスのクルマ事情について触れておきましょう。19世紀後半に施行された悪名高きLocomotive Act(機関車法)によって自動車産業の発展と、モータリゼーションの発達に大いに支障をきたしたイギリスですが、1886年にこの悪法を廃止して20世紀を迎えるころには、いくつかの有力な自動車メーカーが誕生しています。そして自動車大国への道を辿り始めたのですが、第二次大戦後は“英国病”が蔓延し、また日本車の攻勢などもあり、英国メーカーは次第に凋落していきました。

  残念ながら現在は、趣味性が高い商品を少ない台数だけ生産する、小規模なメーカーが残るのみ。多くのブランドが廃止され、また生き残ったブランドも、海外資本の傘下に入り、往時の勢いは見る影もありません。その一方で、趣味性という観点から(旧い)英国車の人気は高く、今もってイギリスはクルマ趣味の王国なのです。

ビューリー国立自動車博物館

 そんなイギリスの特徴的な自動車博物館と言えば、先ずはヒースロー空港から南西に約80マイル(130㎞弱)離れたハンプシャー州ビューリーにあるビューリー国立自動車博物館。 国立とは言うものの、そもそもは男爵の爵位を持ったモンタギュー卿が1959年に設立したプライベートコレクションでした。設立から13年後には現在のメインホールが完成するとともに、運営を端とするNational Motor Museum Trust Ltdが設立され、国に慈善団体として登録されたことにより“国立”を名乗るようになりました。これによって一般オーナーからの寄贈などが進み、収蔵展示車が充実していったのです。 これは自動車博物館としての収蔵車両とは関係ないのですが、公園内には自動車博物館とパレスハウスを結ぶ全長1.6㎞の跨座式モノレールが設けられていて、博物館駅の直前では軌道が博物館のメイン展示場の屋内上部を通過するようなレイアウトで、モノレールの車内から展示ホールを見下ろすことができるようになっています。ちなみに、このモノレールは英国初のモノレールで、メインホールが完成した2年後にここに移設されたものです。 ビューリー国立自動車博物館の収蔵展示車両は、19世紀末期の蒸気エンジンを搭載した荷車や、20世紀初頭のディムラーやロールス・ロイスなどの古典の名車から、20世紀末のレーシングカーまで数多いのですが、個人的にはGulfカラーのポルシェ917Kが最も“刺さった”1台です。 これはスティーブ・マックイーン主演の『栄光のル・マン』の撮影中(つまり1970年のル・マン24時間レース本番中)にクラッシュした個体で、それをポルシェでリビルドし、翌1971年のデイトナ24時間レースで優勝したクルマそのものということ。そんな経緯は別にしても、Gulfカラーのポルシェ917Kというだけで感動はMaxまで盛り上がります。 もうひとつ印象に残ったのはマクラーレン&フェラーリ、ジャガーのCカーが吹き抜け部分に設置された“空中回廊”に整列する展示方法。グッドウッドのフェスティバルofスピードのメイン展示でもよく見かけますが「イギリス人ってこんな派手な趣向があるんだ!」と驚かされました。市販モデルだけでなくラリーカーも何台か展示されているので、レースファンだけでなくラリーファンにもお奨めです。

ブルックランズ博物館

 続いて紹介するのはブルックランズ博物館。ヒースロー空港からは15マイル(約25㎞)足らずで、クルマだと30分弱で到着する便利なアクセスも魅力のひとつですが、こちらは舗装された常設のサーキットとしては世界最古とされるブルックランズ・サーキットの“跡地”に開設された博物館です。

 その名の由来となった小川(Brook)に架かる小さな橋を渡って入場した先には、自動車博物館だけでなく、超音速旅客機として知られるコンコルドも展示されている航空機博物館や、新旧の2階建てバスをメインに展示されたロンドン・バス博物館も、エリア内に併設されています。 自動車博物館に関しては3つのホールが用意されていて、それぞれが旧き良き時代の風情を漂わせています。 ここでのお薦めはホールナンバー8番のジャクソン小屋(JACKSON SHED)で、まだ第一次世界大戦前の1912年式ロレーヌ・デートリッヒから第二次大戦前のアストン・マーチン、そして戦後のクーパーや現代のマクラーレンまで、新旧さまざまなグランプリカーが展示されています。 それもクルマのみならず歴史的に注目すべきエンジン……例えばジャガーXJR-14に搭載されていたフォード・コスワースの3.5L V8のHBCなど有名なものだけでなく、アンザーニの1926年式の1.5Lツインカム・エンジンといったマニアックなものまで……多くのユニットが展示されています。

 個人的には、この時が初対面となった1979年のウルフWR7・フォードがとても印象に残っています。

英国自動車博物館

 最後に紹介するのはヒースロー空港から北西に80マイル(約130㎞)程離れたゲイドンにある英国自動車博物館。 イギリスの自動車メーカーは合従連衡を繰り返して衰退していきましたが、こちらは紆余曲折の末にしっかりとした運営基盤が確立されています。少しだけその歴史を振り返ると、1970年代にブリティッシュ・レイランド(BLMC)の歴史的車両を保存管理するために、BLMC社内の1部門として設立されています。その後BLMCがローバー・グループに移行し、BMWに買収された後にフォードに売却されるなど、まさに変遷が続いていましたが、現在では英国自動車産業遺産信託となってBLMC以外のメーカーの車両も保存管理することになり「ヘリテージ・モーター・センター」として新たな一歩を踏み出しています。 さらに2015年には展示館が大幅にリニューアルされ、翌2016年からは英国自動車博物館と改名して現在に至っています。この経緯からも明らかなように、この博物館はまさにイギリスにおける自動車産業の歴史そのもの。収蔵展示車両も19世紀末期のウーズレイやディムラーから今世紀のモデルまで実に多くのモデルが収められており、展示されているのはその一部に過ぎません。 特に、ジャガーが閉鎖したジャガー・ディムラー・ヘリテージセンターから収蔵車両をすべて引き受けたために、ロードモデルからレーシングカーまで、歴代のジャガーが展示されているコーナーは圧巻でした。 個人的にはジャッキー・スチュワートがドライブしたマーチ701・コスワースが目的の1台でした。 が、実際に訪れてみたら、ローバーBRM(ガスタービン)のル・マン・カーに出会えて、感激したことが今も忘れられません。

 この英国自動車博物館も、先に紹介したふたつの博物館とともに、イギリスを訪れるなら絶対に見ておきたい博物館。お奨めです!!

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