復活したサファリ・ラリーの本質は変わらなかった
2021年世界ラリー選手権の第6戦、6月24〜27日にケニヤで開催されたサファリ・ラリー・ケニア。Web配信されているそのサファリ・ラリーの動画を見ていて驚いた。強烈なペースだったからだ。ヨーロッパのスプリントラリーの速さと変わらない。しかし悪路対策を施した足まわりのマシンでは、やや乗りづらそうにも見えた。本番イベントでのサファリ経験が初めての若い世界のトップドライバーたちが、本気でアフリカを走るとこうなるんだ! と感心していて見ていたが……。
やはりタイヤが取れちゃうようなアクシデントが続出。スーパードライバーがスタックするようなことまで起きた。こんなことヨーロッパラウンドで見られることは滅多にないが、やっぱりサファリはサファリでラリーの本質は変わっていなかった。
日本人ドライバーの若手“タカ”勝田! ヤリスでサファリ2位に
そんな中で“サバンナの神様”に愛されたのは“タカ”(勝田貴元)だ。
トヨタはヤリスでワークス系4台が出場。その中の“タカ”はトヨタのチーム戦略もあるだろう。十分なスピードを身に付けつつある今だが、少し引いたところでペースを守っていた、ように見えた。そして大きなトラブルを抱えることなく、いい位置で走っていたと思える。
彼らならこれで十分安全に走れる。常人がペースを抑えるという意味合いとは全然違うのだ。そういったドライバー枠の中に今や“タカ”がいるという事実が素晴らしいのだ。
だから今回の成績が付いてきた。タカがサファリ・ラリーのトップに立ち、セバスチャン・オジェから追いまくられた時にもペースを守り切った、このことがオイラはすごいと思った。
普通のドライバーなら、明らかに自分より速いドライバー相手であっても色気を出してミスをするものだ。だいたいが単独走行であると言えるラリーでは、メンタル的に崩れていくものなのだ。
サファリの道ではワンミスでパンクをするか、アームが千切れるかで、優勝どころか下位に沈むのが習わしだ。だからオイラは思った。サファリを準優勝で締めくくれたのは、“サバンナの神様”に愛されたのはオジェではなく、ルーキードライバーのタカだったのだと。
そして競技者というものはゴールした翌日には嬉しさより、次のラリーへのモチベーションが高まっているものだ。この経験を生かし、次戦エストニアラリーを気持ちよく“タカ”はスタートすることだろう。
野生動物に競技規則は通じない
今年のサファリのステージはほとんどがプライベートエリア、広大な農場の中だ。
農場といってもほとんどは開発されてない原野、サバンナだ。いちおう周りを柵で囲っているから一般車は入ってこない。だから閉鎖空間という事でSS(スペシャルステージ)で使える。
ただ野生動物は完全にコントロールできない。シマウマやインパラ、キリンあたりは農場(彼らにしてみれば住処を勝手に人間が農場と呼んでるに過ぎない)の中にたくさんいる。
だから先頭ゼッケンはだいぶ気を使かう。オイラもSS制になった2007、2008年にほぼ同じエリアのステージを走った。ゼッケン2番スタートだったが、あっと言う間に1番がリタイアしてしまったので先頭でコースに入ることに。こうなるともう、インパラ、ガゼール、ダチョウ、キリン、ジャッカルと動物観察は最高だった(笑)。
そしてシマウマの群れに何度か行く手を阻まれもした。
時々オフィシャルのヘリコプターが低空飛行でシマウマの群れを追い払ってくれているのが遠くに見えるのだが、群れは分散して逆に取り留めもなくコース周りに散らばる。これには閉口した。パニックに陥ったシマウマの動きが読めないのだ。いわゆる有難迷惑って奴ですな(泣)。
とにもかくにも一筋縄でいかないのがサファリの伝統なのだろう。昔の競技形態TC(タイムコントロール)制の話は次回に持ち越しということ……。
クワヘリ (※ケニヤ現地のスワヒリ語でバイバイ)!
執筆/三好秀昌
ラリードライバー、フォトグラファー。1990-1994年まで篠塚建次郎選手をドライバーとする三菱ラリーアートのチームマネージャーとしてサファリ・ラリーに関わってもいる。自らもスバル・インプレッサのドライバーとして1995、1996(WRC)、1999(WRC)年参戦。1995〜96年2年連続サファリ・ラリーでグループN優勝。
2007〜08年、アフリカ選手権サファリ・ラリーに三菱ランサーエボリューションのドライバーとして参戦。2008年FIAアフリカ・ラリーチャンピオン獲得。5回のサファリ・ラリーでは完走率100%。親しみあるショットの動物写真家でもある。