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まさに「砂漠のロールスロイス」! 元祖高級SUV「レンジローバー」は何が凄かったのか

本格的クロスカントリーだった「レンジローバー」の本質  

 自動車業界にとっては「ゼロカーボン」を実現しなければならない時代を間近に控え、メーカーの吸収合併・統合や新規参入メーカーの登場など、業界再編成の動きが予断を許さぬ状況となっている。老舗のメーカーだからと、その存続が保証される要素はどこにもないのだ。時代の要求に合った製品を開発、送り出し、社会状況に応じた経営戦略が必要不可欠となっている。 こうした目で自動車史を振り返ってみると、企業が舵取りを誤ったことで名門のブランド名こそ残すものの、その実体は有名無実となった衝撃的な例に行き当たってしまう。自他共にモータリゼーションの先進国と認めていたイギリスである。 イギリスの自動車産業界は、1970年代に入るころから社会ニーズに応じた車両開発や経営方針の変針が遅れ気味となる。そして世界の潮流から取り残されたことで、数あった老舗メーカーのほとんどが経営権を海外企業に買い取られ、民族資本の企業が消滅してしまった事実がある。

 もっとも、それはそれでよくしたもので、新たに経営権を手に入れたメーカーは獲得ブランドの本質的な価値を理解し、それに沿った製品開発を続行した。もともと歴史的な重みを持つブランドが多数存在した英国自動車メーカーだけに、ブランド観を無視した商品開発はあり得ないという判断が働いていたのだ。

誰でも手が出せる訳ではない! それがブランド価値だった

 4駆のプレステージカーと認められてきたレンジローバー(ランドローバー社)も、そうしたうちの1台だった。 イギリスは、歴史的に階層社会である。現在の日本では、あまりピンとこない「身分相応」という表現が、中世以降、現代まで引き継がれてきた国である。文化の頂点には王侯貴族が位置し、彼らが使うにふさわしい「道具」が決まっていた。自動車もまさにこうしたうちのひとつで、一般庶民は、金銭的に所有が可能であっても手を出せない、出してはいけない禁断のブランドが厳然として存在した。

 レンジローバーも、本来選ばれた階層に向けて開発された車両の1台。王侯貴族が自身の所有する荘園、領地で狩猟をする際、不安定な足元(路面)を気にせず高く安定した走破性能を有しながら、内外装の質感は、使う人の生活水準に見合うものを想定した内容の車両コンセプトである。 余談だが、英国での車両ヒエラルキーは、自ら運転して公式な場に出向く場合がベントレー、ロールスロイスは運転手付き(自ら運転してはいけない)で公式の場に出向く場合、カジュアルな場に出向く場合はアストンマーチン、所用で近隣に出掛ける場合がヴァンデン・プラス、そして狩猟に出向く際がレンジローバーという使い分けの価値観が存在する。

その起源は「クロスカントリー」に特化した使い勝手

 レンジローバー自体は、初代モデルが1970年に上梓されたが、ヘビーデューティーな4WDの基本骨格と走破性能は、ランドローバーを土台とすることは言うまでもなかった。ランドローバーは、第2次大戦後、オフロードでの高い走破性能で人気を集めたウィリス・オーバーランド社のジープを意識した車両で、ボックス断面を持つ鋼板溶接の堅牢なシャーシと軽量なアルミ材を多用するボディ構造を特徴とした車両だった。 それだけに、レンジローバーの走破性能は、単に身分の高い人たちの悪路走行用車両という域にはとどまらず、たっぷりととられたサスペンションストロークによるラフロード/オフロードでの高い接地性、路面追従性は、世界最高レベルのものだった。起伏の激しい路面で、持ち前のサスペンションストロークをフルに活かしてしなやかに路面を捉える姿は「ネコ足」と評され、専門家筋から非常に高い評価を得ていた。

 現在のイギリスは、さすがに車格に対する人々の意識は薄まってきたが、高貴な身分層を対象ユーザーとするレンジローバーの開発コンセプトにブレはなく、この高質感、高い走行性能が海外市場で大きな武器となり、都市型4WDとしてもレンジローバーに大きな商品価値を与えている。 しかし、実際のところ、市場が現代のレンジローバーに対してどこまで本格的なクロカン4WDの資質を求めているかは、少々疑問でもある。ソフィスティケイトされたワイルドさを商品力のポイントとするSUVの台頭を見るに付け、その方向に歩み寄りを見せる現代のレンジローバーにその苦悩が見え隠れするような印象も受ける。

 振り返れば、すっきりとした直線基調のデザインの中に上質感を醸し出していた初代レンジローバーのスタイリングは、秘めたクロカン4WDのパフォーマンスと合わせ、誰にでもわかりやすく親しみの持てるデザインだった。一目瞭然で伝わる高級感とその存在感。初代を回顧するファンが少なからず存在するのも納得できてしまう。 それにしても現在のレンジローバーの所有者が、かつての植民地インドのタタ社であることは、なんとも皮肉な時代の巡り合わせとしか言いようがない。この関係を目のあたりにすると、いやでも時代の変化を思い知ることになる。

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