サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

日産の名車はなぜ「人気」が乱高下するのか? そのシンプルすぎる理由を解説

ファンの多いブランドは評価がなぜ浮沈するのか

「初代が創業して、二代目で傾き、三代目が潰す」といった言葉があるが、名門でも名車でもそれを継承するというのは難しい。伝統的な車名を引き継ぐクルマたちも、モデルチェンジごとに評価が浮き沈みすることは珍しくない。クルマファンにとって長きにわたり話題となってきた、そんな傾向を振り返ってみたい。

スカイライン人気は代によって差が顕著に

 日産車にとくにその傾向が強いものがあった。わかりやすいのがスカイラインだろう。

 プリンス時代の初代、そしてポルシェ904を相手に善戦した元祖「スカG」、二代目のS54は別として、日産との合併後に登場した三代目の「ハコスカ」(C10)は、もっとも人気のある旧車として知られている。

 四代目の「ケンメリ」スカイライン(C110)は、社会現象となるほど人気があったが、「走りのスカイライン」としては……。五代目のジャパン(C210)は、排ガス規制の影響で当初はDOHCもターボもなく、牙を抜かれたスカイラインに。

 注目すべきはこのあとだ。まずR30で、待望のDOHCエンジンが復活。ツインカムターボとなった「2000ターボRS」は、「史上最強のスカイライン」といわれ、モータースポーツでも日産ワークスとして、ハコスカ以来久々にレースに復帰を果たしている。 しかし、R31ではハイソカーブームを横目に見ながら、ラグジュアリーカーに路線変更……。「都市工学スカイライン」というデザインコンセプトは、オヤジ臭く野暮ったい感じとも言われ、いわゆるスカイラインファンからはそっぽを向かれた。レースでも、インターTECでフォード・シエラなど外車勢に惨敗してもいる。

第二世代GT-Rも人気が乱高下

 その反省から生まれたのがR32だろう。 ボディサイズを縮小してまで走りを追求した。ファン待望の「GT-R」も16年ぶりに復活して、グループAレースで無敗の快進撃。伝統のサーフィンラインも復活し、チューニングカーの世界でも、ゼロヨン、最高速、サーキットのタイムと、あらゆる分野で従来のレコードを大幅に更新した。

 そしてR33……。「室内が狭い」と不満が寄せられたR32に対し、ローレルと共用シャーシで大型化。GT-Rはボディ剛性のアップ、空力性能の向上、ブレーキ、アテーサE-TS、アクティブLSD、HICASなどの進歩もあって、ニュルではR32のタイムを21秒も短縮した。しかし、大型化されホイールベースが延び、丸みを帯びたボディは不人気で、レースでもR32のようなファンからの共感、支持は得られなかった。

 そうしたR33に代わって登場したR34は、第二世代GT-Rのラストモデルということで、現在中古車価格が1000万円オーバーという超人気車種に。 ボディを再び縮小し、アドバンスエアロシステムを導入したことで、市販車ながらリフトフォースをマイナスにすることに成功。第二世代GT-Rの集大成として別格の扱いを受けている。

 というわけで、R30以降のスカイラインの人気具合を振り返ると、

R30が↗、R31が↘、R32が↗、R33が↘、R34が↗、と型式で偶数が上向き、奇数が下向きというのをクリアしているのがわかる(編集部注:販売台数ではなく、あくまで世間一般の評価)。

好調なスタートを切った平成シルビアの場合

 同様にシルビアなども、S13が1.8~2Lサイズで価格が手ごろなFR、そしてターボモデルもラインアップ。「アートフォース・シルビア」のコピーにふさわしいきれいなスタイリングもあって、大ヒットを記録した。 しかし、3ナンバー化したS14では人気が失速……。 S15では、5ナンバーサイズに戻りボディデザインも洗練され、ボディ剛性も大進歩。走りの面では素晴らしくなったが、クーペやスポーツカーの人気自体が陰っていて、ラストシルビアになってしまった。 このシルビアも世間の評価はS13が↗、S14が↘、S15が↗という流れになっている。

スカイラインと並ぶ金看板フェアレディZの場合

 もう一台、フェアレディZはどうか。 初代のS30は文句なしの存在だが、昭和末期のZ31はスポーツカーとしては印象が薄い。V6ターボになって、直線は速かったが……。ただ中古車市場では、いまだに230万円ぐらいが相場。 1989年に登場したZ32は、国産車初の280psで、空力に優れた低く完成度の高いボディが特徴。4輪マルチリンクサス、リヤビスカスLSD、アルミキャリパー&対向ピストンタイプのブレーキなど備えていて、スポーツカーらしさ、Zらしさに溢れたモデルだ。11年間も生産され現役が長いZでもあった(中古車は200万円前後)。  Z32の生産中止から2年後に復活したZ33は、FR用に新たに開発されたFMプラットフォームを採用した2シーター専用モデル。エンジンも新設計の3.5LのV6 VQ型エンジンで、前後重量配分に優れ、空力面でもゼロリフトを達成した。 ハンドリングもよく、大排気量NAのスポーツカーとして、またZらしさもあって評価できる一台。

 2008年に登場したZ34は、Z33よりもホイールベースを100mm短縮、およそ100kgもの軽量化が施されているが、価格帯が大幅に上がってしまったこともあり、存在感が薄い存在に……。 来春登場する新しいZは、日産の100%ガソリン車では最後のスポーツカーになるかもしれないので大注目だろう。

日産はファン心理をもっとよく理解して欲しい 

 こうして振り返って見ていると、日産の場合、ブランドイメージを守りつつ、ファンの期待に応える製品を出し続けるのがあまり得意ではなかったようだ。

 なぜこうなってしまうのかといえば、作り手側が飽きるというか、「同じものを求めるファンなんてうんざり」と思っているところがあるからではないのだろうか。

 しかし、どの分野でも、ファンとは同じものの反復作用に快感を覚える人たちのことだ。

 かつてミュージシャンの大滝詠一が、比較的同じタイプの楽曲を作り続ける山下達郎に対し、「山下君は偉い! それは同じものを求めてやまないファンに対する、大いなる愛情だ」と評したそうだが、日産に足りなかったのも、まさにそのファンに対する愛情だったのではないか。腹腰を据えて、キープオン! そうすればファンは必ずついてくると思う。 販売台数で見れば、R34GT-RはR33GT-Rよりも売れていないし、S15もS14より売れてはいない。でも、それは間にR33、S14があったからで、R32の次がR34で、S13の次がS15だったら、かなりの台数が売れたはず。オーナーには怒られるかもしれないが、R33とS14でユーザーの時間とお金と使わせてしまったのが惜しかった……。

 同じ傾向は、ホンダにもあるように思えてならない。F1への参戦と撤退を繰り返すのもそうではないだろうか。2代目NSXや、S2000、S660の幕引きの仕方、シビックタイプRなどを見ていると、ファン心理がわかっていないのではとも。

 その点偉いと思うのは、トヨタのクラウンやマツダのロードスター。そしてポルシェ911。これらのクルマはファン心理の呪縛に縛られながらも健闘していて、メーカーの大いなる愛情を感じられる存在である。

モバイルバージョンを終了