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カブじゃなくて「ジョルカブ」! 似て非なる「エクスプレス」! スーパーカブの「レア過ぎる」兄弟バイク6選

世界に広がるスーパーカブのレアな兄弟バイクたち

 誕生してから60年以上。今や若い世代たちにも大人気のスーパーカブ。そんなスーパーカブの特徴のひとつである横型エンジンは、モンキーやシャリィなど親戚と呼べるモデルたちも多数生み出していきました。そんななかで今回は、街ではなかなか見かけることのなくなったレアな親戚たちを紹介させていただきましょう。

カブラ (1993年)

 今でこそあらゆる世代から大人気のスーパーカブですが、バイクブームが熱かった80年代や90年代初めにかけてはどうだったかと言うと、若者たちにとってスーパーカブはあくまで「ビジネスバイク」。原付一種クラスのなかでも、NSR50やDioなどに対してデザインも実用一辺倒で馬力も低いスーパーカブは、正直言って趣味で乗るには避けたいバイクのような扱い。その雰囲気を変えたのが、1993年に当時は二輪用アクセサリーも手掛けていたホンダアクセスが発売したカブラ外装キットでした。 この年の第30回東京モーターショーにホンダは、スーパーカブ生誕35周年を記念した特別ブースを用意。そこにもこのカブラキット装着車が展示されたのでした。カブラは、サイドカバーやレッグカバー、テールカウル付きシートやエンブレムなど多岐に渡るカスタムパーツとしてラインアップされ、ビジネスバイク然としていたスーパーカブに、ファッションや趣味のツールとしての新しい世界観をもたらすことに大成功。

 市民権を得たスーパーカブカスタムにはサードパーティ各社も続々と参入することとなり、今の隆盛につながることとなったのでした。カブラはこのようにあくまでキットを装着したスーパーカブのカスタム車であり、正規ラインアップされた車両ではありません。ですが、90年代中~末期頃に最初からスーパーカブとリトルカブに組み込んだ完成車も、ディーラー特別仕様というかたちで販売されました。そちらは台数限定だったため、現在ではかなりのレアとなっています。

主要諸元(カブラのベース車スーパーカブ50スタンダード)■全長1800mm 全幅660mm 全高1010mm 軸距1175mm シート高735mm 車重78kg■空冷4ストSOHC2バルブ単気筒 49cc 最高出力4.5ps 最大トルク0.52kg-m■タイヤサイズF=2.25-17 33 L R=2.50-17 38 L■当時新車価格:14万9000円

ジョルカブ(1999年)

 ときは遡ること20世紀末の1999年8月。結局ノストラダムスの恐怖の大王は訪れませんでしたが、排ガス規制による2ストスクーター絶滅の危機はひしひしと迫っていました。

 ホンダはこの年の6月に皮切りとして、2ストスクーターのジョルノを4スト化したジョルノクレアを発表。ただ4ストは機構上、パワー的に2ストにはおよばないわけですね。一般消費者にとって排ガス規制はお上の都合でしかなく、どうしても商品的な魅力は落ちてしまうわけです。それに原付スクーターの需要悪化も年々深刻化していたなかで、これはどうにかせにゃならんなと誰しもが思っていたところでした。

 そんなときにジョルノクレアから、2カ月遅れて1台のユニークなマシンが発表されます。それがスクーターのジョルノとスーパーカブのエンジンを合体させたこの「ジョルカブ」。左足元にはシーソー型のチェンジペダルが生えており、これでスーパーカブ同様に4速ミッションを自分でマニュアル操作。レトロかわいいファッションスタイルに「操る楽しさ」を追加することで、若い世代にもっと原付スクーターを訴求していこうと狙った意欲作でした。 ちなみにスーパーカブのリヤブレーキは右足ペダルで操作しますが、ジョルカブでは一般的なスクーター同様の左ハンドレバー操作となっており、操作性としてはスーパーカブよりもフレンドリーです。しかし、もっと簡単な無断変速の普通のスクーターであるジョルノクレアの方が需要が高く、ジョルカブはわずか3~4年で廃版。それから20年経った今では、街で見かけることのまずない、レアなモデルになってしまいました。

 もっとも、現在では若者たちがこぞってミッション付きのスーパーカブを楽しむようになるなど、ジョルカブが目指した「操る楽しさ」の世界はしっかりと花開くことに。現代に復活したら彼らジョルカブはヒットしそうな気がします。

主要諸元■全長1660mm 全幅630mm 全高1015mm 軸距1180mm シート高720mm 車重79kg■空冷4ストSOHC2バルブ単気筒 49cc 最高出力3.9ps 最大トルク0.41kg-m■タイヤサイズF=80/100-10 R=80/100-10■当時新車価格:18万9000円

ソロ(2003年)

 ビーチクルーザーのような軽快スタイリングのオシャレなモデルは、2003年に発売されたSolo(ソロ)。このポップなマシンを生み出したのは、ホンダが2000年に若手開発者を集め、彼らの育成を兼ねつつ若者のライフスタイルに合う魅力的な製品を開発しようと立ち上げた「Nプロジェクト」という社内チームでした。このチームはエイプやズーマーといった人気車種を生み出したのですが、その第4弾となるのがSoloでした。 スーパーカブと同じエンジンと自動遠心クラッチに3段変速ミッションを採用し、初心者でも扱いやすいよう配慮しています。これを専用設計のバックボーンフレームに搭載し、ホイールには大き目の前後18インチをチョイス。リヤフェンダーごと動くスイングアームやサドルシートもなかなかイカしてました。

 Soloのネーミングの由来は、 英語の「独奏、独唱、単独の」といった意味から「自分自身で選んだ個性を演出するバイク」、「ほかにはないデザインのバイク」をイメージしたとされています。それを具現化するように、圧巻は豊富な色が用意されたタンク、フレーム、シート、フェンダーなどを組み合わせることで、なんと全285通りものパターンから選べるカラーオーダープランも設定されていたのです!

 あいにくSoloはヒットモデルとなることなく数年で生産終了となってしまったため、標準色であってもかなりのレアモデル。それだけにこのカラーオーダープランで作られたSoloは、ものによっては世界で1台きりしか存在しない可能性が高いかも!

主要諸元■全長1995mm 全幅710mm 全高980mm 軸距1285mm シート高730mm 車重77kg■空冷4ストSOHC2バルブ単気筒 49cc 最高出力3.5ps 最大トルク0.39kg-m■タイヤサイズF=70/100-18 R=70/100-18■当時新車価格:19万9000円、(カラーオーダープラン:21万4000円/21万9000円)

ベンリィ50S(1996年)/ベンリィCL50 (1997年)

 カブ系横型エンジンをスーパーカブの次に多く使った大量生産モデルとなるのは、ビジネスモデルの双璧として活躍したベンリィCDシリーズになるでしょうか。50~90まではT字型のプレスバックボーンフレームにマニュアルクラッチとロータリー4段ミッション化したエンジンを搭載し、ホイールは前後17インチ。交番勤務のお巡りさんも使っていたあのバイクです。

 1968年に登場したベンリィCDシリーズですが、じつはこのT字プレスバックボーンフレーム技術はもともと1964年に登場したスポーツカブCSシリーズのために作られたものだったのです。CSシリーズは、今で言うHRCキットにあたる、Y部品も用意された当時バリバリのスポーツモデル。この横型エンジン&T字フレームの組み合わせは、スクランブラーのCLシリーズや5速ミッションを持つロードスポーツのSS50といったモデルに発展していき、一世を風靡しました。

 さて、時代はそこから30年近く経った1996年。世はちょっとしたレトロブームになっていました。そこでビジネスモデルだったベンリィCD50&90をベースに、かつてのスポーツモデル復刻版として登場したのが、このベンリィ50S&90Sです。 基本スペックはCDシリーズとほぼ同じで、ハンドル&シートに車体色を変えることでレトロなスタイルを実現しました。50の方が、尻下がりのシングルシートやTボーンフレームがより映えるサイドカバーとなっており、雰囲気では上といった印象。翌1997年にはスクランブラーの復刻盤となるベンリィCL50も登場し、こちらはタンクやフロントフェンダー形状などもあらためられ、より造形に力が入っていました。 しかしながらどちらもヒットモデルというほどにはならず、地味なセールスが続いたあとにCL50と90Sは2001年に、50SはCDシリーズともども排ガス規制で2007年に生産終了となってしまいます。今となってはスポーツモデルとしてのT字プレスバックボーンフレームを最後まで伝えた、貴重なモデルとして再評価されてもいいのではないでしょうか。

主要諸元■全長1805mm 全幅645mm 全高950mm 軸距1170mm シート高748mm 車重76kg■空冷4ストSOHC2バルブ単気筒 49cc 最高出力4.0ps 最大トルク0.44kg-m■タイヤサイズF=2.25-17 R=2.50-17■当時新車価格:18万4000円 (諸元はベンリィ50S)

エクスプレス(1983年)

 パッと見ただけでは角目ライトのスーパーカブだ。だけど、こいつ……なんか違うぞ! 足元はフラットなフロアボードに、排気音はビービーと鳴る2スト音……。厳密にはスーパーカブの親戚とは言えないかもしれないこのマシンは、ホンダが1983年に発売したビジネススクーターの「エクスプレス」。

 エンジンにはカブとまったく無縁の5.6ps無段変速の空冷2スト単気筒を採用しながらも、ホイールにはスクーターとしては大きめの前後16インチを履き、トップケースや前カゴなどお仕事のためのオプションも充実。写真の白のほかに車体色が黒×白で前後に大型キャリアが付いたビジネスタイプもあり、そちらは遠目では見分けがつかないくらい、そのコンセプトはまさにスーパーカブをそのままスクーターにしたというものでした。

 あえて言うなら「スーツ姿でもフィットする幅広いファッション性を持ち、ビジネスをはじめ、通勤、通学、レジャーなど……」というリリースの文面から、同じビジネスでもデリバリーだけでなく銀行や保険営業などホワイトカラーも視野に入れて、もっと活躍の場を拡大しようとしていたのでしょうか。しかしながら、スーパーカブの需要には勝ることなく、気が付くといつの間にか消えてしまっていたのでした。

 そんなビジネスモデルとして登場したエクスプレスですが、筆者がこのマシンの存在を初めて知ったのは、なんとレース。90年代初頭の相模川河川敷では「サガミ・ダ・カーラ」というスクーターによるオフロード耐久レースが開催されておりました。スクーターといえば大抵10インチの小径ホイールですから、泥々のコースにみんなスタックしまくりの地獄絵図が繰り広げられていたわけですよ。

 しかし、あるときその横を大径ホイールにモノを言わせ、軽々とクリアしていく1台のマシンが現れたのです。最初は「おい、なんでスクーターレースにカブが走ってんだ」「レギュレーション違反だろ」と騒ぎかけてた周囲のチームも、やがて気付きます。「こいつカブじゃないぞ……」と。登場からすでに10年ほど経過して絶版となっていたエクスプレスは、知る人ぞ知るレア車だったのです。その圧倒的走破性でエクスプレスは一躍サガミ・ダ・カーラ最強マシンの座にのし上がり、やがて特別ハンデも付けられるという事態に。ローカルではありましたが、その活躍の場は開発者の意図を超えて思わぬところにまで拡大していたのでした。

主要諸元■全長1765mm 全幅695mm 全高995mm 軸距1180mm シート高720mm 車重61kg■空冷2スト単気筒 49cc 最高出力5.2ps 最大トルク0.63kg-m■タイヤサイズF=2.50-16 R=2.50-16■当時新車価格:13万2000円

WAVEシリーズ (1995年)

 スーパーカブは日本だけでなく、世界各地に輸出されて活躍していたのはご存知のとおり。とくにタイやマレーシアといった、東南アジアでは現地のモータリゼーションを支えるモデルとして大活躍。4輪車が普及する前の段階の「庶民の足」として広く長く愛されてきました。しかも東南アジア向けのスーパーカブは現地生産の段階に至るや、彼らの嗜好に合わせた独自の進化を遂げていったのです。

 あちらはふたり乗りはもちろん、定員外ではありますが3人乗りも当たり前の交通事情。排気量は日本で標準だった50ccや90ccからさらに引き上げられ、100ccや110cc、125ccへと次第にスープアップしてパワーアップが図られました。現在の日本で売られているスーパーカブ110の排気量設定は、じつは東南アジアから国内に舞い戻ってきたものなのです。 そして現地の嗜好がもっとも色濃く現れたのは、そのデザインでした。アンダーボーンフレームに大径ホイールを組み合わせるスーパーカブの基本構成はそのままにスポーティなデザインを融合し、実用性の高さと速そうなイメージが同居。スクーターが流行った日本に対し、まだ未舗装路が多い東南アジアの道路事情と高級車への憧れが生み出した結果と言えるでしょうか。

 その代表となるのが、今も発売されているWAVEシリーズ。日本でも並行輸入で販売しているショップがあり入手することが可能です。WAVEシリーズのようなスポーツデザインのアンダーボーンフレーム車は、他社も追従して現地のスタンダードスタイルとなりました。ただ、最近は東南アジアでもレトロブームで丸目のスーパーカブらしいデザインも大人気。もしかしたら主役が逆転するかもしれませんね。写真は2011年モデルのWAVE110iです。

主要諸元■全長1870mm 全幅709mm 全高1080mm 軸距1227mm シート高760mm 車重99kg■空冷4スト単気筒 PGM-FIシステム 109cc 最高出力8.2ps 最大トルク0.86kg-m■タイヤサイズF=70/90-17M/C 38P  R=80/90-17M/C 50P ■新車価格(最新版タイ現地):36,900 baht (バーツ = 3.43円 )より

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