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元・書店をリノベして羨ましすぎる「ガレージライフ」を実現! サラリーマンだけど「地方移住」して人生変わった

都心まで電車で1時間、のどかで暮らしやすい「エリア8.5」

 リモートワークが定着した昨今、「地方移住」する人が増えているのはご存じのとおり。そんななかでも、神奈川県のいわゆる「湘南」エリアより少し西、東海道でいう大磯~小田原の間を「エリア8.5(ハッテンゴ)」と呼んで盛り上げようという動きがある。

 東京や横浜といった都会まで比較的アクセスしやすく、それでいて不動産の相場は段違いに安くて暮らしやすい「エリア8.5」に、コロナ禍のずっと前に移り住み、趣味の「ガレージライフ」を満喫しているオーナーのライフスタイルをご紹介しよう。

商店街の店舗跡をガレージハウスにリノベーション

 なぜ東海道の「二宮」から「国府津」までの地域を「エリア8.5」と称するのかといえば、歌川広重の「東海道五十三次」で8番目の「大磯」と9番目の「小田原」の間にあるから。

 電車で品川駅まで片道1時間程度。しかも大磯駅より西だと、上り電車にほぼ確実に座ることができるため、心身のストレスを考慮すると都心への通勤はじつは「ラク」。しかも「湘南」エリアは人気で不動産の相場もまだまだ高めだが、ちょっと不動産情報を調べてみれば、大磯より西で不動産相場の「断層」があることがわかるはずだ。

 これといって有名な名物・名所こそないものの、適度に「のどか」で暮らしやすいのが「エリア8.5」なのである。

 そんな「エリア8.5」に属するJR二宮駅の近くの商店街は、昔ながらの酒屋さんや床屋さんが並んでいる一方、店舗の半分はシャッターが閉まっている状態。そんな商店街の真ん中の、かつて書店だった3階建ての家に移住してきたのが、ここでご紹介する江戸 理(えど おさむ)さんだ。

 クルマ趣味人にとって、愛車を風雨から守れる屋根付き&シャッター付きのガレージを確保できるかどうかは切実な問題だ。

 江戸さんは学生時代から多くのクルマを乗り継いだ末、イギリスのライトウェイト・オープンスポーツの雄、「ケータハム・スーパーセブン」に開眼し、2001年に「スーパーセブン40thアニバーサリー」を購入。ドアもなければ窓もなく、申し訳程度に幌はある、純然たる「趣味車」の「セブン」を中心にしたカーライフを送ってきた。

 勤め先が品川にあり、以前は都内や横浜に住んでいたそうだが、手ごろな賃貸ガレージハウス物件を見つけて、ここ二宮の地に移住してきた。そこは1階にクルマ2台を縦置きできるテラスハウスで、セブンのほかに、「ランチア・デルタHFインテグラーレEvo2」や「プジョー106 S16」、「ルノー5(サンク)GTターボ」なども所有し、ディープなクルマ趣味道をまい進する。そうするうちに奥さんと出会い、今度は家族で暮らすことのできるガレージハウスを検討することになったわけだ。

鉄骨造の広大な空間を活かし「趣味的ガレージライフ」を実現

 クルマ2台以上を収容可能なサイズのガレージハウスをゼロから建てようとすると、木造の在来工法だと構造上の制限が大きく、また、鉄骨造やRC造だとかなりコストがかかってしまう。

 それに対して、もともと1階に広い空間が確保されていて2階以上が生活スペースとなっている、いわゆる「店舗併用住宅」「倉庫併用住宅」「工場併用住宅」といった「併用住宅」を中古で購入する手法なら、ガレージ部分に最小限のリノベーション(改修)を施すだけでOK。コストパフォーマンスが抜群で、地域や物件にもよるが、土地を買う程度の価格でガレージハウスを実現することも夢ではないのだ。

 ただし「併用住宅」のたぐいは、ネットの全国区の不動産情報サイトには登録されていないことが多く、地域ごとの不動産業者に個別に問い合わせるしかない。そこで江戸さんは物件を探した末、同じ二宮町の商店街にある今の物件にたどり着いたのだった。

 推定築年数およそ20年の3階建て鉄骨造で、元店舗のスペースは間口5.7m×奥行き7.3mと申し分ない広さ。しかも玄関ホールにリフトが設置されていたため、後付けで住宅用エレベーターを設置することも可能だった。元が書店ということで、階段に収納棚が作りつけられていたのも、趣味で集めたアイテムが多い江戸さんには打ってつけだった。

 賃貸物件だったが交渉して土地と建物こみで購入し、さっそくリノベーション。シャッターの内側にあったガラス戸を取りはらい、ガレージの天井板は外したまま鉄骨材を「あらわし」にしてインダストリアルな雰囲気に。コンクリート打ち放し風の壁紙を貼って、床板を貼りなおして、雰囲気よし、余裕もたっぷりのガレージを実現した。

 現在ガレージ内には20年以上の愛車である「セブン」と、より気軽にドライブする「ポルシェ・ボクスター」の2台が収まっている。だが、じつはちょっと前まではさらにもう1台、1965年式の「フランシス・ロンバルディ・コッチネッラ」という、2代目「フィアット500」をベースにしたレアなクルマもガレージ奥に鎮座していた。小さいクルマなら、ほかに何もなければ4台詰めこめるほどのキャパシティがあるのだ。

 2階と3階の住宅部分のリノベーションにはそれなりにコストがかかったそうだが、トータルでも、ここ「エリア8.5」で一般的な建て売り住宅を購入する場合より格安で収まったとのこと。つまり、普通の会社員でも無理のない予算内で、趣味のコダワリと快適なライフスペースを実現したのである。

 こうして2014年に江戸さんはこのガレージハウスに入居して暮らしを営み、息子さんものびのびと成長して、今では小学生となっている。

 また、ずっと二宮~品川の往復2時間の通勤生活を送ってきた江戸さんであるが、昨年からコロナ禍にともない「リモートワーク」が定着したことで、東京に出社する回数は激減。「地方移住」のメリットがデメリットを大きく上まわるようになった。

「オフィス用品の会社に勤めていますので、新たなワークスタイルの良いサンプルということで、会社の人がうちに見学に来ることもありますよ」

ガレージから地域とつながり、「壁画」を通じて新たな息吹を

 こうして二宮のガレージハウスで仕事も趣味も充実したライフスタイルを実践している江戸さんであるが、彼のガレージライフは「完成してめでたしめでたし」ではない。ガレージという「場」を活かして、現在進行形で進化し続けているのだ。

 ご覧のとおり、ミニカーなどクルマ関連のグッズからビンテージ・ラジオ、シューズ、その他もろもろ、趣味なアイテムが満ちあふれている江戸さんのガレージ。商店街の真ん中に位置していることもあり、シャッターを開けていると何かのお店かと思ってのぞきこむ人も多い。

 そこで「エドヤガレージ」と称してガレージセールを定期的に開催し、自らのアイテムをセレクトして販売するだけでなく、仲間や地元の雑貨屋さんなどもジョインしたり、商店街の「マルシェ」と連動したりして、ガレージを地域の人々の交流の場として活用している。

 江戸さんのコレクションの数々はひとつひとつがディープなアイテムで、見ているだけで時間があっという間に過ぎていく。画像ギャラリーでそれらの写真をご覧いただきたい。ガレージセールの予定は、Facebookで「エドヤガレージ」と検索すれば知ることができる。

 また、昨年の秋からはガレージのシャッターと側面に「壁画」が加わり、レトロな雰囲気のただよう商店街に、現代的なアートで新しい息吹をもたらしている。

 なお壁画のオジサンふたりは、左が愛車「セブン」を生み出したイギリスの自動車メーカー「ロータス」の創始者、コーリン・チャップマンで、右は江戸さんの価値観に大きな影響を与えたイギリスのデザイナー、テレンス・コンランだ。

地域を活性化する「エリア8.5」プロジェクトをアートで支援

 さて、江戸さんガレージの壁画を手がけたのは、同じ二宮を拠点に活動しているアートディレクターの野崎良太さん(写真左)とアーティストの乙部 遊さん(写真右、別名“IKEMESO”)のふたりによるアート事業「Eastside Transition」である。

 このふたりは藤沢出身で高校の同級生。野崎さんはイギリスやオーストラリアでキャリアを積んでから日本でアパレルやインテリア雑貨などに携わってきた。一方、乙部さんは長年ニューヨークでグラフィティなど、ストリートカルチャーを背景としたアーティスト活動をしてきた。

 乙部さんが帰国して日本に住み始めたタイミングで、「アートをもっと日常に落としこんで、ハードルを下げられないだろうか?」と意気投合し、2017年からアート事業を一緒にスタートしたのだった。

 そして2019年、二宮町の国道1号沿いに、乙部さん一家の住宅とアトリエとギャラリーを兼ねた「8.5ハウス」が完成。ここから、「エリア8.5」プロジェクトが生まれることになる。

 このギャラリーはたちまち、二宮や国府津を拠点に活動している人たちの交流の場となり、そのなかには上記の江戸さんの姿もあった。「東海道五十三次」にちなんだ「8.5」という名前はもともと建築家の発案であるが、そのコンセプトにみんなインスピレーションを受けた。

「これからこの地域を”エリア8.5”と呼んで活性化し、次の世代につないでいこう!」と、地元の人々でプロジェクトを開始したのである。

 そこで野崎さんと乙部さんは「エリア8.5」プロジェクトの一員として、壁画アートをこの地域の生活空間のなかに描いていこうと考えた。それに共鳴した江戸さんが、真っ先に自らの「エドヤガレージ」に壁画アートを描いてもらったというわけだ。

 今年に入ってから壁画アートプロジェクトは本格的に動き出し、個人宅やショップ、地引網の小屋、あるいは朽ちかけていた倉庫などの壁に、乙部さんによるアートが続々と出現している。

「エリア8.5」の交流の場のひとつであり、ギャラリーとショップも兼ねる「8.5ハウス」は木曜~土曜にオープンしていて、乙部さんによるアート作品やアパレル、雑貨などを見て買うことができる。アートを身近に楽しんでほしいという趣旨ゆえ、気軽に買える価格設定だ。

 有名な観光地はマスメディアに紹介されつくして、多くの人々でごった返している。首都圏に住んでいる人は、都会からさほど遠くなく、適度にのんびりした「エリア8.5」を散歩してみるのはいかがだろう? 壁画アートを探してみるのも面白そうだ。

 そしてもしも「エリア8.5」が気に入ったなら、移り住んで「ちょっとゆとり」のある人生を楽しんでほしい。

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