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「中古価格高騰」の原因はメーカーにあり? ホンダS660が急きょ追加生産を決めた「笑えない事情」とは

S660の走行シーン

生産終了の一報に注文が殺到し即オーダーストップ

 ホンダS660は2022年3月に生産を終える。この告知を2021年3月に行ったところ、同月末には2022年3月までの生産枠が埋まり、受注も終了した。S660は生産規模が小さいからだ。

 これにはユーザーから不満の声が上がった。2021年3月の時点で「1年後の2022年3月に生産終了の予定」と聞けば、大半のユーザーは「半年以内に契約すれば購入できる」と考える。それが1カ月を経ないで受注を終えたから、不満が生じて当然だ。

程度のいい中古車は新車価格を上まわる値がつけられた

 多くのユーザーが購入を諦め、中古車はプレミアム価格で高騰した。受注終了時点の新車価格は、αが232万1000円だったが、走行距離の短い中古車は300万円を超える価格で販売されている。モデューロXは新車価格が304万2600円で、中古車価格は400万円を上まわる。比率に換算すれば、上質なS660の中古車は新車価格の1.3倍だ。

 このような状態に陥ってから半年以上を経過した2021年11月に、S660は台数限定で追加発売を行った。なぜ今ごろ、追加発売なのか。販売店に尋ねると以下のように返答された。

「S660の受注終了は、ホンダの一方的なものだった。2021年3月に生産終了を発表すると、お客さまから問い合わせが相次ぎ、販売店も商談に入った。ところが3月末ごろには来年までの生産枠が埋まり、やむを得ず商談を中止するケースも生じた。お客さまが怒るのは当たり前で、650台を追加発売することになった。この内の600台は販売店で受け付けられ、大半が商談を途中で中止されたお客さまに売られる。残りの50台はウェブサイトで受け付けて、抽選により購入できるお客さまを決める」。抽選の申し込みは2021年11月12日から12月5日までで、抽選結果は12月15日に発表される。

長期納車待ちでも期限付き受注生産にするべきだったのでは

 つまり今回の追加発売は、3月時点でS660の購入が破談になったユーザーへの救済策だ。2021年11月の時点で新たに購入を考えたユーザーは、50台の抽選で購入する権利を得られるという。極めて中途半端なやり方だ。2021年3月に生産終了を発表した時点で、例えば5月末日といった期限を決めて、受注を行うべきだった。期限までに契約したユーザーには、漏れなく生産して納車する。

 そうなればユーザーも納得して購入できて、プレミアム価格が高騰する市場の混乱も避けられた。ユーザーが欲しいクルマを購入できない、あるいは購入できるユーザーを抽選で選別するようなクルマが時々登場するが、漏れたユーザーの顧客満足度はドン底まで下がる。今回の追加発売も期限を決めて受注を行い、契約したユーザーには抽選しないで販売すべきだった。

人気モデルの集大成だけに全員が買えるようにしてほしかった!

 百歩譲って、少量生産の超高価格車ならこのような売り方が許されるかも知れないが、ホンダは大規模メーカーでS660は軽自動車だ。ホンダは売り方を間違えた。販売店も顧客に謝罪しなければならず、それが懇意の顧客であれば、なおさら困るだろう。

 日産GT-R T-specも抽選を行った。日産の販売店によると「GT-R T-specは、2021年9月に100台限定で抽選販売されている。その後、1次の抽選で漏れたお客さまを対象に、20台ほど追加した」という。

 ホンダ以外のメーカーも含めて、このような顧客を尊重しない売り方をしていたのでは、スポーツカーの売れ行きが下がるのも当然だ。メーカーの商品企画担当者に尋ねると「スポーツカーには特殊なパーツも使われ、大量な供給体制が整わないから、少量生産にしないと成り立たない事情がある」というが、ユーザーを抽選で選別する理由にはならないのではないだろうか。

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