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「カボチャの馬車」「ステルス戦闘機」「G-BOOK」! トヨタが本気を出し過ぎた「WiLL3兄弟」を振り返る

トヨタのバッジがつかない自由奔放なコンセプトが打ち出しだった

 アサビビール、花王、近畿日本ツーリスト、江崎グリコ、コクヨ、トヨタ自動車、松下電器産業(以上、2001年10月1日時点)の7社による異業種合同プロジェクトがWiLLだった。共通コンセプトは“遊びゴコロと本物感”。“ゴコロ”をカタカナ表記していたところがいかにも当時っぽいが、いずれのメーカーの商品も、「ただ優れているだけ」「実用的なだけ」ではなく、使う楽しさ、心地よさも味わえますよ……と訴求、差別化を図ることが目的だったのだろう。

 そのなかでクルマの分野から参画したトヨタが用意したのが、一連のWiLL各車だった。

カボチャの馬車をイメージしたWiLL Vi

 最初に登場したのがWiLL Vi(2000年1月)で、今から20年以上前のことになる。昨日の夕食に何を食べたかの記憶は怪しく、でも大昔のことは何故かしっかり記憶している年代の筆者は、当時を昨日のことのように覚えている。

 実車に初めて乗ったのは、千葉・幕張の某ホテルをベースに実施されたプレス向けの試乗会だった。そこで割り当られた試乗車に乗り、会場周辺の海沿いの道に繰り出し、ベンチシートにゆったりと座り走らせていると「ああ、何てホノボノとしたクルマなんだ!」と感動したことをよく覚えている。

 実車は当時の初代ヴィッツと共通のNBCプラットフォームをベースに誕生したクルマで、2370mmのホイールベースはヴィッツと共通だった。だが、“カボチャの馬車”をイメージしたというスタイルはとにかく思いのままの個性的なデザイン。

 ちなみにドアミラーはダイハツ・オプティ、サイドターンランプはマツダ・ロードスターからそれぞれ流用したもの。クリフカットというと国産車ではマツダ・初代キャロルに前例があったが、独特の逆反りしたリヤウインドウは、後席に座ると後頭部に迫る感覚があり、何もかもデザイン優先の仕上がりぶり。トランクリッドは外ヒンジ式を採用し、ボディサイドは3本のビードをプレスで入れ、昔のクルマ風の趣もあったが、時流とはまったく無関係のノホホンとした雰囲気が愛おしい……そんなクルマ。

 1.3Lエンジン(2NZ-FE型)+4速ATの動力性能は必要にして十分なもの、乗り味もクルマの性格どおりの穏やかさ。ブラウン系の内装もとにかく気持ちがホッコリとさせられるムード。2年弱と短い販売期間だったが、ほかのトヨタ車とまったくキャラクターの違う、癒し系のクルマだった。

ステルス戦闘機のようなスタイルが特徴的なWill VS

 一方で2001年4月に登場したWiLLシリーズの第2弾、WiLL VSは、第1弾のWiLL Viとは打って変わって戦闘的な雰囲気のクルマとして登場。とくにステルス戦闘機のような(そういうコンセプトだったようだ)先鋭的なスタイルは注目だった。

 分類上は4ドアのハッチバックだったが、ボディの中央には前から後ろにかけて折り目が通され、後方に向かって切れ上がったサイドウインドウも印象的だった。ダーク系を中心としたボディカラーも、ミステリアスなスタイリングを引き立てていた。

 室内も近未来的にまとめられ、十字の基準線があしらわれたメーターのグラフィックや、逆L字型のシフトレバーなどは、さながら航空機のようなイメージ。このスロットルレバーを思わすシフトレバーは、何とアルミダイキャスト製の成形品だった。

 センターコンソールの上面が水平ではなく斜めのために、たとえ一時的でも上にモノが置けない割り切りが凄い……とは、当時、実車に試乗した際に感じたことのひとつだった。片や後席はフルフラットに倒すことができ、シューティングブレークのような実用性を持っていた。

 搭載エンジンは1.8Lで2機種の設定。高性能版にはVVTL-i(連続可変バルブタイミングアンドリフト機構)を備えた190ps/18.4kg-mという性能の2ZZ-GE型を搭載し、スポーツステアATシフトマチックも採用した。あらためて手元でカタログを見ていると、今でも通用しそうな、早過ぎたコンセプトのクルマだったのではないか? という気もする。WEB限定で100台の6速MT車も発売されている。

時代を先取りしたWiLL CYPHA

 早過ぎたといえば、今の時代を先取りしたもう1台がWiLL CYPHA(サイファ)だ。登場はシリーズ最後発の2002年で、ベースはWiLL Viと同じNBCプラットフォーム。とはいえユニークだったのは、当時、トヨタが打ち出したオンラインサービスのG-BOOKを活用し、クルマからダイレクトに各種情報、コンテンツが利用できた点だ。今では当たり前になった機能だが、実験的だったとはいえ、いち早くそのスタイルを実現していたところがポイントだった。

 ただしサイバーカプセルをコンセプトにしたデザインは、コンセプトカーさながらというか、かなり飛んだものだった。筆者も試乗経験はあるが、試乗車に乗り込み、運転しているところを人から見られると思うと、かなり勇気が必要だった覚えがある。

 いずれにしろWiLL3車は、トヨタのバッジがつかないクルマだったからこその自由奔放なコンセプトを貫いたクルマばかりだった。今、もう1度作り直してもいいのではないか? とさえ思う。

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