サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

オカルトじゃない! ブレーキもハンドルの感触も良くなるトヨタの「除電運転席」に本気で驚いた

見た目は超地味だけど効果バツグンな「除電スタビライジングプラスシート」

 これは、どうしても皆さんに紹介したかったものだ。なぜなら、私が近年の自動車関連技術において、実体験を伴うものとして、感銘を受けたものの筆頭であったから。

 トヨタは、2021年11月に「カローラ」シリーズのグローバル累計販売5000万台達成を記念した特別仕様車を発売した。その特別装備のなかに、運転席に採用された「除電スタビライジングプラスシート」なるものがあり、それが安定した車両挙動や気持ちのよいドライビングに寄与すると謳われている。

「カローラ」5000万台記念モデルで初採用された新技術

 それを体験する機会を、トヨタの2021年オールラインアップ試乗会において得られた。トヨタの技術者に助手席へ乗ってもらい、「除電」機能を与えたシートクッションの前端部に、その機能を遮る布をかけたり外したりすることで、走りながらにして、その差を知るというものだった。

 そのときの印象が「ウソだろ、こんなに変わるなんて!」である。これまでもトヨタでは、走行中に帯電しやすいステアリングコラム周りや、帯電によって空気が滞留しやすくなってしまうホイールハウス内に「アルミテープ」を貼ることで、操縦安定性の向上を図るという地味な技術を採用していた。だが、この「除電スタビライジングプラスシート」の機能は、ドライバー自身に起こる帯電による車両への影響を減少させるというものだという。

 要は、車体からステアリングを通してドライバーに伝わってきてしまう静電気と、ドライバー自身が着衣やシートと擦れて生じてしまう静電気による大きな帯電を、今度はシートを通じて車体側へ逃がすものだ。そうなると車体側の帯電量が多くなってしまうのでは、と思うところだが、操縦安定性に影響の大きい部位に局部的に大きな帯電をさせることなく、車体全体で帯電できるようにするのが目的だ。もちろん、全体帯電量よりも同時にタイヤから逃げていく静電気量のほうが大きいことが前提となっている。

 理屈としては面倒だが、これにより、まずは車体に沿って流れる空気の乱れ、とくに剥離が少なくなるという。トヨタは2000年初頭ごろから、空力による操縦安定性向上を狙った「空力操安」なる言葉を使った車体の開発を行ってきていた。当然としてボディや床下の造形から得る空力性能に加えて、「エアロスタビライジングフィン」、さらに「アルミテープ」など目立たないところで、地道に空力性能を追求している。

 ただ、「TNGA」採用以前のモデルでは、プラットフォームの素性やその持てる能力から、なかなか欧州車の操安性能領域、なかでも動きの質では追いつけなかったのも事実だが、近年は車種によっては欧州車に肉薄するほど急激な性能向上を果たしてきている。そうしたなかでの、今度は「除電スタビライジングプラスシート」だ。

騙されたと思って乗ってみたら違いにビックリ!

 その採用第一号が、高級車ではなくカローラだったというのも好ましく思える。まずは、その試乗会における「カローラツーリング・ハイブリッド」での印象だが、そのカローラ自体が、先代とは比較できないレベルで、とくに安心感のある操縦安定性能と、それに乗り心地のバランスをしっかりとモノにしてきている。

 つまり、この「除電スタビライジングプラスシート」をもたない通常のモデルでも悪くないのだが、その機能の有無はすぐに知れるほどの差をもたらしていた。低い速度域では、トヨタの開発の方が自ら「ウチのハイブリッド車のブレーキコントロール性はあまり誉められたものではないのですが」と言うところが、まずブレーキペダルの踏みこみ初期の立ち上がり途中で生じがちな唐突感がならされている。そして減速時に段差なく自然に制動を行えることに驚かされる。正直、「え?」である。

 アクセルワークも同様で、とくに立ち上がりのごく初期のなめらかさが得られるようになっている。シートの除電機能を遮断してみると、実用上で支障があるようなことはまったくないにせよ、そのコントロール感は劣るようになる。発進初期、極低速だから、ここは空力領域ではないはず。ペダル操作を司るステッピングモーターなどに影響を及ぼす微小な電気ノイズが取り除かれる、もしくは減少することで、ペダル操作に対して遅れや進みなくかつ正確性を増すということらしい。

 圧倒的だったのが、空力性能向上が顕著な60km/hから上の領域では、電動パワステの制御の正確性が増すことが加わってか、直進域のステアリングの座り感に落ち着きが増して直進安定感が高まる。同時に、微舵の応答の正確性も高まる。高速道路でのジャンクションなどのコーナーでのライン取りのラクさも、さらには進入へのブレーキングのコントロール感も、失礼ながら「カローラってこんなに動的な質が高いクルマだったけ?」と思わされるくらいに、心地よい動きをもたらすようになっていた。

 これほど効果のあるものなら、特別仕様といわず、カローラといわず、どんどん採用してほしいと思った。だが、聞けば、シート表皮の材質のみならず色でもその効果に影響を受けるもので、発売にこぎつけるまで5年を要したという。簡単そうに見えて、そう簡単ではない、ということらしい。

「除電スタビライジング」機能をRAV4 PHVでも試してみた

 この、いわば驚きの試乗を終えたあとに頂いたのが、除電シート機能をどんなクルマでも試せる「簡易除電マット(仮称)」だった。手作り感満載ながら、ほかのクルマで試せるのはありがたい。まずはトヨタ車でと、「RAV4 PHV」を数日間にわたり、これを装着したり外したりしながら、多くの走行環境で違いをみてみた。

 RAV4 PHVで箱根周辺まで出かけた撮影時は、あえて帯電しやすいアクリル100%のセーターを着ていった。すると、試乗会での「除電スタビライジングプラスシート」採用のカローラほどには、あからさまに差をもたらすほどではなかったものの、何度試しても違いが生じることは間違いなかった。

 代わりによく知れたのは、帯電量に応じて、違いが生じる現象に差があること。高速道路などで除電マットを敷かずに30分ほど走り続けて、それからマットを敷くと明らかにシャキッとした直安感が得られるようになる。それだけボディへの帯電量が増しているということなのだろう。一方で、ステアフィールだけでいえば短時間で除電マットを敷く、敷かないを繰り返しても、センター域の座り感には違いが得られた。

 車重が2トンに近いRAV4 PHVは、プラットフォームもほかのRAV4とは異なり1クラス上の「ハイランダー」と共用となっている。元々どっしりとした安定感は備えているのだが、センター域のわずかな曖昧な領域に締まり感が得られるようになる。

 また、RAV4 PHVでは、ステアリングセンター域から舵を切りはじめた際に、舵力が一瞬少し抜けるような変化域を伴うなのが気になる点だったったが、ここがほぼ解消されたように感じさせたのは大きい。また高速域での乗り心地も揺れが減少するように感じられる。空力によるダンピングが効いたとでもいうべきか、落ち着きが増す印象だった。

 高速道路で渋滞が近づいてきたような際のブレーキコントロール感も、除電マットを敷く敷かないで差を感じることから、効果ありと思える。試乗会でカローラに乗ったときほど明確ではないものの、アクセルオフでの減速制御もなめらかでブレーキに移行しやすい。

 一番わかりやすかったのはワインディングをゆったりと流していくような状況で、微妙な領域でのアクセルコントロールのスムースさ、緩いブレーキから0.5Gくらいのブレーキ(ちょっと強めくらい)までのスムースなコントロール性なども高まるように感じた。

 静電気による帯電の影響ということからしてか、天候、なにより湿度によって効果の有無への影響も大きく、少なくともRAV4 PHVで「簡易除電マット」で試した限りでは、雨天の際はその差はわかりにくいようにも感じた。一方で、乾燥注意報が出ているような日は、加減速のコントロール感・安定性、乗り心地へのすべての効果を得やすいだけでなく、車両から降りた際の車体やドアハンドルでパチッとくる、あの不快な感覚や痛い思いをしないで済むこともありがたかった。

トヨタ車の「走り」の質をさらにステップアップさせる

 じつは、高速安定性や操舵フイールで定評ある、ドイツプレミムブランドの2車でも試してみたが、さらにステアリングのセンターフィールに落ち着きと正確さが得られたことには、驚きを隠せなかった。ほかでも、国産他社の操安開発担当の方に、低速域のみだが最新モデルで試してもらったところ、「ステアリングホイール自体がしっとりした感覚をもたらすようになる」との感想を頂いている。

 一方で、この「簡易除電マット」でさえこれほどの効果を感じさせたのに、車両に標準採用とするために5年を要したことは、自動車メーカーの採用基準においてはクリアしなければならない課題が多くあったことを強く思わせた。

 いずれにしても、車体に帯びる静電気と乗員の帯電がもたらす影響は大きく、除電、及びそのコントロールが、最近の電気・電動制御がマストの車両において、空力性能とともに、さまざま動的な質の向上に効果をもたらすということは知れた。だとすれば、トヨタ車がこれを拡大採用することで、またステップアップすることになるのかもしれない。

モバイルバージョンを終了