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メーカーが作ったままナゼ乗らない? クルマ好きがシャコタンだのシャコアゲだの「車高」をイジるワケ

WRXのローダウン

人はなぜクルマのサスペンションをイジるのか!?

 カスタムの王道といえば「ローダウン」だが、最近ではSUV人気の高まりとともに「リフトアップ」と呼ばれる手法も注目を集めている。市販車は自動車メーカーが緻密な設計を重ね、最良の状態で足まわりの設定を行っているにも関わらず、なぜクルマ好きたちはサスペンションを交換し「車高」にこだわるのだろうか?

クルマの用途や車種によってさまざまなサスペンション形式がある

 そもそも車高を司る「サスペンションとは何?」という初歩的な疑問から解説しよう。サスペンションとは懸架装置を意味し、クルマの乗り心地を左右する緩衝性能、操縦安定性を支えるメカニズムを指す。サスペンションは大きく分けてアーム、ダンパー、スプリングの3つの部品によって構成され、カスタムの対象となるのが基本的にダンパーとスプリングの組み合わせによる変更だ。

 その形状はメーカーや車種によってさまざまで、オーソドックスな独立懸架、商用車に多いリジットアクスル、シンプルな構造のトーションビームなどがあり、形式としてはダブルウィッシュボーン、マルチリンク、セントラルアーム、ストラットなど大きく分けて4つのタイプが存在する。最近では電子制御によって快適・最適な状況へとコントロールする電子制御のサスペンションなども登場し、クルマのサスペンションは想像以上に精緻な進化を遂げているのだ。

 サスペンションのおもな構成部品となるスプリングは、クルマの重量を支え、衝撃を吸収する役割を果たす。このスプリングの上下運動を制御するのがショップアブソーバであり、油圧ダンパー、ガスダンパー、エアダンパーなどが存在し、このふたつのパーツを組み合わせることで路面からの衝撃をボディへと伝えないようにする役割を担っているのだ。

 もちろん、そのほかにもアッパーマウントやスプリングシート、ブラケット、ブッシュなどの部品も関与してくるのだが、サスペンションのカスタムは適切なバネレートを持つスプリングと、減衰力が計算されたショックアブソーバを交換することが基本となる。

走行性能向上やスタイルを追求するワザがサスチューニング

 今回、取り上げる「ローダウン」や「リフトアップ」は、カスタムの王道的な手法であることは周知の事実。自動車メーカーが最適を求めて量産するクルマのサスペンションを交換するということは、乗り味を大きく変えてしまうことでもあるのだが、車高に手を加える理由はそこにある。一般的に「快適」さを求めたサスペンションは、良い意味で「一般的」でありクセがない。

 もちろん、その味付けはオールマイティな路面状況に適する設計であり、悪くいえば面白みがないということでもある。そのため、クルマを趣味として見た場合、スタイル重視の人は「車高が高くて、または低くてカッコ悪い」、走りを楽しみたい人は「サスペンションが柔らか過ぎて腰砕けになる」といったニッチな場面で違和感を覚えることになり、自分が求めるニーズを満たしてくれるアフターパーツ(社外品)に交換しているようだ。

海外チューナーがバブル期に一躍脚光を浴びる

 カーマニアたちが「車高」を気にするようになったのは、遠い昔に不良たちがレーシングカーを自己流で真似た「シャコタン(車高短)」から始まり、1980年代の中頃から輸入され始めた海外チューニングメーカーのコンプリートカーの存在が大きく影響している。

 当時、日本の自動車文化ではチューニングメーカーがコンプリートカーを量産することはなく「チューニング=悪」というイメージが定着していた。しかし、バブル経済が盛り上がった時代からVW/アウディはエッティンガーやABT、メルセデス・ベンツはAMGやブラバス、BMWはAHGやハルトゲ、ポルシェはゲンバラやRUF。そのほかフィアットはアバルト、フェラーリはケーニッヒなど名だたる海外チューニングメーカーが手を入れたモデルたちが日本の道を走るようになった。

 そして個性的なボディスタイルとともに、チューニングされたエンジンパワーを受け止めるサスペンションによるローダウンされた姿が、カーマニアたちを魅了。さらに、輸入車のカスタムパーツとして欧州のサスペンションブランドから、車種専用のスポーツサスキットが続々と発売されたことで、その流れが日本のカスタム市場を大きく変化させたのである。

 現在はスバル×STI、日産×ニスモ、トヨタ×GR、ホンダ×モデューロなど、メーカー系のワークスチューニングブランドがコンプリートカーをリリースすることが当たり前になっている。これも、海外ブランドであるBMWのMシリーズやメルセデス・ベンツのAMGなどの存在が大きな影響を与えたことは間違いない。もちろん、そのどれもが走行性能を向上させるサスペンションを持ち、路面とのロードクリアランスを低く保つローダウンされたスタイルがカーマニアたちを魅了している。

カスタムの多様化でローダウンからリフトアップまで多彩になった!!

 ヤンチャな違法改造から始まった「シャコタン」は、輸入車のコンプリートカーから始まった性能重視の「ローダウン」へと移行し、サスペンションは走行性能を追求する「機能部品」として認知されるようになった。もちろん、性能の追求は圧倒的多数を満足させる純正サスペンションとは異なる味付けとスタイルを提供し、最近では走行性能やスタイルだけでなく、一般量販モデルでは実現できなかった「乗り心地の向上」を追求した高級志向のサスペンションキットも登場している。

 時代は移り変わり「シャコタン」から「ローダウン」へと呼び方が変わっただけでなく、車高を下げる目的が「悪カッコイイ」から「走行性能の向上」へと変化を遂げた。また、SUVの台頭で車高をアップするリフトアップも大きなトレンドとなり、スタイルアップとともに乗り心地や走破性能の向上が求められているのだ。21世紀の訪れとともに自動車はEVやハイブリッドへとスイッチされ、新たなステージを迎えようとしている。それにともない今後はローダウンやリフトアップというカスタム手法も、新たなスタイルへと変わって行くはずだ。

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