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ズバリ「クラシックカーは何が楽しいのか?」 イギリスの名車「トライアンフ・スピットファイア」のオーナーたちに直撃

英国ライトウェイトスポーツの名車「スピットファイア」

 世界的にクルマのEV化や自動運転、コネクティビティといった次世代技術の競争が進んで「100年に一度の大変革期」と言われる昨今。「10年後には内燃機関のクルマに乗れなくなるかも?」とすらウワサされるなかでも、いや、だからこそ、何十年も前に作られたクラシックカーに「あえて乗る」という選択肢がある。

 日本では知らない人も多いイギリスのスポーツカー「トライアンフ・スピットファイア」のオーナーさんたちのツーリングにて、大昔のクルマに乗っている理由と楽しさを聞いてみた。

バイクとは別の系譜の4輪の「トライアンフ」

 まず「トライアンフ・スピットファイア」なるクルマについて説明しよう。2輪を手がける「トライアンフ・モーターサイクル」社はいまも健在であるが、じつはイギリスで1895年に創立した老舗自動車メーカー「トライアンフ・モーター・カンパニー」から1936年に分離した経緯をもつ。

 4輪のほうの「トライアンフ」社は1984年に消滅してしまったものの、数々の乗用車とともに、ライトウェイトスポーツカーの名作をいくつも生み出し、自動車趣味の世界では昔から一目おかれるブランドだ。つい先日に亡くなられた石原慎太郎さんが最初に買ったクルマが「トライアンフTR3」だったことも、よく知られている事実である。

 第二次大戦中に、「バトル・オブ・ブリテン」で活躍した戦闘機の名を冠してトライアンフが1962年に発売した「スピットファイア」。FRレイアウトの大衆車「ヘラルド」をもとに開発された小型軽量なスポーツカーで、デザインを手がけたのは名匠ジョヴァンニ・ミケロッティだ。

18年にわたり世界で30万台以上も売れた大ヒット作

 デビュー時は「スピットファイア4」というモデル名で、「4」は搭載していた1147cc直列4気筒OHVエンジンに由来。販売好調を受けて1965年にエンジン出力を63psから67psに向上させた「Mk II」へと進化した時点で、それまでの初代が「Mk I」と呼ばれるようになった。その後、67年にエンジンを1296cc/75psとした「Mk III」、70年にリヤまわりを大幅改良した「Mk IV」を経て、74年に1493cc/72psエンジンを積んだ最終モデル「1500」が登場した。

 1980年の生産終了まで、18年間で約31万5000台が作られたというから、当時いかにヒットしたかがわかるだろう。なお、イギリス車といえば右ハンドルのイメージだが、スピットファイアの大半は欧州諸国や北米に輸出されていたため、左ハンドル仕様も多く残っている。

 長いモデルライフのなかで多くのマイナーチェンジを受け、さらに製造から数十年の間に個体ごとに無数の改造を受けてきているため、まったく同じ仕様の個体は一台もない、といえるほど。それもまた、オーナー同士で集まったときの良き話題のタネとなる。

その1:普段見ている風景がまったく違ったものになる

 今回取材したメンバーのなかでもっとも最近スピットファイアのオーナーとなったのが、歴史コンテンツのプロデュースをお仕事にしている鈴木智博さん。10年ほど前からトライアンフが欲しいと思い続けていたところ、昨年の春、ご縁あって「品5」ナンバーの残る1964年式Mk Iを引き継ぐこととなった。

 これは当時、進駐軍が持ちこんだ個体で、サーキットを走るために車高やエンジンなど多くのカスタムを受けているものの、走行距離は2万km以下、ボディはノンレストアのミントコンディションだ。

「クラシックカーが持つ、独特の完成された、熟成された美しさに魅かれ、終のクルマとして生涯をともにしたいと思いました。当時のクルマに乗ると、まるでタイムリープしたような気持ちになれます。普段見ている風景が、まったく違ったものになるんです」

 とくに1964年から日本に生息し、いまと違ってパーツの調達も大変ななかで苦労して維持されてきた跡がうかがわれる個体ゆえに、英国車乗りとして服装にもこだわって乗ることで、先達のオーナーさんとクルマ自体に敬意を払いながら、クラシックカーのある生活を楽しんでいるのだそうだ。

その2:シンプルな構造で素人でもDIYメンテしやすい

 今回のツーリングを企画した松澤俊介さんは、1963年式スピットファイアMk Iを所有して16年目になる。かつて20年にわたりバイクを趣味としていて、「トライアンフ」のバイクに乗っていたこともあったそうだ。趣味性の高い4輪車に乗ろうと思い立ち、キャブレター式の後輪駆動のライトウェイトスポーツを探していくなかでスピットファイアが候補に入り、わけてもMk Iのスタイルにひと目ぼれ。

 3年がかりでようやく巡り会ったこの1963年式で日々ドライブを楽しんでいて、毎年の年間走行距離は1万~1万5000km。それゆえ足まわりやブレーキ系は数年ごとにパーツ交換・修理を繰り返しており、エンジンはフルオーバーホールし、ミッションは現在フォード製5速MTに積み替えてあり、クーラーも装着済み。手を入れていない部分はほとんどないという。

「シンプルな構造なので、ちょっとしたメンテナンスも素人でも手を出しやすいし、英国車はパーツの入手も簡単なうえに安価で維持しやすいです。趣味車として永く乗り続けるにはキャブレター式のクラシックカーが最適だと考えてます。非力なエンジンを回して走る楽しさは格別ですし、多くの仲間もできて、このような趣味を持って良かったなと思います」

その3:手間がかかるのが楽しく思えてくる

 神奈川県三浦市に2018年にオープンした「リバイバルカフェ」は、クルマやバイクが好きな人たちの間でよく知られたツーリングスポットだ。その代表である三﨑由湖さんもイギリス車を愛好し、以前は1974年式のライトウェイトスポーツカー「MG B」を所有していた。かねてよりスピットファイアに乗りたいと思っていたところ、先にご紹介した松澤さんの紹介で1965年式スピットファイアMk Iを2018年に手元に迎えたのだった。

「ワイパーやライト等々、いまのクルマにはない手作業の操作が大変でもあるのですが、逆に、手がかかるのが楽しく感じられます。クラシックカーに乗っていると、いま乗っている人、昔乗っていたという人に気軽に話しかけられて、コミュニケーションが増えました。女性のクラシックカー乗りの方と、もっと交流を深めていきたいです」

その4:よく壊れるけど直した分だけ良くなっていく

 以前は高年式のスピットファイア1500に乗っていたURAさんが、この1967年式スピットファイアMk IIIを不動状態で手に入れたのは2002年ごろのこと。そこから20年にわたりカスタムと修理を重ねてきて、ボディもエンジンも載せ替え、もはやイジっていないのはフレームとガソリンタンクとヒーターコアとシートぐらいとのこと。

 基本的にノーマルを保ちつつ、「ちゃんとしたホテルに乗りつけて大丈夫」というコンセプトでカスタムしているそうだ。

「この時代は制約が少ないので自由で個性的なデザインが良いですね。日本ではマイノリティなのでまず他人とかぶらず目立ちますし、海外ではポピュラーなのでパーツを入手して維持できます。安心して乗れないしよく壊れますが、手をかけた分だけ良くなっていきますし、出かける度に、無事に帰宅できた満足感を味わえます」

その5:古いけど好きなものを永く愛用したい

 こちらの1980年式スピットファイア1500は最終型で、バンパーのオーバーライダーがウレタン製。それを元にモディファイが施されている。じつはこちらの1500をドライブして参加したキンヤさんは、同じトライアンフ製だが「TR4A」という別のスポーツカーが愛車。この1500のオーナーは英国車つながりのご友人で、「好きに乗ってくれ」と預けられているのだった。いつ止まるかもわからない(失礼)クラシックカーを託す信頼関係というのも、ディープな趣味車ならではと言える。

「自分で所有しているのはトライアンフTR4Aです。新しいものに切り替えるのも大切ですが、古いものを永く愛用するのも大切です。なにより、好きなものは好きなんだからしょうがないです(笑)。体がもつ限りはトラ4に乗り続けて、いつか時が来たら、同じように愛してくれる人に譲りたいです」

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