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南極を走るのにオフローダーじゃなくて65年前のポルシェ! ソリとキャタピラを履いた356Aの魔改造っぷりが衝撃だった

スキーとキャタピラを履く異形のクラシックポルシェ

 普通は、「5大陸を走破した」といえば十分にワールドクラスのはずだが、彼女と彼女の「ポルシェ356A」が目指したのは、南北それぞれのアメリカとアフリカとオーストラリアにユーラシアに加え、第6の大陸、つまり「南極大陸」だった。

還暦過ぎの女性ドライバーによるチャリティ・プロジェクト

 すでに海外ニュースなどでも報じられている通り、アメリカの「ヴァルキリー・レーシング」より、アマチュアのラリードライバー、レニー・ブリンカーホフは自分と同じ1956年式のポルシェ356Aを駆って、南極大陸で356マイル(573km)を走破した。昨年末の12月22日、クリスマス直前のことだ。

 65歳の女性ドライバーと同い年の356Aの冒険は、チャリティの一環として実施された。オンラインを通じて集まった寄付金は、上記レーシングチームのチャリティ部門である「ヴァルキリー・ギヴス」から、子どもの人身売買を食い止める活動を行っているNGOに送られる。目標額は100万ドルで、今のところ60万ドルが世界中から寄せられているという。

意外にもドラシャまでは通常のラリー仕様のまま

 ベース車両は南極に挑む以前からすでに、大陸奥地や離れた長距離の都市間で行われる過酷な耐久イベントを闘ってきた、1956年式356Aのラリー仕様だ。気になるのはスキーとキャタピラ(クローラー)を履かされた、激しいモディファイぶりだ。設計とモディファイを手がけたのは、英国をベースにするエンジニアのキーロン・ブラッドレー。凍てつく極地の気温と環境に適応することが、その要件だったという。具体的には、マイナス50度からプラス55度まで運用可能で、アプローチアングルは30度、デパーチャーアングルは45度というものだ。

 意外にも足まわりは、雪上ラリーで承認される氷雪路用スパイクタイヤ装着用のセッティングが基本で、4輪ともホイールアライメントは変わらず。それどころかステアリングからドライブシャフト、サスペンションについても、ラリーのために強化された元の仕様のままだ。ただし前後車軸ともハブから先が大幅に変わっており、リヤのキャタピラの上下動を制御するための追加ショック&スプリングは備えている。

転倒・落下防止のクレバス・バーにはソーラーパネルを装備

 キャタピラを後車軸のハブそしてリヤフレームにマウントするためのアームは、熱による変性や溶接割れのしにくいT45合金を、火花の散らないTIG(タングステン不活性ガス)溶接で仕上げている。ようは少ない母材で軽く、強度の高い溶接処理がなされており、ロールケージやクレバス・バーも同じくだ。

 クレバス・バーの上面はソーラーパネルになっており、最大150Wの電力が供給可能。運転視界を妨げないよう、フロントボンネット周辺から2.1mものブリッジを介して、これまたT45合金で頑丈に製作。万が一にクレバスに落ちた際にも、浅いところで車体が引っかかるよう装着されている。

 乗員2名が補助なしで車内に乗り込めることも重要な要件で、キャビン内にはサバイバル用の防寒着、飲料水、そして通信機や12Vの低圧コンプレッサーが積まれている。ちなみにリヤウインドウは、緊急脱出口を兼ねている。

面積あたりの設置圧を大幅に減じて軽々ドライブ

 ほかに足まわりで注目すべきは、車軸のベアリングにはデュポン社による低温用グリースが用いられること。車軸やフロントのスキーも、ひとりで着脱できるよう設計されており、5cmの新雪の上で、スキーの接地圧は最大でも1インチ四方あたり1.2ポンド(=約545グラム)ほどしかない。というのも、スキーやキャタピラを装着したことで、ノーマル356Aより重量は当然増す。しかし雪上での接地圧をノーマルの車輪のたった4%以下にまで減じることに成功したため、新雪の上でも車体は沈むことはない。前輪に代わりにスキーでどう舵が効くかといえば、下面にブレードがあって、方向舵の役割を果たすのだとか。

空冷エンジン&RRレイアウトは極地で強みを発揮

 そう、キャタピラ&スキー仕様のポルシェ356Aは、見た目とは裏腹に、環境にできるだけ足跡を残さない、サステイナブルな冒険をも提案しているのだ。そのためには元の車両重量が軽く、南極で凍るであろうラジエターのない空冷エンジンで信頼性が高く、前後重量配分にも後車軸のトラクションにも優れるクルマが必要だった。そう考えるとポルシェ356Aは、むしろ極地冒険仕様として、必然の選択肢だったと結論づけられるのだ。

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