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デメリットもあるのになぜ? ロールス・ロイスやMX-30が採用する「観音開きドア」が存在し続ける理由とは

MX-30のフリースタイルドア

使ってみると実は使い勝手◎の観音開きドアのメリットとデメリット

 観音開きのドアと言えば、近年ではマツダMX-30が採用して注目を集めた。後席用ドアの面積が少なくても、前席側と一緒に両開きになることで広い開口が生まれることから、ホイールベースが短いクルマでも4ドアにしやすく、後席側からは勝手に開けられないことから、小さな子どもや高齢者の送迎にも向いているという一面もある。

 マツダでは、以前RX-8に観音開きドア(フリースタイルドア)を装備したことから、その利便性を熟知しての採用となったのであろう。観音開きドアではないが、若い人にとってはダイハツ・タントの“ミラクルオープンドア”やホンダN-VANの“ダブルビッグ大開口”のようなものとイメージしてもらえれば良いだろう。

ホイールベースが短いモデルでも開口部を大きく取ることができる

 そんな観音開きドアだが、少ないながらも採用してきたモデルが存在する。日本車では2003年に発売されたホンダ・エレメントをはじめトヨタFJクルーザーなどがあり、どちらも北米でヒットしたモデルだ。またBMWミニの第二世代で登場したR55型のクラブマンも、車体右側に通常の前席ドアに加えてクラブドアという小さなドアが備わり、後席へのアクセスを容易にさせた。法規の問題から前席ドアを開けないと後席ドアが開かないようになっており、これはRX-8やMX-30と同じだ。

 とくにこのクラブマンは全長が3980mmと短かった。そこでR55型のヒットを受けて現行のF54型でもクラブマンは設定されたが、全長は4253mmへとボディが延長されたこともあってか、クラブドアは廃止。リヤハッチのスプリットドア(観音開きドア)は継続採用となったが、これは利便性もあるのだろうがクラシックミニ時代のカントリーマンから伝統を守ったがゆえのデザインだと言える。

右側だけの観音開きドアが日本の道路事情では逆に好評!?

 R55型のクラブドアに話を戻すと、小さなドアであったが販売の現場に聞くとユーザーからも好評で、日本でのクラブマン人気は非常に高かったという。ただし、ボディ剛性確保のために右側にしか後席ドアが設けられておらず、これは販売台数が見込める右側通行の地域を優先した結果であったが、道路が決して広くない日本ではかえって良かった面もあった。

 例えば時間制限駐車区間(パーキングメーター)を利用した場合、左側からの乗り降りは非常にタイトでガードレールなどに開いたドアを接触させてしまう危険がともなう。もちろん車道側に降りるワケだから乗り降りには細心の注意が必要であったが、怪我の功名ではないが右側にあるクラブドアの恩恵を感じていたクラブマンオーナーは一定数いたそうだ。

ボディ剛性の面で不利でありコスト高になるデメリットもある

 前述の通り、コンパクトなクルマであっても後席乗員の乗降性にメリットがあるも、観音開きドアのクルマが増えていかなかったのはデメリットも存在するからである。それは開口部が広いことに起因しており、ボディ剛性や安全性の面において、クルマを作るうえで高いハードルとなるからで、ボディ剛性や衝突安全性を加味すれば、開口部が狭ければ狭いほど車両開発がしやすくなるという相反関係になる。

 例えばMX-30の後席用ドア用として車内の天井部に大きくて頑丈なドアキャッチが備わるが、強度や耐久性を考えると強度を持たせた金属を用いなければならない。結果としてコスト高につながり車両本体価格に影響する。つまり、限られたスペースのなかで後席乗員の乗降性を高めるために、開口部が広い観音開きドアを採用することで、どうしてもコストが嵩んでしまうのだ。

コーチドアはショーファーカーとしてさまざまなメリットが享受できる

 それでも観音開きドアを伝統的に採用し続けているモデルがある。それが高級車のロールス・ロイスだ。ロールス・ロイスは言わずと知れた世界最高の後席優先車両(ショーファーカー)メーカーで、伝統的に観音開きのコーチドアを採用してきた。それは高級サルーンモデルのファントムやゴーストに止まらず、2ドアのレイスやオープンカーのドーン(2ドアのため観音開きではなく後ろヒンジドア)や、最新SUVのカリナンもそうだ。

 この伝統は、ヒンジなどの構造からコーチドア(ロールス・ロイスの呼称)の方が、ドアの開口部を広く取ることができ、イブニングドレスでも乗り降りしやすいことや、後席優先の歴史が長かったことが理由だと思われる。とくに長いスカートの淑女が前ヒンジの後席に座ろうとすると、どうしてもスカートの後ろ側が車体に触れそうになって気を遣うなんて場面を思い浮かべるが、後席が後ろヒンジのコーチドアであれば、その心配も少ない。

 また、後席に座る乗員の乗降をサポートするために前席に座るお付きの方がドアの開閉を行うワケだが、コーチドアであれば後席ドアを開けるのにもスムースであり、後席ドアを閉めたあともすぐに前席に移動しやすい。さらに、後ろヒンジドアであれば車両後方に立つ形になるため前方を確認しながらドアを開け閉めできるメリットもある。やはり王侯貴族は何気ない所作も重要であり、ロールス・ロイスはそれを頑なに守ることで、ショーファードリブンの最高峰に君臨し続けているのだろう。

 観音開きドアを振り返ると、初代トヨペット・クラウンやリンカーンの一部モデルなどがロールス・ロイスと同様に採用している。こうしたドアの開き方に注目してクルマを見てみると、クルマのデザインや走行性能とは違った新たな視点に出会うことができるので非常に面白い。

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