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ホンダ・シビックは本当に凄かった! 感動必至の歴史を振り返る

パッケージングに優れていたシビック

 アコードとともにホンダの屋台骨を支えてきたシビックは、1972年の7月に登場。今年は誕生から50周年ということで、オートモビルカウンシルでも特設のコーナーで展示されていました。50年間の後期、20年ほどはモデルチェンジの度にサイズアップしているシビックですが、50周年を機に、原点をもう一度考えてみることにします。

それまでの常識や価値観を覆したコンパクトカー

 初代シビックは、本当にコンパクトなクルマでした。ボディの3サイズは3405mm×1505mm×1325mm。これは軽乗用車、現行のN-ONEと比べても10mm長く30mm幅広いだけ。2カ月後に登場したGLは大型バンパーを装着していて少し延長されていますがそれでも全長は3545mmでした。

 車両重量も630kgで、対衝突性能に関して車両規則が違っているとはいえN-ONEよりも200kg以上も軽量に仕上がっていました。そのために最高出力は60psと現在の軽自動車程度、ハイパワーモデルには遅れを取るほどですがパフォーマンスは充分。思い出してみれば大学時代の余分な2年間からサマリーマン時代の初期に、足に使っていたRSで、キビキビ以上の素早さで走り回っていたことを思い出します。

 そう、必要なのは絶対的なパワーではなく、軽量なボディと相対的に十分なパワー。そして学生時代に研究室の巡検で四国の山を走り回った経験からも、驚くほど広い室内ではなく、ふたり+αが乗り込めるだけのスペースがあれば必要にして十分、そう教えられました。

 それまでの世間の常識ではゆったりとして広い室内、有り余るパワー、そして流線形(?)の格好いいスタイリング。それがクルマの価値と思われていました。その悉くを否定したのが初代シビックでした。

 コンパクトだけれど4人が乗るには不足ない室内スペースと、数字的にはアンダーパワーなはずだけれども軽量ボディが幸いしてきびきびと動き回れるフットワーク。そしてたいていの場合は必要としていなかったトランクを切り落とし、荷物の取り出しに便利なリヤのハッチゲートを設ける。そんな、それまでの常識では売れるはずのないシビックを、ベストセラーにしたのは販売手法。

 一般的にはトップメーカーのトヨタが得意としていると思われがちですが、当時のホンダは世論を誘導してシビック=新しい格好良さをアピールしていったのです。聞くところによると、技術者としてだけでなく、デザインセンスもお持ちだった本田宗一郎さんも、シビックを最初に見たときには「チンチクリンで寸足らず」。……伝言ゲームの繰り返しで一字一句間違いがないかは自信がありませんが、そのような感想を口にされたそうです。

 しかしすぐに、その合理性を理解されたそうですが、多くのホンダファンは、この2ボックススタイルが新しい格好良さだと納得し、購入を決断することになりました。その後も公害対策……今でいうところの環境性能に秀でたCVCCを開発し、国内外のビッグメーカーにライセンス供与したり、あるいはバルブタイミングとバルブリフトを回転数や負荷などに応じて切り替えられるVTECシステムなどさまざまな新技術が盛り込まれ、シビックはロングヒットを続けるモデルに成長しました。

残念ながらモデルチェンジの度に肥大化

 初代シビックは、丸7年のモデルライフを終え1979年7月に、2代目の通称“スーパーシビック”に移行。全長が350mmほど延ばされ、全幅も75mm拡げられました。車両重量的にも90kgほど重くなっています。

 そして3代目の通称“ワンダーシビック”、4代目の通称“グランドシビック”、5代目の通称“スポーツシビック”、そして6代目の通称“ミラクルシビック”あたりまでは、モデルチェンジの度にサイズアップしていきながらも全幅1700mmの5ナンバー規格は厳守されていました。

 “グランドシビック”まではグループA規定による全日本ツーリングカー選手権(JTC)を戦っていましたから、その影響もあったのかもしれませんが、ともかく野放図に肥大化することは避けられていました。

 ところが、2005年に登場した8代目では遂に5ナンバー枠を突き破って全幅は1750mmとなってしまいました。こうなると歯止めが効かなくなったか現行の11代目では何と全幅1800mmに。トヨタはクラウンの開発に際して、全幅は1800mmまでに収める、という大原則があると聞いたことがあります。そのクラウンと全幅が同じシビックってどうなの? と思わずにはいられません。

 確かに、北米で売るためには大きなサイズが必要であるとの論も分かりますが、シビックといえばコンパクトでシンプルだった初代モデルのRS、というホンダファンにとっては納得できない論法です。しかも3ナンバーボディの4ドアセダンが先行した8代目では、ヨーロッパで確実なマーケットがあるコンパクトな3/5ドアハッチバックを、ひと回り小さいフィットのプラットフォームを使って製作するという“ウラ技”を使っているのですから、もう、何をかいわんや、です。

 もちろん3ドアハッチバックのTYPE Rが素晴らしいクルマであることはインプレッションで納得できているのですが、何だかなぁの思いが残ります。

 そんなTYPE Rと同じく、大きくなったシビックも、例えば北米仕様をアメリカで乗ったらベストサイズと思うかもしれませんし、欧州仕様をヨーロッパで乗ったら、これがベストサイズだね、と思うかもしれません。でも日本のホンダファンのほとんどが、国内で乗るためのシビックを欲しいと思っています。

 かつてホンダのオーナークラブの会報か何かで読んだのですが「世界のホンダにならなくてもいい。私たちだけのホンダであり続けてほしい」という一節がありました。もちろん、世界のホンダであるからこそ、これからも魅力的なホンダ車を造り続けてくれるのでしょうから、一節の前半はともかくとして私達が愛し続けられる、憧れ続けられるホンダであってほしいというのはファンの偽らざる想いです。

 ところで、とあるクルマファン、ホンダファンの会話です。「最近ホンダのクルマ、でかくなったよね」、「そうだよ。アコードってコンパクトな中にも上質で上品なクルマだったけどね」、「それを何だよ、さっきのアコード見た?」、「うん、見た見た」、「あんなにでかくなったら、もうアコードじゃないよね」…「ってさっきのはアコードじゃなくてシビックだった!?」。こんなジョークがジョークとして笑い飛ばせるよう、これからもホンダには頑張ってほしいものです。

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