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ホノボノ感に感動! 「どこでもドア」を標榜したゆるキャラSUV「日産ラシーン」

ユニークでマイペースなコンセプトで仕上げられていた

 “羅針盤”に由来する車名の日産ラシーンの登場は、今から28年も前の1994年12月のこと。当時、新型車が登場すると1冊まるごと本にする『CARトップ・ニューカー速報』で、ラシーンの本を作るために日産の追浜テストコース(現在のGRANDRIVE)で試乗と撮影があるとの話を聞きつけた筆者。当時の編集長に懇願し、試乗枠をネジ込んでもらった。どうしても乗ってみたかったからだった。

 こうして幸運にも一般の発売に先駆けて実車の試乗が叶い、つくづく実感したのは「何て肩のチカラの抜けた手ごろで気持ちを自由にしてくれるクルマなのだろう」ということ。新型車の試乗というと、どうしても眉間にシワを寄せてコーナーを攻めるような取材が多いなか、初対面だったラシーンのそのホノボノ感にいたく感動したことを覚えている。

 前述の“CARトップのワンメイク本”でも取り上げたのだが(そのページも担当した)、当時のラシーンのライバル車としてはトヨタRAV4や2代目スプリンター・カリブ、スズキ・エスクードなどがあった。だが、ラシーンはそのいずれをもライバル視した風ではなく、とにかくユニークでマイペースなコンセプトで仕上げられていた。さらにいえばラシーンよりも前に日産から登場した一連のパイクカーとも違う、一応は継続生産されるレッキとしたカタログモデルでもあった。

道具として使いこなしたいユーザー向けのクルマだった

 何よりも国産量産車でありながら、まるで輸入車のようにも思えるわが道を行く存在感がよかった。自分流を好み、人のことをちゃっかり真似するのも真似されるのも気持ちがムズ痒くて好まない人は少なくないと思う。筆者もそういう感覚をもつひとりだったから、一見すると何でもなく潔い風だが、じつは似た存在がほかにないラシーンは眩しいくらいに映った。

 ちなみにカタログのコピーは“僕たちの、どこでもドア”。ドラえもんをキャラクターに、最初のカタログは“発進”編と“ポイントブック”編の2部構成で、いずれも表紙には車名ロゴよりも大きく“自由・自在、RVラシーン”とある。

 発進編の中身は、イメージ写真抜きで上下開閉式バックドアなどのおもな機能、装備を写真とともにかなりこと細かに紹介。

 もう一方のポイントブックでは“どこでもドア”になぞらえて、CITY DOOR、SPORT DOOR、OFFROAD DOOR、PICNIC DOORと、アクティビティ別にアクセサリー、用品を交えた紹介がメインの内容となっている。

 いずれにしても、クルマのカタログというより、セレクトショップのカタログのような(コンランショップはまだ日本上陸前だったかも?)体裁といったらいいか。いずれにしても、ヤル気満々のカーマニア向けというより、「なんか気持ちいい道具として使いこなしたいよね」という感度でクルマに接するユーザー向けのクルマだった。

普段使いにもいいスタンスがとれるクルマだっ

 実車は当時のサニー/パルサー系をベースに、FFをメインにビスカスカップリング方式の4WD車も設定された。搭載エンジンは十分な性能を発揮する1.5LのEGIタイプ。乗り味は見た目どおりのサラッと爽やか、軽快なものだった。

 インテリアはセダン同等の着座位置で、サッと自然な所作で乗り込めた。ベンチシートではなかったが、楽な姿勢で乗っていられ、少しレトロなスッキリとしたメーターパネルのデザインもノイズが一切なく好感がもてた。

 それと何よりも好印象だったのが、クラスレス、タイムレスのプレーンなスタイリング。余分なキャラクターラインは一切なく、スクエアではあったが大きくかけられたボディ側面のRや優しいカドRが、ただのバンとはひと味違う趣を出していた。

 ホワイト、ペールグリーン、イエロー、ダークブルーのボディカラーも気の利いた色合いで、ほどよくお洒落な道具感を演出していた。既存のクルマで強いていえばジープ・チェロキーに通じるスタイリングは、とにかく気取らず、普段使いにもいいスタンスがとれるクルマだった。

 途中のマイナーチェンジでは、エンジンに1.8L、2Lの設定が加わり、4WDがビスカスカップリング方式のATTESAになるなどした。2Lは1998年に登場した“フォルザ”に搭載されたもので、このモデルは丸型4灯ヘッドライトをもち、オーバーフェンダーにより全幅が1720mm(標準車は1695mm)に拡幅。リヤクォーターとリヤまわりに専用のデザインが与えられ、よりRV色を打ち出したモデルになった。ちなみにこの時、ドラえもんに代わりムーミン(とスナフキン)が新たなキャラクターとしてカタログに登場している。

 かつてのクルマ、それも日本車というと、どうしてもヒエラルキーで価値が語られるような側面があった。そういう煩雑な事情とは無関係でいられる自由さが、このクルマ、ラシーンの魅力なのだった

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