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「今年をEV元年にしたい」! 開発のキーマンが語る三菱eKクロスEVの狙いとは

購入選択肢のひとつとして気軽に選んでもらえるeKクロスをベースにした

 2022年5月20日に正式発表された三菱の軽EV「eKクロスEV」。サイズ、重量、価格、パッケージングなどへの制約が非常に強い軽自動車の枠内で、EVをどのように作っていったのだろうか? 商品企画を指揮した商品戦略本部の藤井康輔チーフ・プロダクト・スペシャリスト(CPS)に聞いた。

プラットフォームを開発する段階でEV化を見込んでいた

──eKクロスEVの商品企画と開発が始まったのはいつごろからでしょうか?

藤井:ベース車の現行eKワゴンを開発した時点で、将来のEV化は視野に入れていましたが、実際にEVの商品企画や開発をスタートさせたのは、2017〜18年頃からになります。

──では、ガソリン車と同時並行で開発していたわけではない?

藤井:はい。プラットフォームを開発する時点で、EV化できるよう折り込んでいました。

──今回EV化するにあたり、ガソリン車からボディやシャシーをどのように変更したのでしょうか?

藤井:基本的な所は大きく変えていません。ただ、パワートレインが変わるので、フロアの形状はどうしても変更しなければなりませんでした。下まわりをご覧いただければ分かると思いますが、駆動用バッテリーのケースが下がっていたり、荷室も40mmくらい底上げされています。ですので荷室床下の容量はガソリン4WD車と同程度になっています。

 あとは遮音・制振性を高めていますね。また、リヤの足まわりですが、車重が重くなることもあり、ガソリン車の4WDモデルをベースにしています。

──足まわりのセッティングはどのように変えていますか? 車重が重くなり、パワートレインや前後の重量バランスも変わっているので、ガソリン車とは違うものにしなければならないと思いますが。

藤井:車重が重くなった分、多少硬めにせざるを得ないんですが、このクルマは日常使いがメインですので、あまりガチガチにするわけにはいきません。ですので、多少減衰力を持たせ、スプリングレートも上げながら、乗り心地も重視したセッティングになっています。

──とくにEVの場合は航続距離が大きな問題になると思いますが、シャシーや空力の面でプラスした点はありますか?

藤井:ホイールのデザインを乱流の起きにくいものにしようということはありましたが、じつは今回のeKクロスEVは、外観のデザインはほぼ変えていないんですよね。そういう意味では、空力の改良はほぼゼロに近いと思います。あとは、転がり抵抗とロードノイズを多少下げるため、タイヤの銘柄を変更しています。

──フロントグリルの開口部を狭くしているように見受けられましたが。

藤井:EV化でラジエーターの機能も変わってきます。エンジンを冷却する必要がなくなるので、フロントグリルの開口部を塞ぐことで空力は多少良くなっているとは思いますが、それほどではないと思いますね(笑)。

──今回のモーターやバッテリーなど電動パワートレインはすべて新規開発なのでしょうか?

藤井:バッテリーは新型アウトランダーPHEVでも採用しているもので、モーターはi-MiEVで使ったものの改良版です。完全新作かと言われればそうではないんですよ。

──バッテリーは、セル数を少なくして置き方も変更した、ということですよね。

藤井:はい。モーターも、効率面を含めて改良しています。

4WDモデルも検討中

──今回このEVを、eKクロスをベースにして作ることにした決め手や狙いは?

藤井:これは、専用デザインを採用しなかったことや、eKスペースをベースとしなかったことにも関連しますが、まずeKクロスの方が、eKスペースよりも日常で使われている頻度が高いということがあります。これは、航続距離を含めてEVを日常使いに最適化したいということにも合致しますね。

 また、今までEVは、特殊なもの、価格も高いという認識を皆さん持たれていたと思いますが、もっと敷居を下げて、購入選択肢のひとつとして気軽に選んでいただけるクルマに位置付けたいという想いがあって、専用デザインにはせず、まずはeKワゴン・クロスをベースにしようと決めました。もちろん、プレミアム感を大事にされる方がいらっしゃるのも事実ですが。そのうえで、ワゴンとクロスのどちらにするかということですが、三菱らしさを出していこうということで、eKクロスを選びました。

 今回、軽乗用車のEV市場に再参入することになりますが、このマーケットをぜひ作っていきたいと思いますね。「今年をEV元年にしたい」と、経営陣も声を大にして言っていますので。

──やはり、できるだけ価格は下げたかった……?

藤井:もちろん。乗った皆さんがおっしゃるのは、「走行性能が軽じゃないよね」、でも「あとは価格だよね」と。車両本体価格は「G」が239万8000円、「P」が293万2600円ですが、政府からの55万円の補助金を使えば、「G」ならば100万円台になります。さらに地方自治体の補助金もあればさらに下がりますので、地域によってはガソリン車と遜色ないレベルになると思います。残価設定型リースも、月々の支払いがガソリン車とほとんど変わらないレベルに持っていきたいですね。

──EVを購入するうえで心配になる要因のひとつはリセールバリューですね。

藤井;その辺は残価設定型リースであれば安心できますよね。

──今後のバリエーション展開拡大はどのようにお考えでしょうか? eKスペースをベースにしたEVもそうですが、今回のeKクロスEVはFF車だけですよね。

藤井:検討の候補にはもちろん入っています。そのなかでも4WD車のご要望は代表的でしょうが、EVは電子制御を緻密にかけているので、ガソリンモデルと比べると、雪道の走破性は遥かに高いんですね。ある方に言わせれば「3WDのようだ」と(笑)。2WD以上4WD未満の走破性という意味ですが、12%くらいの坂道なら難なく発進できます。

 とはいえ「4WD車でないと」という方が多いのも事実なので、検討はしていきたいと思いますが、レイアウトと航続距離が両方とも厳しくなってきます。とくに4WD車は地方のユーザーが多いので、そうするとバッテリー容量も増やさなければなりません。これらの課題をクリアしていかなければ、なかなかご満足いただけないと考えています。

──バッテリー容量は相当見切った、ギリギリの所を攻めてきたという印象を持っています。

藤井:1日の走行距離が50km未満という方がほとんどということと、無駄にたくさん積んでお金をかけるのは得策ではないという判断から、20kWhにしました。WLTCモードでの航続距離は180km、エアコンをずっと使っても130kmは走れる、2日走ってもまだ余裕があって安心できるので、ベストな選択だったのではないでしょうか。

──軽自動車の市場動向を見ると、リヤスライドドアを持つクルマ、なかでも超背高ワゴンが圧倒的売れ筋になっていると思います。しかも超背高軽ワゴンは実際の使われ方としてもヘビーデューティだと思いますので、トルクに余裕のある電動車のニーズはあると思うのですが?

藤井:検討のテーブルには載っています。実現できる所までは至っていませんが、軽自動車の需要がスーパーハイトワゴンに集中していますので、近い将来にEV化することは避けて通れないと考えています。

──今後のEVのバリエーション拡大にも期待しています。ありがとうございました!

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