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GT-Rの「プロ」が考える! RB26DETTを生かすエンジン慣らしとチューニングへの考え方

『ザウルス』林 徳利代表と愛車R32GT-Rとの付き合い方

 記録を出すためのデモカーではなく、愛車として1994年式R32型スカイラインGT-Rと向き合う。そこから見えて来るパーツの善し悪しやメリット・デメリット。埼玉県に店舗を構えるチューニングショップ『ザウルス』の林 徳利代表は、プロショップのオーナーとして、何よりもGT-Rが大好きなユーザーとして愛車と向き合う。エンジンを作り上げた後の慣らし運転からユーザーとの付き合い方まで話をうかがった。

(初出:GT-R Magazine155号)

走る実験室的に活用してパーツの実力を理解する

「ウチは売り文句を聞いただけの新製品を、お客さまに勧めるような無謀なことはしません。必ず自分が使って納得したものだけを提供します」と力説する『ガレージザウルス』の林 徳利代表。通称とっくり。

 価値観というものは人によってさまざまで、良い悪いの基準は千差万別だ。だから自分の物差しでじっくりと吟味してから、そのパーツをユーザーに提供するかどうかを決めていく。目に余るものはメーカーに意見するという。それがきっかけとなってパーツが改善されてメーカーとの関係も深まった、というエピソードは少なくない。

 気になるパーツを試すのがこのBNR32。走る実験室的な存在だ。ニックネームは「シルバーパンダ」。クルマを引退する年齢に差し掛かった常連から平成23(2011)年に格安で譲り受けた。安過ぎると主張したが、そのぶん大切に乗ってほしいというのが要望だった。並々ならぬ愛着のあるクルマだから、なんとしても気心知れた信頼できる人物に乗り継いでもらいたい。そんな願いをしっかりと受け止めた。 

一発の速さではなく耐久性と乗り味重視

「デモカーはドラッグや最高速の記録を出すことが目的だから、多少の不満は目をつぶります。オーバーホールも頻繁に行いますから耐久性もそれほど関係ない」

 しかしこのR32は違う。愛車として接しているので普段使いに耐えられることが絶対条件だ。個性的なチューニングを施せば長所ばかりでなく短所も浮き彫りになる。そんな癖のある乗り味に街中でどう折り合いをつけていくか、存分に刺激を楽しみながらその答えを模索する。 

「ショップのオーナーであり、チューナーでもあるのですが、それ以前にGT-Rが死ぬほど好きな単なるユーザーなんです。ユーザーだったら気になるパーツを見つけたら使ってみたい。それを実践している、ただそれだけです」

 話を聞いていると贅沢で羨ましいが現実はそう上手くはいかない。今や日本ばかりでなく世界中からパーツの情報が入ってくるが、良いパーツばかりではないのが実情だ。吟味するには時間も費用も掛かる。それでもユーザーに勧める以上は、自分で試さなければ説得力がない。どう良いのかをメーカーの広告通りに話してもユーザーは納得しない。本音の部分が知りたいのだ。 

「自分の言葉で話さないとユーザーにはすぐに気付かれます。大切な愛車のことなのでみんな真剣ですからね。もちろん気になるすべてのパーツを試すのは不可能なので、手に負えないときには半デモカー的な存在の昔からの常連さんに頼みます。彼らの判断基準は心得ていますから、感想を聞けばどんなものかがわかる。頼りになる仲間たちです」

 現在はTF08改タービンを使ったビッグシングル仕様。高回転型の痛快な特性は気に入っているが、ずっとこの状態で乗り続けるわけではない。気になるパーツが出てきたら、それも試したいからだ。ユーザーにオススメというパッケージングとも違う。自分とそのユーザーの使い方や好みは違うものだ。それでもTF08改の豪快具合は詳細に説明できる。このターボがどんなユーザーに向くかも引き出しの中にしまうことができた。シルバーパンダとはこうした付き合い方をしている。

エンジンを分解して確認し何をすべきか答えが見える

 譲り受けたときの走行距離は3万km台の後半。すでに2.8LになっていてVカムのステップ1がセットされていた。ターボはGT2530のツインで600psちょっとの実力。街中で扱いやすい優等生的な味付けだ。この状態でしばらく乗って、その後は気になるターボを見つけるとツイン、シングルを問わずに付け換えた。こうして優等生は徐々に刺激が加えられていく。

「ハイコンプ化も行いました。圧縮比を10.5まで引き上げたんです。どんなフィーリングになるのか、燃焼スピードを探りました。下だけは良かったな。そんな体験談も自分にとっての貴重な財産です」

 そして走行距離が8万2,000kmの時点でエンジンをオーバーホール。現在の仕様になり、慣らしのために北海道まで往復した。

「ザウルスの慣らしは走行距離では判断せず時間で管理します。3,000rpmキープで一晩で1,000km走ったからそれで終了というのでは、エンジンがモノ足りなく感じるはずです」

 推奨は30時間慣らし。渋滞や信号待ちでのアイドルングもカウントしてOKで合計30時間エンジンを回す。厳守するエンジン回転数は仕様にもよるが基本的には3,000rpm。それとブースト圧にも気を配る。大きなターボは心配ないがGT-SSクラスで2.8LのVカム仕様といった場合は3,000rpmでフルブーストになってしまうので、制御をかけて0.3kg/㎠以上にならないようにする。最初の10時間はなるべく平坦な道を選んでエンジンが喜ぶような負担の掛からない走りに徹する。次の10時間は坂道も取り入れてアップダウンを意識する。そして最後の10時間は回転数を3,800rpm程度まで上げてコーナーなども取り入れる。こうして少しずつ負荷を増やして整えていく。

慣らし時のオイル交換はシビアに行う

「オイルの汚れは10時間あたりでピークを迎えますから、必ず15時間以内に交換です。慣らし終了後のオイル劣化は少ないですが、今後エンジンは負担が掛かるので全開できる粘度にして再び交換。このときにはフィルターも新品に換えますね。慣らしは油圧がそれほど掛からないので30時間は十分持ちます」

 今までに1,300基にも及ぶRB26DETTのエンジンオーバーホールで得た極意はとてつもなく多い。オイルの劣化は汚れだけでは判断できない。酸化も調べる。確認方法は指先で感じるぬめり具合と匂いだ。RB26DETTに関して言えばカムの度数はもちろん、バルタイ変更でのエンジン音の違いさえも聞き分けられる。一般オーナーとの違いはこの経験値だろう。そこから得た知識は惜しみなくユーザーカーに注ぎ込かれる。

「仕様を決めるまでユーザーとじっくりと腹を割って話し合います。生活の中でGT-Rがどんな位置にあるのか。どこまでの負担が許されるのか。その仕様に合ったメンテナンスのことも伝えます。この段階を重視しているので電話での見積もりなどはあり得ない。店に来ても最初は自分は話しません。めげずに2度3度とやってきたら本物だと判断して深くて長い付き合いを始めます」

 ユーザーと分かち合うためにシルバーパンダで走り込み、そして感じ取る。気の合う相棒は意外なことも気付かせてくれる。

●林 徳利代表GT-R PROFILE

■所有車両:BNR32

■年式:1994年式

■乗り始め時期:2011年4月

■現在の総走行距離:8万6,460㎞

■現在の車両スペック

エンジン:HKS2.8LキットSTEP1/VカムシステムSTEPプロ改、SAURUS950㏄フューエルインジェクター、NISMO大容量フューエルポンプ×2、TF08ターボ改、TIAL60φウエストゲート、SAURUSエキマニ/90φマフラー、NAPREC大容量サージタンク/49φビッグスロットル、BLITZサスパワー SAURUSヘッドカバー/ラジエターフードトップ

冷却系:HPIラジエータ、TRUST3層インタークーラー/オイルクーラー改

電子パーツ:HKS EVC/F-CON V Pro4.0

足まわり:SAURUS REXサスペンションキット、CUSCOフロントテンションロッド/フロントアッパーアーム/リヤアッパーアーム/前後スタビライザー、NISMOフロントロアアーム/リヤロアアーム/強化ブッシュ

駆動系:ORC 1000F、ACRTカーボンプロペラシャフト、OS技研スーパーロック、SAURUS 3速クロスミッション

補強:SAURUSチタンタワーバー

エクステリア:SAURUSフロントフェンダー/ドラッグスポイラー /リヤフェンダー叩き出し

インテリア:BRIDE VIOSタイプR

ホイール:YH ADVAN Racing GT(10.5J×18+15)

タイヤ:YH ADVAN NEOVA AD08(265/35R18)

■パワー&トルク:930㎰/7,000rpm 88㎏-m/5,250rpm

(2020年9月当時)

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