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乗り手を選んでいるのかと思うほどキョーレツ! ホンダS2000の刺激的な走りに悶絶

S2000のフロントスタイル

ホンダ創業50周年記念車としてS2000が1999年にデビュー

 1999年、ホンダがリアルスポーツとして発売したS2000。ホンダはバイクで創業し、四輪は軽トラックのT360が始まりだったが、じつはこのT360が日本初のDOHCエンジン搭載車というのだから面白い。そして軽自動車やオープンのS500&S600、S800などを発表し、四輪車メーカーとしての地位をスタートさせた。ちなみに開発されたものの市販化に至らなかった軽スポーツのS360もあり、ホンダにとって「S」から始まるスポーツカーは黎明期からの重要な頭文字であった。

 とくにS600は、1964年3月からFRの2シーターオープンスポーツとして、当時の西ドイツへ輸出されるなど、日本の自動車史に残る一台と言ってよい。その後、ホンダからは数々のスポーツモデルが発売されたわけだが、1999年4月にホンダの創業50周年記念車として久しぶりのFRスポーツカー「S2000」が発売された。

軽量かつ高剛性のボディに超高回転型エンジンを搭載

 この2ドアオープンのスポーツカーはとにかくすごいクルマだった。何がすごかったと言えば、まずはボディだ。それは“屋根が開くという開放感があるから、ボディ剛性が多少緩くても良いでしょう”という言い訳を徹底的に排除。この時代のオープンカーブームの起点となったユーノス・ロードスターの登場以来、さまざまなメーカーが2シーターオープンを発売する。

 ホンダは自慢のブランド力で勝負したのだが、S2000はボディ中央に位置するフロアトンネルをメインフレームの一部として活用した。さらに、フロアトンネルと前後サイドメンバーを同じ高さでつなぐX字型の新構造(ハイXボーンフレーム)を専用開発。これにより完全にストレート化させたサイドメンバーからフロアトンネル、サイドシル、そしてフロアフレームまでがつながる「三又分担構造」を形成し、軽量かつ高剛性の両立を可能にした。

 加えて衝突安全性も追求され、前面フルラップ衝突試験55km/hや側面衝突試験50km/h、後面衝突試験50km/hを達成。さらにボンネットとワイパーに衝突軽減を施した歩行者障害軽減ボディも採用していたのだ。

 もちろんサスペンションも切れ味重視で、S2000専用のインホイール型ダブルウィッシュボーン式を新設計して採用。ブレーキもフロント16インチ、リヤ15インチ用にコンパクトなABSとトルセンLSDを組み合わせて、復活した「S」の名に恥じないスポーツカーに仕立て上げ、ふたり乗りでもメカミニマムを追求したあたりがホンダらしいこだわりであった。

 エンジンは新開発のF20C型直列4気筒DOHC VTECを搭載。リッターあたり125ps、最高出力250ps/8300rpm、最大トルク22.2kg-m/7500rpmをという超高回転型のユニットは従来の2L直4よりもコンパクトな設計とした。さらにマルチポート排気2次エアシステムとメタルハニカム触媒の採用で、冷間時の効率的な排ガスのクリーン化を実現。当時の「低排出ガスレベル」も満たされていた。これによりホンダの「S」の名に対する期待値とそれを裏切らない性能から、発売当初から排ガス性能にも優れていたS2000は高い評価を受ける。

FRスポーツらしいロングノーズの分かりやすいスタイルを採用

 スタイリングは、縦置きエンジンのFRスポーツを連想させるウェッジシェイプとエンジンを低く後方に配置するビハインドアクスルレイアウトによって、ロングノーズを印象付けるフォルムを実現。それでいてフロントフェンダーはドライバーから視認できるようにデザインされ、サーキットではコーナーへのアプローチがしやすいように配慮されたものとなっていた。

 インテリアはフォーミュラーカーをイメージした視認性の高いデジタルメーターを採用し、操作系はオーディオやエアコンも含めてメーター周りに集中。しかも中央に位置するスイッチ類は、かなり運転席側に向けた仕立ても、走りにこだわるホンダらしい設計であった。もちろん低い着座位置とフレーム構造の影響で高めに設定されたセンターコンソールが包まれ感を好演出。ドライビングシートはフルバケットシート並の身体のホールド性を目指して開発され、直径360mmという小径ステアリング(ゼロオフセット)やアルミ削り出しのシフトレバーの操作性と相まって、まさにスポーツカーと言えるコクピットがスポーティなムード満載だ。

限りなくレーシングカーに近い切れ味の鋭さを見せる

 とにかくエンジンはレッドゾーンまでよどみなく吹き上がり、最高出力250psは伊達ではないことを感じさせた。ハンドリングはノーズの長さを感じさせないキレのあるもので、ステアリングギヤボックスの剛性アップやロングアームを採用したリヤサスによって、高いトー剛性を保ちながらトーイン特性を持たせた効果によって優れた走行安定性と、サーキットを走らせればタイムに直結するような速さを追求。ゆえに走らせるステージはストリートではないことを試乗してすぐに感じとることができた。

 初期型のAP1型に搭載のF20C型エンジンは、とにかく回したくなるエンジンであり、トルクの最大発生回転数が7200rpmということで、つねに“アクセルを開けろ!”とクルマに鞭を打たれているような気にさせるものであった。ハンドリングも首都高の速度域では“もっとシャープに操作しろ!”とクルマが駄々をこねるようにも感じられ、それが逆に楽しかったりもする。これは筆者の肌感覚ではあるが、市街地では10ある能力のうち2~3程度しか発揮できないのではないだろうかと思うほど。

 ちなみに専用開発のハイグリップタイヤが装着されており、フロント205/55R16、リヤ225/50R16の各サイズは現在のクルマから見れば可愛らしいサイズに見えるが、それがキレのある走りをサポート。昔のスポーツカーのように飛ばさないとエンジンの調子が悪くなるような雰囲気に溢れていた。この感覚は運転したことがある人にしか味わうことができない、これこそAP1型S2000の本質だったように思う。

初期型は過激すぎたのかマイチェンでマイルド仕様に改良

 そんな切れ味鋭いレーシングカーのようなS2000であったが、1年後にタイプVを追加。VGS(バリアブル・ギヤレシオ・ステアリング)と呼ばれる、世界初となる車速と舵角に応じてステアリングのギヤレシオを運転状況に応じて無段階に切り替えることを可能にしたことで、「走る楽しさ」と「操る喜び」を実現。峠道ではステアリングの切り始めからレスポンス良くクルマが向きを変え、逆に高速走行時では機敏過ぎないように安定感を確保。速度域に合わせてドライバーの要望に応える仕様となっていた(筆者としては多少の違いにしか感じられなかったのだが……)。

 このVGSに合わせて専用ダンパーやスタビライザー、専用LSDが装備されたものの、ステアリングの切れ角(ロック・トゥ・ロック)が従来型の2.4回転に対して1.4回転という、ステアリングを持ちかえなくても良いほどまでに切り替わった。

 さらに後期型のAP2型は2Lから2.2Lエンジンへと排気量を拡大したことで、ドライバーが走りたいように走れるクルマへと激変した点が面白い。よく自然吸気時代のDOHC VTECをジキルとハイドで例えるが、S2000の進化(前期→後期)はまさにジキルとハイドであった。

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