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残存する「デロリアン」はタイムマシン仕様が多い!? 新型登場で再び脚光を浴びている「DMC-12」とは

ボディデザインはイタルデザインが担当

 先ごろ、オリジナルモデルから約40年の時を経てデロリアンの復活がアナウンスされ、2022年8月下旬にアメリカのペブルビーチで開催されるコンクール・デレガンスで発表されると報じられて大きな話題となりました。新型デロリアンも気になるところですが、今回は80年代に話題となったオリジナルのデロリアンを振り返ります。

バック・トゥ・ザ・フューチャーの欠かせない存在

 今回の主人公は、デロリアンDMC-12と呼ばれるスポーツカーですが、デロリアンというのはメーカー名で、車名はDMC-12。もっともDMCはデロリアン・モーター・カンパニーという社名の略称で、12と言うのは当初の発売価格1万2000ドルに由来するものとされています。ちなみに、デロリアンという会社名は当時、理想のクルマを造ろうとゼネラルモーターズ(GM)の副社長を辞して独立、DMCを立ち上げたジョン・デロリアンさんの名に因んだものでした。

 それはともかく、DMC-12は1981年から2年間で約9000台ほどが生産されています。これを多いとみるか少ないとみるかは意見の分かれるところですが、DMC-12が、その生産台数からすればはるかに大きな話題を呼んでいたのは事実です。

 というのも80年代後半に大ヒット作となった映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」三部作で登場。主人公である高校生、マーティ・マクフライの歳の離れた親友で科学者のエメット・ブラウン博士が完成させるタイムマシンのベースとなったのが、スポーツカーのDMC-12だったのです。

 このように、ある意味もうひとり(もう1台)の主人公として登場、活躍するのですが、85年に公開された第1作目は、3億8110万ドルの収益を上げ、同年の世界最高となる興行収入を記録する大ヒットとなりました。そして89年に第2作、90年に第3作が製作され「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、3部作として完成しています。そして大ヒット作の劇中車となったDMC-12も一躍有名になったのです。

 こうした経緯があるためにデロリアンDMC-12は、クルマ好きに限らず、いやクルマ好きのコアなファンよりもずっと多くの人々に知られる存在となりました。いくつもの自動車博物館を訪ねて、数多くの個体と出会ってきましたが、半数以上はクルマとしてのDMC-12ではなく、タイムマシンに改造されたムービーカー(とそのレプリカ)として展示されています。

 そして「どこどこの博物館に展示されているものが、より本物(のムービーカー)に近い」と、クルマとしての評価とは別の指標で語られることも少なくありませんでした。筆者にとって映画といえば邦画、それも高倉 健さんのファンで、洋画にはあまり興味がなかったものですから、ムービーカー(をまねた個体)に改造されたDMC-12を見るたびに哀しい想いを禁じえなかったのですが、あるとき気が付きました。

 ごくごく少数のクルマ好きには注目されていなくても、その数倍、数十倍、もしかしたら数百倍のファンに見つめられているのなら、それはそれで幸せだったんじゃないか、と思うようになっていったのです。

ロータスが設計しデザインはジウジアーロのイタルデザインが担当

 クルマとしてのDMC-12を解説していきましょう。まずメカニズムを設計したのはロータスで、エランやヨーロッパでもお馴染みとなったバックボーンフレームにFRP製のボディを架装する手法が踏襲されています。

 センタートンネルが太く、左右のシートは大きく隔たれていますが、それもスポーツカーの趣のひとつと理解すれば、不満につながることもないでしょう。アメリカ東部にあるペンシルベニア州最大の都市、フィラデルフィアから100kmほど西にあるAACA(アメリカ・アンティーク・オートモービル・クラブ)アンティーク自動車博物館には、81年式の市販モデルと76年に完成したプロトタイプの2台が収蔵展示されていて見比べることができました。

 外観のスタイリングは大きく違っていないのに、インテリアが一新されていたのは一目瞭然。プロトタイプではダッシュボードがテーブル形状となっていて広々した感がありましたが、市販モデルでは一般的なダッシュボードに変更されていました。

 そんなボディに搭載されるエンジンは、プロトタイプ時にはシトロエンCX用の2175cc(90.0mmφ×85.5mm)直4プッシュロッド・ユニットを搭載していましたが、これは112psで車両重量(市販モデルで1233kg)に対してパワー不足と判断。80年に登場した市販モデルではプジョーがルノーやボルボと共同開発した、通称PRVのZMJ 159型V6 SOHCで2849cc(91.0mmφ×73.0mm)の150hp(ヨーロッパ仕様)ユニットを搭載していました。

 ちなみに、このPRVのV6エンジンをリヤに搭載するというパッケージは、ルノー・アルピーヌA310 V6と共通です。バックボーンフレームに組み付けられたサスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン式、リヤがマルチリンク式の4輪独立懸架となっています。

 そんなシャシーに架装されるボディは、ジョルジェット・ジウジアーロが主宰するイタルデザインがデザインを担当。ガルウイングドアを持った2ドアクーペは、こうしたスポーツクーペによくみられるミッドエンジン・レイアウトではなくリヤエンジン・レイアウトを採用しています。エンジンがV6でコンパクトであることも好影響を与えているのでしょうが、リヤがボリューミー過ぎることもなく、重たい印象になっていないのは流石と言うしかありません。

 そんなうまく纏められたデザインをFRP(ガラス繊維強化樹脂)で成形して完成したボディは、表面がステンレススチールのパネルで覆われていることも大きな特徴です。ステンレスパネルは、へアライン仕上げというと聞こえがよいのですが、要は無塗装で目の粗いサンドペーパーで仕上げ加工したそのまま、という訳です。

 DMC-12というクルマ自体には何の責任もないのですが、社長のデロリアンさんがコカインの所持容疑で逮捕(のちに無罪判決が下されています)され、資金繰りが立ち行かなくなり会社が倒産して生産も中止とされてしまいました。

 しかしその数年後に映画の主人公としてあらためて注目を浴びることになったのは、はたしてDMC-12にとって幸いだったのか、それとも……。いずれにしても今では静かな余生を過ごす個体も少なくないようです。

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