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「元祖ハチロクが若者に愛された理由」ドライバーと一緒に成長する「AE86」はデートにも使えた

車体や維持費が安いうえパーツも豊富

 今も昔もドライバーを育てるクルマと聞いて、多くの人が名を挙げるであろうAE86レビン&トレノ。現在の人気ぶりはマンガ「頭文字D」による部分も大きいが、それ以前から走り屋にとっては定番中の定番マシンだった。

 プロドライバーになった人のなかには、アマチュア時代にAE86で腕を磨いたエピソードを持っていたり、AE86のワンメイクレースからプロへ進んだドライバーも少なくない。しかしエンジンはグロス130psと平凡なスペックでしかなく、GT-Rのようにレースで勝つことを目的に生まれたクルマとも違う。大衆車であるカローラとスプリンターの派生モデルが、ドラテクを磨く練習車として最適と言われた理由は何なのだろうか。

新車価格が驚くほど安かった

 最大のポイントは価格の安さだ。2ドアにしか設定されていなかった廉価グレードのGTなら約130万円、豪華装備が付いた最上級グレードであるアペックスでも約160万円と、現代と物価が違うとはいえ若者でも頑張れば手が届くプライスだった。

 約10万台も生産されただけに中古車は豊富で値落ちも大きく、平成の初期になると50万円を切るケースも珍しくなかった。筆者は20代の前半に全部で7台のAE86を乗り継いだが、もっとも高かった個体ですら諸経費を合わせて30万円。だからこそチューニング代やタイヤなどの消耗品にお金をまわすことができ、自動車税も極端に高くないうえガソリンもハイオク指定ではなかった。

 タイヤも標準といえるサイズが14インチもしくは13インチ、P.C.D.が114.3で4穴のホイールも中古がそこらじゅうに溢れており、大半のAE86オーナーは予備として数セットを持っていたと思われる。入門のN1から国内最高峰だったグループAまでレース界での活躍はよく知られているが、AE86はラリー/ダートトライアル/ジムカーナなどほかのモータースポーツでも人気だった。中古パーツや競技車両が格安で「お下がり」されたことも、腕磨きに貢献したはずだ。

チューニングパーツが豊富だった

 ふたつめは数え切れないほど存在したチューニングパーツがAE86人気の後押しをした。吸排気系にサスペンションにブレーキといったベーシックな部分はもちろん、ハイカム&ハイコンプに過給器にキャブレターと、フルチューンの手段も多様だった。

 最初はノーマルでひたすら走り込み、腕が上がったら初めてパワーアップやチューニングをしたものだ。冒頭に書いた「ドライバーを育てるクルマ」であると同時に、AE86は「ドライバーと一緒に成長するクルマ」ともいえるだろう。

パッケージングにも優れていた

 もうひとつは価格を含むパッケージとしての秀逸さが挙げられる。エンジンはグロス130psだが車重は1tを大幅に下まわっており、速すぎず遅すぎずビギナーも気兼ねなく全開できるパワーだった。加えてリヤのリジッド式サスペンションはいい意味で限界が高すぎず、リスクの少ない低速でテールスライドのコントロールを練習するのに最適であった。

 ユーティリティ性でいえばリヤシートは大人ふたりが窮屈さを感じずに座れるし、ハッチバックの3ドアは荷物を積むスペースが広く背もたれを倒せばさらに拡大。1台で走りから通勤やデートまでをすべてこなす、若者のスタイルに見事にハマったといえるのだ。

 現在のAE86の中古車相場は、程度がよければ新車時価格を軽く上まわり、純正パーツも絶版だらけで入手しにくいのが実際のところ。レストアやコンディションを維持し続けるだけでも苦労の連続で、気軽な練習車というポジションではなくなってしまったが、多くのドライバーを育て上げた功績は今後も決して色褪せないだろう。

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