体験を通してテクノロジーと「ものづくり」を学ぶ
全国の小学生を対象に、自動車を中心とした様々な分野の科学技術やものづくりに興味を持ってもらう体験型学習イベント「キッズエンジニア」。2008年から毎回場所を変えて行われているこのイベント、過去には大阪や名古屋で開催されていたが、コロナ禍により3年ぶりの開催となった今回の「キッズエンジニア 2022」は、神奈川県のみなとみらいにあるパシフィコ横浜で2022年7月29日・30日に行われ、応募に当選した子供たちと保護者が、2720名来場した。昨年好評を博したWEBから参加できる「オンラインプログラム」も用意されていたが、リアル開催となった「横浜開催プログラム」現場からレポートをお届けしよう。
現役エンジニアが講師となってレクチャー
パシフィコ横浜には、企業や大学で活躍している現役エンジニアが講師を務める「教室型プログラム」18種と、気軽に体験できる「体験型プログラム」4種の合計22種のプログラムが用意されていた。
会場に入ってみると、応募に当選し全国から訪れた小学生とその保護者しか入場できないので、コロナ禍に対応したソーシャルディスタンスが保たれていて混雑した印象を受けない。体験型プログラムもひとりひとりにきちんと丁寧に教えられるような体制が整っていて、子供たちが理解を深めている様子が見られた。
各プログラムはほぼ一斉にスタートし、1時間から2時間ほどで終了する内容となっていた。それぞれのプログラムはテーマこそ違えど、全体的に未来のクルマに通じる基礎が学べるような内容だと感じた。
自動車業界でも今や必須のコンピュータプログラミング
コンピュータプログラミング教育が必修化されている今、トヨタ、ダイハツ、日産、日立astemoの各ブースは、自分でプログラミングしてクルマを動かすプログラムであった。
トヨタでは自動運転のミニカー作りを通して、障害物にぶつからないようにゴールするという課題にチャレンジ。子供たちは何度もパソコンとコースを行き交い、最適解を追究していた。ダイハツはミニカーを使用しマップの上を走らせる技術、日産はロボットカーを用いて最新技術や仕組み、日立astemoはラインに沿って自動で動くクルマを作るという内容だ。
また、自動車技術会関東支部ブースでも、レゴキットカーを組み立てて、クルマの仕組みやプログラミングを学ぶ内容であった。さらにクルマに使われているファンをモチーフにかざぐるまの工作を体験する展示型プログラムも行っていた。どのブースでも実際に思い通りにミニカーを動かせたときの達成感は格別で、子供たちも見まもる保護者も共に喜んでいる場面が多く見受けられた。
次ページでは、その他の国産メーカーの特徴がよく出ている、趣向を凝らしたプログラムを紹介しよう。
各クルマメーカーの特徴が表れたプログラム
本田技研工業は水素を使ってクルマを走らせる実験型の体験。注射器のような器具に水素を吸い込ませたユニットを模型にセットし、実際に水素エネルギーでクルマを走らせる仕組みを理解するというものだ。水素車って案外いいかもしれないと体験を通して感じる保護者もいたようで、啓蒙されるのは子供たちだけではないことがよくわかった。子供を中心に家族や関わった大人達も意義を見いだせたのではないだろうか。
マツダはマフラー作りを通してエンジンの発生する大きな音を消音する仕組みを理解し、音の秘密を探る知識体験。世の中がEVにシフトしている中、エンジンの可能性を追究し、走る歓びをサウンドでも体感することを重要視しているマツダならではのプログラムだ。知恵を絞りながら試行錯誤してマフラーを改造している子供もいて、さすがものづくりが好きな小学生が集まるイベントだなと感じさせられた。
スバルが用意したプログラムは、4WDのスバルらしい2WDと4WDの違いを知る体験だ。坂道や階段の模型を使って、ミニカーで荷物が引けるかなどの実験を通じて、4WDの優位性を知るプログラムだ。さらに4WDのミニカーが急な坂を登っていくさまは圧巻だったようで、自分の家のクルマも4WDがいいと言い出さないか心配だと、冗談まじりに語る保護者がいたほどである。
スズキはクリップモーターで動くクルマを作るというプログラム。EVはモーターで走っているが、エナメル線でコイルを作り、ペーパークラフトのクルマを被せて走らせ、EVの仕組みを学んでいた。
三菱自動車工業はクルマの模型を使用して空気抵抗について学ぶプログラム。空気抵抗が少ないと燃費向上に繋がり、地球環境に優しいことを参加者は肌で学んでいたようだ。
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どのブースも熱気と歓声が湧き上がり、大きな盛り上がりを見せていた。今回のイベントを通して、学びや気づき、人前での発表など多くのことを経験し満足したという声をたくさん聞くことができた。
子供達のものづくりに対する真剣な眼差しはプロのエンジニアそのもの。参加した小学生が社会人になる頃の2040年には社会の脱炭素化がより重要になり、自動車もEVを中心にインフラを含め大きな技術革新が求められているだろう。それを支える主体となるのが現在の小学生世代になると思うと、こうしたイベントの価値は計り知れない。