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BMWを救った「イセッタ」はイタリア生まれだった! 冷蔵庫みたいな「バブルカー」が戦後ドイツで愛された理由

プレミアム・クラシックス製1/12モデル「BMWイセッタ」

バイク用250ccエンジンでトコトコ走る2人乗り

 第二次世界大戦の戦禍により大きな損害を受け、戦勝国・敗戦国を問わず困窮の極みにあった終戦直後の欧州。そんな戦後の欧州を中心に、必要最低限の動力性能と簡単なキャビンを備えた「ミニマム・トランスポーター」として、雨後の筍のごとく現れたのが「バブルカー」だ。現在ではドイツを代表するプレミアム・ブランドのひとつとして押しも押されもせぬBMWだが、1950年代の同社の窮状を救ったのは、イタリアにルーツを持つちっぽけなバブルカーだった。

ドイツが誇るプレミアム・ブランドBMWも戦後は困窮

 第二次世界大戦で敗戦国となったドイツ。戦時中はドイツ空軍向けに航空機用エンジンを生産していたBMWも、敗戦後は連合国側の通達により航空機エンジンの製造が禁止され、1948年から再開したモーターサイクルの生産から戦後の歩みをスタートさせた。その後1951年のフランクフルト・ショーには、メルセデスに匹敵するような高級リムジーネ(=セダン)「501」を発表。さらに1955年にはドイツの市販車としては初のV8エンジン搭載車となる「502」をデビューさせるなど、次々と高価格帯の戦後型モデルを投入していった。

 しかし当時のドイツ、そして欧州はまだ戦後の混乱が続く困窮期。多くの人々は高性能な高級車に興味を持てるような状況ではなかった。BMWは自社のラインアップに「モーターサイクル」と「高級車」の間を埋める、安価な実用車を用意する必要に迫られていたのだ。

イタリアのイソ社からライセンスを買って生産開始

 ちっぽけなキャビンがシャボンの泡(バブル)を連想させることから、「バブルカー」と呼ばれるジャンルのクルマは、ドイツでは「カビネンローラー」(キャビン付きスクーター)とも呼ばれている。もともとカビネンローラーとは、やはり戦後に航空機製造から自動車製造に転身したメッサーシュミットの「KR」シリーズが独自に名乗っていた名称だが、クルマのジャンルと性格をよく言い表しており、現在では普通名詞的に使われている。

 当時の一般的な欧州市民のために必要なのは、高級車よりもまずカビネンローラー。そう考えたBMWがコンタクトを取ったのは、イタリアのイソ社だった。1953年にイソがデビューさせた「イセッタ」は、玉子のようなボディに冷蔵庫のようなドアをフロントに備えた、2人乗りの独創的なミニカーである。

 BMWはイソからライセンスと生産設備を買い取り、イソ・イセッタの236cc 2ストローク・エンジンを、BMW R25モーターサイクル用の4ストローク単気筒250ccエンジン(後に300ccエンジンも追加)に換装、「BMWイセッタ」として1955年より生産を始める。

7年間でシリーズ合計16万台以上の大ヒット作に

 市場のニーズにうまくマッチしたBMWイセッタは、二輪からの乗り換え需要とも相まってヒット作となり、BMW四輪部門の立て直しに大いに貢献した。ベースとなったイソ・イセッタの基本設計の確かさに、かねてより評価の高かったBMW謹製のエンジンを組み合わせたこのカビネンローラーは、当時欧州に登場した類似モデルの中でもとくに完成度が高く、大きな成功を収めたのである。

 1955~62年にわたり生産されたBMWイセッタ250/300は、生産時期によってウインドウの配置やライトの形状など、いくつかのバリエーションが存在する。だが、冷蔵庫のように開くユニークなフロント・ドアや、デフを持たないナロートレッドの後輪をチェーンで駆動させるという基本構造は、生涯を通じて変わらなかった。その派生モデルとして、リヤのトレッドとホイールベースを拡大し、完全な4シーターとしたBMW600も存在する。

「ノイエ・クラッセ」からのBMW快進撃もイセッタあればこそ

 BMWイセッタで企業としてひとまずの安定を得たBMWは、1960年には「700」、そして1962年には「ノイエ・クラッセ(=新しいクラス)」と呼ばれる新型車のラインをデビューさせる。「1500」からスタートしたノイエ・クラッセは、現代のBMWの「スポーティで上質なセダン/クーペ」というイメージの原点となったシリーズだ。そしてその後のBMWの発展は、よく知られる物語であろう。

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 今回ご紹介しているミニカーは、ドイツの「プレミアム・クラシックス」というミニカー・ブランドの1/12モデル。実車の全長×全幅×全高が2355mm×1380mm×1340mmと小さいだけに、ミニカーとしては大きな1/12スケールでもなおコンパクト。しかしドイツを代表するスポーティな高級車メーカー、BMWの経営危機を救った小さなピンチヒッターは、その小さく可愛らしい姿とはうらはらに、大きな重責を果たしたのである。

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